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〇74 嫌がる姉の代わりに神龍の巫女をつとめる事になりましたが、予想以上に成長したようです
しおりを挟む「あんた良いとこ無しで、努力するしか能がないんだから私の代わりになりなさい」
しがない村娘だったパステルは、ある日姉からそう言われた。
それは両親がでかけている間、家に姉妹だけで留守番をしていた時の会話だ。
「代わりって?」
パステルは姉へ聞き返した。
「巫女になるって事よ。私、才能があったみたい。でも面倒だから嫌なの。だって巫女って大変だって聞くし」
「面倒って。巫女がいないと大変になっちゃうよ」
その世界の巫女は、数が少ない。
しかし、巫女の仕事は、神様に祈りを捧げて、大地や自然を豊かにするという重要なもの。
巫女がいない地域は、痩せて枯れていくのが普通だった。
だから、巫女の力があると分かったものは、巫女として働くのが当然だった。
けれど、ヴィヴィアンは違った。
自己中心的な考えを持っていたためだった。
「いやったら、いやなの。面倒は大嫌い! 私達は双子でしょ? 姉の私に才能があるなら、あんたにも才能があるはずよ。今度占い師に占ってもらいなさい!」
「そんな事、急に言われても」
パステルは戸惑った。
占い師は、人の才能を見抜くことができる。
この世界の常識だ。
比較的安価で占ってもらう事ができるため、市民も占い師を頼る事があった。
姉に強奪されたお小遣いで、無理やり占い師に占ってもらったパステルは、巫女としての才能がある事がわかった。
だから、だだをこねる姉の代わりに、パステルが巫女になる事になったのだった。
「すぐばれちゃうよ。だって私達二人とも占ってるし」
「間違えて同じ人が二回占ったって事にすればいいじゃない」
「それじゃ私がすごく間抜けな人みたい。それに双子だからお姉ちゃんも時期に、巫女の才能があるって言われるよきっと」
「病気のふりをするわ。今日から徐々に具合が悪いふりをしてくの。それなら、ばれても巫女にならずにすむでしょ」
「えーっ。ずるいよお姉ちゃん」
パステルの占いの結果を、ヴィヴィアンは両親に話した。
そして、近所にも話した。
それによって、パステルの退路はたたれ、巫女になるしかなくなったのだった。
そのような話の流れで、姉ヴィヴィアンの代わりに、巫女として然るべき育成施設で働く事になったパステル。
「よっ、よろしくお願いしますっ。精一杯頑張ります!」
教師となる人物に挨拶をしたパステルは、力の大きさをはかる水晶に手をかざした。
その結果を見た教師は言う。
「最低限、巫女としての力はあるみたいね。いいわ。今日から精進しなさい」
「はいっ!」
巫女を育成する施設、水晶パレスは故郷から離れた所にある。
だから、その日からパステルはずっと施設の中で生活する事になった。
まったく異なる環境に、最初こそ戸惑うパステルだったが、真面目な性格だったため、同僚達からすぐ受け入れられた。
そして、訓練にもまめに励んだため、思ったより才能をぐんぐん伸ばしていった。
一人前となり仕事になってからはその性格が災いし、何度も危険な目に遭うが。
そんな窮地を脱する事に、巫女の力は強くなり、やがて本物の巫女にもひけをとらない能力を身に着けていった。
その事を不思議に思い、同僚に相談するが。
「パステルみたいなのは、たまにいるのよね。元の力が低くても、だんだん上がってくる子が。窮地に立たされた時に、才能が開花するみたい」
まったく不自然な事ではないらしかった。
そんなパステルは、ある時神龍のお世話係を命じられた。
その頃には、パステルは国で一番の力の持ち主になっていたため、重要な仕事を任されるのはおかしな事ではなかった。
だから、パステルの仕事に反対するものはおらず、みな祝福しながら見送ったのだった。
神龍とは、神にも等しい力を持つ生命の事。
この世界を作ったのは神だが、この世界をあらゆる災いから守り続けている存在が神龍だと言われている。
そのため、力の強い巫女はその竜の世話をする決まりがあった。
「あっ、あの。これから神龍様のお世話をすることになった、パステルと言います! よろしくお願いしますっ!」
「ふむ。異例の出世を果たしたとか言う噂の娘か、これから頼むぞ」
だから、パステルはそう挨拶して、それからは神龍の元で生活する事になった。
竜の為に作られた神殿の中を行き来して、神龍の仕事を手伝っていく。
いつも通り一生懸命世話をするパステルは、やがて神龍に気に入られていく。
「そなたは真面目な娘だ。望めば、我からも力を授けよう。龍の力は強大すぎるがゆえ、そこらの人間には渡す事はできぬ。使い方を誤れば、災厄となるからな。しかしそなたなら、大丈夫であろう」
「ありがとうございますっ! 光栄です!」
そして、日々の仕事を一生懸命果たすパステルの態度が評価され、とうとう龍に認められるまでになった。
だからパステルは、近くの町で起こった自然災害で、救助と手当の応援に赴いた際にーー
「おおっ、人が生き返ったぞ!」
「すごい! 手の施しようがなかった人なのに。怪我も綺麗になくなっているわ!」
一度は心臓の止まった人間を、見事に蘇生させたのだった。
それは、神にも等しい行為
死者の復活だった。
けれど、その成功に嫉妬した姉が、パステルの元へ怒鳴り込んできた
「本当だったら今頃私がその場所にいたはずなのに、あんたがあんなに活躍するなんて! 地元ではいつも比較されていい迷惑だったわ! 妹なら姉を立てなさいよ!」
ぜいぜいと息を切らしながら、そう述べる姉。
そんなヴィヴィアンは、本当に病気になって病院で何度も治療しなければいけないようになっていた。
運悪く、流行性の病に感染し、悪化してしまったためだ。
幸いにもパステルの働きのおかげで、治療は滞りなく行えていたが、ヴィヴィアンにとってそれは自分のプライドを傷つけるものでしかなかった。
「あんたみたいななんのとりえもない妹の、お世話にならなくちゃいけないなんて! 今からでも私と変わりなさい!」
「そんなことできるわけないじゃないですかお姉様、これ以上は病気が悪化してしまいますよ」
「うるさいわね! 意見しないで!」
激高したヴィヴィアンは、パステルに掴みかかるが。
「やかましいぞ、小娘。貴様のような人間に、ここに立ち入る許可を出した覚えはない」
神龍に威圧され、つまみ出される。
それから、神殿に入る事のできなくなったヴィヴィアンは、すごすごと帰るしかなくなったのだった。
行方不明者を探す捜索隊によって、病院に収容されたヴィヴィアンは、状態が悪化してそのすぐ後に亡くなった。
だが反省はなく、最後の時まで、妹への恨み言を呟き続けていたのだった。
一方パステルは、歴代最高の巫女として、多くの人に称えられ、幸せな生涯を全うしたのだった。
「あの巫女様なら、安心して命を任せられるよ」
「見たかい、この前の治療。すばらしい腕だった」
「まるで神様みたいな人だ」
多くの人にその力を認められたパステルは、後の歴史書にのる偉人の一人になった。
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