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〇53 悪人の血を恐れていた悪役令嬢は、国から追放されたかった
しおりを挟む私の使用人、転生者というものらしい。
それで、この世界は乙女ゲームの世界であるんです!
とか言ってきた。
さらに、私は悪役令嬢で、破滅する可能性があるらしいんです!
とも言ってきた。
普通なら、頭の様子を疑う言葉だし、信じたとしても受け入れられない言葉だと思う。
けれどーー
それを聞いた時、私はウェルカムだった。
「破滅するですって!? そんなの最高じゃない!」
だって別に、今の生活に未練なんてないもの。
「えっ????? お嬢様、いまなんて?????」
なんて言った、その時の使用人の顔は、愉快でまったく忘れられないわね。
私はそこそこの家の者。
貴族のご令嬢というやつだ。
家の人間達は野心が高くて、常に上を上をと求めている。
だから、私に対する愛情はなくて、自分達のために娘をいいように動かそうとしか考えていない。
そんな者達は家族でも何でもない。
だから、縁をきろうと思っているんだけど。
脱走しても護衛に連れ戻されるし、
評判を落として追放されようとして、ちょっと悪戯してみても富と権力でもみけされる。
まったくやっかいな家だった。
けれど、乙女ゲームとやらのシナリオ通りにふるまっていれば、確実に断罪されて、この家を追い出されるらしい。
なら、迷う事はない。
求められている通り、悪役を演じてあげようじゃないか。
そういうわけで、私は悪役令嬢らしくふるまう事にした。
けれど、事前に未来の知識を知っているからか、つい手加減してしまうのよね。
「風邪ひいてるのに、体育倉庫にとじこめるってやりすぎじゃない?」
「大切な形見なのに、これを壊しちゃうのはちょっと」
「こんなところで迷子にさせちゃったら、生きて帰れなくなっちゃうかもしれないわ」
だからそのたびに、防寒グッズも一緒に放り込んどいたり、
形見を遠くへ投げる時に、クッション性の高いしげみに向けて投げるようにしたり、
迷いやすい森の中に看板を設置しておいたりした。
我ながら中途半端な事をしているな、と思っているけど。
私が自由になった陰で誰かが苦しむのは、かなり心苦しいし。
あらかじめ、それほど悪女になってない状態で未来の事を知ってしまったから。
自分がどれだけ非常識な事をする存在なのか、分かっってしまっているもの。
いじわるをする人って、どうして自分を客観的にみれないの?
って前々から思っていたけど、せっぱつまっていたら、そんな余裕なくなっちゃうわよね。
きっと本来の私は、このまま家に縛られた人生が永遠に続くのだと思って、とても苦しかったんでしょうね。
でも、今の私には希望があるからーー。
そんなこんなで繰り返した悪役令嬢的行動は、一応成功。
私は見事断罪されて、家と国を追放される事になった。
ちょっと危ないかなと思ったけど、ちゃんと断罪されてよかったわ。
「これで、自由の身だわ!」
いま、私は馬車に乗せられて国を出た所。
目の前に延々と続く街道が、希望の道に見えてくる。
しかし、そこに思わぬ魔の手がしのびよってきた。
馬に乗った使用人が近づいてきて、私が乗った馬車を止めてしまう。
御者とあれこれ話している。
そしてなんと私が乗った馬車が、今まで来た道を引き返していくではないか!
「お嬢様! 国王陛下にじきじきにかけあった結果、追放処分を取り消しにする事ができました。これで戻れますよ!」
「ええっ! ちょっと何言ってるのよ! せっかく追放されたのに!」
「何言ってるのよ、はこっちのセリフですよ。あたたかな布団も、お世話する人もいないのに、あなたみたいな生粋の貴族が生きていけるわけないですから」
「生きていけるわよ! 気合があれば!」
「お気に入りのぬいぐるみがないと寝られないと最近まで手放せなかった人が!?」
「んなっ」
「お化けが怖いからと、トイレにいけない人が!?」
「ちょっ」
「雷がなるとおへそをとられると信じて、布団にもぐりこんでいた人が!?」
「あああああ! 何言ってるのよ!」
「つまりどうやっても一人で生きていくなんて、無理だって言いたいんです。ほら、早く戻りますよ!」
「いやーっ、ちょっと人の苦労を水の泡にしないでよ!」
叫ぶ声もむなしく、国を出たばかりの馬車はまた中に入ってしまった。
頭を抱えるしかない。
馬車で並走する使用人が、理解できないという顔で話しかけてくる。
私は一瞬使用人を無視して、馬車の窓を閉めてやろうかと思ったがーー。
「お嬢様はなんでそう極端なんですか。家の者を逆に陥れるとか、他の性格の良い貴族にとついで幸せになるとか色々やりようはあるでしょう」
確かに一度は考えた事だ。
使用人が言うような事を。
けれどーー。
とりあえずその事については話をしておかなければと思った。
「私は悪役令嬢よ。未来の罪も私の罪。関係ないなんて思えないわ」
だから、そうやって幸せになるのは違うと思ったのだ。
「起こっていない事は罪などではありません。まさかそんな事を気にしていらしたんですか」
けれど、使用人には理解されない事柄だったらしい。
だって、私は「娘を道具の様にしか見られない両親の子供」。
その血が受け継がれているかもしれなくて、何かのひょうしで人に迷惑をかけてしまうかもしれないのだから。
「この世に完璧な善人と悪人がいるわけではないんですから。誰だって悪人にも、善人にもなりえるんです。お嬢様がそんな事いいだしたら、この世界の人ほとんどが悪人になってしまいますよ」
「でも、私は未来が分かってるじゃない」
「絶対の未来なんてありません」
やけにきっぱりと断言する使用人に、あっけにとられてしまう。
どうしてそこまで自信満々にいいきれるのだろうか。
「どうしても自信がないというのなら、私が傍でじっと見守っていますから。間違えそうになったら、私が責任をもって正します。今の様に」
そういいつつも。
使用人は、私が「人間として間違えない」と信用しきっているようだ。
そうしてそこまで信じられるのだろうか。
神様でもないのに。
「だから、ほら。戻りましょう。今度は正規の方法で、正しい方法で自由を掴むために」
私は膨れ面をするしかなかった。
ここで追放されていったら、目の前の使用人の努力が無駄になってしまうから。
「はぁ、あなたなんて拾うんじゃなかったわ」
子供の頃、道端に倒れていた子供を、気まぐれで拾ったのが始まりだった。
深い意味や優しさがあったわけではないのに。
使用人はまるで、私にも善人の部分があるのだというように、優しいまなざしを向けてくる。
「余計なもの、拾っちゃったわね」
「なんてこと言うんですか。私は天に、毎日この巡りあわせへ感謝しているというのに」
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