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〇70 姉の物を何でも奪って来た私は、ざまぁされて仕返しもされたようです。けれど、手に入れたものは意地でも返しませんから
しおりを挟む――私は何でも欲しがる強欲な令嬢だと姉に思われている。その通りよ。人の物がそこにあるなら何でも奪って、自分の物にしてしまわないと気が済まないの。
貴族令嬢として生まれ育った私には、双子の姉がいる。
彼女自身は大した事していないのに、姉の回りにはいつも人がいた。
必ず助けてくれる誰かがいたのだ。
人々をとりこにするような美貌の持ち主でもなければ、おこぼれを見込めるような強大な権力を持っているわけでもない。
なのに、どうしていつも姉の回りには人がいるのだろう。
私には分からない。
そんな姉が、竜の巫女に選ばれたらしい。
この世界には竜の神が存在する。
はるか昔に、この世界をつくったとかいう偉い神様だ。
だから、そんな神様の巫女に選ばれる事は名誉な事らしい。
私は姉をねたんだ。
姉には輝かしい魅力なんて、何一つない。
なのに、どうしていつも姉ばかりが、私が欲しいと思った物をかすめとっていくのだろう。
私はいつも、姉を見るたびに「この盗人女め!」と思っている。
そんな姉は、私に弱い。
きっと欲しいものを何一つ手にできない私の事を哀れんでいるのだろう。
私が「ねえ、お姉さま、それちょうだい」とちょっと欲しがるだけで恵んでくれるのだから、私の心はいつも満たされないままだ。
姉の友達、姉の大切な道具、思い出の品物。どれを奪ってもだ。
今回もそう。
巫女の立場が欲しい、なんて言ったら、姉はすぐにそれを譲ってくれた。
分からない、どうしてそんなに簡単に自分の物を人にあげられるの?
姉には欲がないの?
私は、一度手にしたものは二度と手放さない。
満たされないこの心を満杯にするには、要らないものでもいっぱい手に入れるしかないと思っているからだ。
姉は私の事を強欲だと思っている。、それはある意味正しくて間違い。
けれど、本当の意味で理解してはいないのだろう。
譲られた物を手にした私を見て、姉はいつも哀れむような視線を送っているのだから。
私が頑張っても得られない物を、そんな風にどうして簡単に捨てられるのか、そっちの方が分からないわよ。
私は姉が憎かった。
巫女の地位を譲られた姉は、私の前から去っていった。
けれ少し失敗。詳しく話を聞いていなかったからだ。
私が就いた巫女という立場は、何なのか。何をすればよいのか分からないのだ。
面倒な事でなければいいのだけれど。
悩むそんな私の前には、竜がいる。
巨大な体の竜は、何十メートルもあろうかという大きな翼を羽ばたかせて、自分のその威容をこれでもかという風に、ちっぽけな人間へと見せびらかしていた。
何者でも敵わないような竜にも、力を誇示するという欲求があるのだと思ったら、急に恐ろしい生き物でも何でもないように見えた。
所詮この世に、恐怖心を抱かない生き物など存在しないのだ。
そう思うと、何だか無性におかしくなった。
「あははっ」
愉快そうに笑い声をあげた私を怪訝に思ったのだろう。
竜が、不機嫌そうな声をあげた。
そして、その竜は大きな口をあけて、私を食べようとこちらに迫ってきた。
ああ、そういう事だったのか。
姉がいつもよりすんなり私にくれたから、おかしいと思ったのだ。
竜の巫女は竜に食われる。
その身を、竜に捧げる事で、竜に仕えるのだろう。
やけに素直に渡してくれたと思ったら。
これで仕返ししたつもりなのだろうか。
ざまぁみろと思っているに違いない。
けれど私は両手を広げて竜を見上げてみせた。
巫女という立場だけでなく、竜神も手に入れられるなんて。
これ以上ない成果だった。
強欲を自称する者として、なんてすばらしい実績なのだろう。
これでやっと、私は満たされるのだ!
「あはははははっ!私の勝ちよ! ざまぁみろお姉様」
私は歓喜の叫びをあげながら、その竜に食べら――
――断絶した意識が復帰したのはそれからどれくらい後の事だろう。
竜に食べられた私は、死ななかった。
姉に騙されて、神龍の元に赴き、気が付いたら死んでいた。
はたからみたらとんだ末路だ。
でも、私はこれ以上ないくらい満たされている。
だって、神を手に入れたんですもの。
強欲な私の魂は、どうしてか竜と相性が良かったらしい。
きっと何でも思い通りに手に入れてきた神だから、相性があったのだろう。
そうでなければ説明がつかない。
食べられてとりこまれた私の心は、竜と一つになった。
そして長い年月を生きてきた影響ですりへってしまっていた竜の魂を、上書きしていったのだ。
今、この時から私は竜神になったのだ。
とりあえず、これから何も知らない姉にやり返しに行こうかしら。
私は満足したけれど、姉にやられて事は根に持っているのよ。
だから、復讐してやろう。
私をはめてくれたあの姉に。
待っていてねお姉さま。
なんでもあっさり手放すお姉さまから、これでもかというくらい全部奪って、自分の行いを後悔させてあげる。
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