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〇58 悪役令嬢はただ孤独に生きたくなかった
しおりを挟む前世はお金持ちの家の女の子だった。
「ごめんね。お金持ちの子とあそぶと面倒だからって、ママとパパが」
「友達でしょ? だったらお金くらいかしてよ」
「お金持ちなんだから、ちょっとくらい分けてくれもいいじゃない。どうせたくさんもって、贅沢してるくせに」
こんな人生いやだ。
別の人生がいい。
そう願ったからか、その女の子は新しい人生を与えられた。
ーー普通の子のように生きて、普通に友達を作って、普通に恋をしたい。
ーー町でみかけるあのゲームみたいに。
けれどそれは女の子を苦しめるできごとでしかなかった。
その悪役令嬢は戦いたいと思っている。
世の中に蔓延する、理不尽な暴力と。
抗えぬ権力と。
悪役令嬢は、名家の娘に生まれた。
しかし、誰よりも権力というものを嫌っていた。
それは、幼い頃にあった出来事が原因だった。
悪役令嬢には、友人がいた。
平民の友人が。
しかし、友人はある日忽然と姿を消してしまった。
貴族と関わることがふさわしくない。
そう考えた者達の手によって。
だから、悪役令嬢は抗うことにした。
今の世の中、権力は絶対の力だった。
だからそれに抗おうと。
悪役令嬢はやがて、強大な力を持つ者と、手を組む。
そして、裏の世界で暗躍し、権力が効かない世界を作り出そうとしていた。
それは、悪役令嬢が当初描いていた、血の流れぬ穏やかな計画ではなかった。
しかし、悪役令嬢はどうしても、理想の世界を作りたかった。
そのため、当初の計画からかけ離れていったとしても、止まることはできなかった。
あいかわらず、権力が絶対の力であり続け、弱者が虐げられる世界だったからだ。
そんな悪役令嬢だが、ある日気の良い友人たちに出会う。
「私達と、友達になりませんか?」
その者達は生涯の友と言ってもいい相手となった。
やさしく、おだやかで、思いやりがある人々。
彼等は、穏やかな方法で世界を平等にしたいと考え、悪役令嬢も一時はそれに同意していた。
しかし、道は交わらなかった。
問題は、悪役令嬢の心が揺れていた時期に起こった。
悪役令嬢は、恋に狂った、
そしてそれは、人間関係を壊してしまった。
その果てに、悪役令嬢はもっとも忌み嫌っていた力を、権力の力を、よりによって自身が使ってしまった。
悪役令嬢は、歪んだ世界に染まってしまった自信の手を見て、絶望した。
その事が影響して人が寄り付かなくなり、いっそう孤独となった悪役令嬢は、穏やかな方法で世界を平等にする事を諦める。
かねてからの協力者と共に、権力の効かない世界を作るため、再び行動を始めた。
最終的に、悪役令嬢は倒れ、かつて恋をした男性にとどめをさされる事になった。
悪役令嬢は自分の目的を隠すため、嫉妬ゆえの犯行だったと告げる。
自分の想いが、新しい世界を作ろうとする彼等の足手まといにならないように。
恋した男から、落胆と憐みの視線を受けながら悪役令嬢はこの世を去った。
死のうふちで悪役令嬢は気付く。
すべての始まりの想いを。
世界のためなどではなく、ただ自分が孤独になりたくなかったからだと。
「どうして友達と一緒にいちゃいけないの?」
「それはお前が貴族で、相手が平民だからだ」
「ただ一緒にいるだけでもだめなの?」
「一緒にいるのもだめだ。ふさわしくないからだ」
彼らとともに穏やかな方法で世界を変えていけたのなら、その願いはその時点でもう叶っていたという事に。
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