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〇61 悪役令嬢は極悪人になりたかった

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 なんでこんな事になってるのよぉぉぉっ!

「私は、悪役令嬢なのよっ!!」

 ヒロインをいびって、いじめ倒して、扇でばっさばっさしながら「おーっほっほっほ」なんて高笑いするあの悪役令嬢なのよ!

 それなのに、なんで「今まで私達のために、頑張ってくださったんですね! ありがとうございます!」なんて、言われちゃってるのよ!





 異世界転生が発覚したのは一年前。
 原作が始まるちょいまえね。

 乙女ゲームの世界に悪役として転生した。それが分かった私はうろたえなかった。

 むしろ喜んで、悪役令嬢街道をまっしぐらに突き進んだわ。

 えっ?

 つっみこどころがある?

 スルーして!

 なんでそんな事をしたのかって?

 悪役はカッコいい。私憧れてる。

 それでいいじゃなない。

 それで、目指すべき悪役像を胸に秘めて悪事を働いていた私は、ある日気が付いてしまったのよ。

 これまでのように、悪口を言ったり、陰からこそこそ嫌がらせしているだけじゃ、しょせん小物にしかなれないって。

 だから私は、表面で善人面・仲間面しながら、いざという時に仲間を裏切るような極悪人になろうと決めたの。



――(理想)
主人公「仲間だと思っていたのに! どうしてこんな事を!」
私「裏切る? それは仲間だった人間に言ってほしいわね? だって私は元から仲間なんかじゃなかったもの」



 くぅぅぅっ、しびれる! かっこいい!

 けれど、どうしてか現実は変なのよね。



――(現実)
主人公「私達の成長のために、あえて悪役を演じるなんて。なんて良い人なんでしょう」
私「えっ?」



 どうしてよっ!
 どうしてこうなっちゃうのよ!

 おかしいでしょぉぉぉっ!

 私ちゃんとやったわよね。

 最後、ラスボスの味方になって、主人公達をうちのめそうとしてたわよね。

 なんて落ち込む私を、ペットのわんこがなぐさめる。

「わんっわんっ」

 最近拾ったわんこよ。ありがとう。でも、今はそれ要らない。
 場がなごんじゃうでしょ。

 あと、家においてきたのにいつの間についてきたの?

 私は手頃なモフをモフりながら、動揺する心を鎮めにかかる。






 この局面は乙女ゲーム最終局面。

 悪役令嬢がラスボスと共に主人公と戦う場面。

 でも、結果はラスボスだけ倒れて、私は無傷。

 主人公達は私の事を敵だとみなさなかったらしい。

 なんでよ!

 そりゃ、死んじゃったらまずいからちょっと手加減はしたけどさ。

 戦力が足りなかったときのために、兵士とかを秘密裏に待機させちゃったりしたけどさ。

 あと主人公達が、愛の力でパワーアップする伝説の武器を手に入れてなかったから、さりげなくイベント発生地点の地図を目につくところに置いといたけどさ。

 全部バレないようにやったじゃない!

 すると、主人公が「私達、知ってるんです」と喋り始めた。

「貴方が力を抑えるブレスレットをしている事を」

 げっ!

「それに、近隣の村々の自警団や兵士達に声をかけてまわった事を」

 げげっ!

「伝説の武器の場所も教えてくれた事を!」

 げげぇっ!

 ど、どうしてよ~っ!!

 そこまで私を辱めて主人公は、満面の笑顔になって私のペットを見つめた。

「わんっ」
「その子が全部教えてくれました」

 犯人はお前かぁぁぁ!

 でっ、でも一体どうやって!?

 すると、今までただのペットだったわんこが、まばゆい光を放って変身。

 イケメンの美男子になった。

 えっ?

 なにがどうなってるの?

「うむ、我が主の役に立てて何よりだ」

 まっ、まさか隠し攻略対象!

 私、自分がやった乙女ゲームの世界に転生したから、ここまで原作知識を活かしてきたけど、前世の調査不足で一人だけ情報がなかったから困ってたのよね。

 それがこの隠しキャラ!?

 まさかこんな所で、足元をすくわれるなんて。

 台無しよ! 私の極悪人変身けいかくがっ。





 崩れ落ちる私の横でイケメン隠しキャラと主人公達が、勝手に仲良くなり始める。

「我が主は、悪党ぶっているが内心はとても優しくて思いやりがあるのだ。これからは仲良くしてやってほしい」
「まあ、そうだったんですね。もちろん私達も仲良くしたかったんです!」

 やりなおさせて!

 こんなのなし!

 認めないったら認めないわよ!

 はぁ、この世界もゲームみたいにセーブ&ロード機能があればいいのに。

 そうしたら今度はきちんと、極悪人になってみせるのに。

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