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〇63 悪役令嬢は、自らすすんで悪事に手を染める

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 その世界では、誰かが罪をおかさなければならなかった。
 誰もが綺麗に生きられたら、それが良かったけれども。

 現実は非情。
 理想通りにはいかない。

 誰もが綺麗に生きたいと思っても。

 だけれども。

 現実にそうしてしまったら多くの犠牲が出てしまうだろう。

 だから、罪を犯す人間が必要だった。





 私は乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。

 絵物語などではない。

 大団円などではない。

 厳しく過酷な世界に。

 守れるものを守るためには、犠牲が必要だという、そんなリアルな世界に。

 だから私は、悪役であるというその役目を全うする事にしたのだ。

 罪を犯す、その役目をーー







 その乙女ゲームの世界では、最終的にラスボスを倒す必要がある。

 しかしそのラスボスを倒すには、悪役である私がこの手で復活させなければならなかった。

 他の誰かでは、だめなのだ。

 ラスボスに親和性の高い闇の魔力を保有しつつ、人一倍プライドが高くて自我が強く、のっとられにくい私が。

 私は転生者で、元の悪役令嬢とは別人だけども、精神的な部分ではよく似ていたようだ。

 幼い頃から負けず嫌いで、人に劣る事をよしとしない。

 その世界の悪役令嬢に転生する者としては、適格な存在だったはず。






 だから私は、罪を犯した。

 ラスボスである邪神を、復活させた。

 その後は、邪神の言いなりになって、色々な悪事に手を染めた。

 必要な悪だった。

 私には、全てを救うための知恵などなかったから。

 もしも私が役目を果たさずに、のうのうと生活していたとしたら。

 他の人がラスボスを復活させていたら。

 ヒロイン達は、予想外の問題が起きた時、対処できなかったかもしれない。

 ラスボスの封印はほころびかけていて、邪神が復活するのは時間の問題だった。

 なら、状況をコントロールできる私が罪を犯した方が良い。

 だから、私はシナリオ通りに悪役令嬢の役目を果たしたのだ。







 そして数年後。

 ヒロインと攻略対象達は、無事に邪神を倒した。

 私は、当然罪に問われた。

 その結果、国外追放された私は、魔の森をさまよう。

 魔物がひしめく、危険地帯に。

 人間などは、とても生きてはいけない。

 もうじき私は死ぬだろう。

 けれど後悔はない。

 私は、家族や友人、大勢の人たちが生きるこの世界を守れたのだから。

 プライドが高いから、助けを求める事なんてしなかった。

 置手紙なども用意しなかった。

 誰もが私を悪人だと指をさし、石をなげるだろうけれど。

 いつでも見守ってくれていた、家族。

 ヒロインだと分かる前に自分もそうなれればと憧れた、優しい友人。

 攻略対象だと判明する前に一目ぼれした初恋の人。

 彼等を守る事ができたのだから。

 後悔なんてものは、何もない。

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