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〇47 気味の悪い聖女と結婚したくなかったので婚約破棄したとたん国が滅んでしまった
しおりを挟むどこかにある、その施設の中で、とある少女が生き延びた。
その少女は、生き残れなかった友の体を抱いて、涙をこぼす。
そして最後の言葉を聞いた少女は決意した。
「私達みたいな子供がいなくなるように、して。この国の偉い人に真実を伝えてほしい」
「うん」
すでにその心はボロボロだったものの、ボロボロのまま歩くだけの力はまだ湧いてきていた。
「その人が信じられる人なら、伝える」
だから少女は、友に別れをつげて、施設の外へと歩き出した。
どんな傷も癒す聖なる力を、その手に携えて。
俺には結婚の約束をした女がいた。
けれど、その女は俺の好みじゃなかったから、あれこれ難癖をつけたり、濡れ衣を着せたりして婚約を解消した。
そしたら、なぜか国が滅んでしまった。
一体なぜ、こんな事になってしまったのだろう。
「王子にお似合いの婚約者ですぞ」
「あんな素晴らしい人物を婚約者にできるなんて、王子は幸せ者ですな」
「これでこの国の未来は明るい! 民達の祝福する声が城の内部まで聞こえてきそうです」
周りの者がぜひ婚約者に、とすすめてきた女。
だから、言われるがままに、俺は婚約していた。
他の人間にそんなに褒められるなら、と興味が湧いたのだ。
どんな女かと思った。
だが、あまり俺の好みではなかった。
一目見た時に、失敗したと思った。
生気のない瞳、そして表情の変わらぬ顔、病的なまでに青白い肌。
その女からは、人を寄せ付けない雰囲気を感じた。
実際に喋ってみたらどんなものかと思い、話しかけてはみたが。
その女は、
「はい」
「そうですね」
「その通りです」
しか言わない。
コネだけで成り上がったそこらの無能なお偉いさん、(自称)重要人物の方がよっぽど会話できるものだ。
だから俺は、さっさと婚約破棄しようと思ったのだ。
周りの者に愚痴を言ったら「国一番の聖女なのですぞ。一体何がご不満で?」と信じられないような顔をされるばかりなので、自分一人で準備を行わなければならなかったのは大変だった。
俺はしばらく、妻となるその人間の様子を観察した。
王宮では、俺の妻になるための教育を受けていたらしいが、成果は出ていなかった。
成績はいつも悪い。
その女は、とりたてて何かに秀でているようには見えなかった。
しかも、覚えも悪いし、容量も悪い。
なぜこの女を、みなが心底褒めるのが理解できなかった。
ただ、聖女としての力が強いだけで、女としての魅力はないし、頭もよくない、傍においていても楽しくない。
だから俺は、何かにつけて教育現場にのりこみ、あれがだめだ、これがだめだと難癖をつけた。
口うるさく文句を言えば、心を病ませる事が出来るかと思った。
自分から婚約は嫌だと言い出すかと思ったが。
女は特に答えた様子がなかった。
こうなったら、悪事の濡れ衣を着せてやろうと思い、実際には起こっていない事件をでっちあげて、女を糾弾した。
しかし何かあっても、必ず周りの者が擁護するため、これも成果が実らず。
「国の沽券にかかわる」とかなんとか。
そこで女が、
「濡れ衣です」
「罪などおかしておりません」
とか弁明をしていれば、まだかわいげをかんじられたものの。
濡れ衣を着せられている間も、ずっと無反応だったのが気味が悪い。
だから、俺は最終手段として、その女を亡き者にしようとした。
高い所からつき落としたり、逆に高い所から地上を歩いているその女めがけて物を落としたりした。
毒を使ったりしたこともあったな。
けれど、女は死ななかった。
血まみれで病院に運ばれた翌日には、けろっとした顔で退院してしまう。
これは、好きになるとかそういう問題ではない。
人としてどうこう思うよりも、同じ人間として見る事ができなかった。
だから、俺はどうしてもこの女と一緒になりたくなかったため、必死になって婚約破棄するための計画を練った。
一人の医者を脅して、金をにぎらせて、偽の健康診断書を作らせた。
子供をつくる事ができない。
という診断書だ。
俺と一緒になる者に求められるのは、権力だったり、実績だったり、さまざまなものがあるが。
最も大事なものの一つが子供を授かる能力だ。
それが欠けていたならば、もうその女は用済み。
俺の思った通り、これまでその女を擁護してきた連中は、手のひらを返して婚約破棄に賛成してきた。
これで、やっとあの女を妻にせずに済む。
そう思ったのだが。
婚約破棄の意思を伝えたとたん。
その女からあふれ出したとてつもない光が辺りを満たしていた。
そして、一瞬後、国が壊滅していたのだ。
女の近くにいた俺だけが無事だった。
一体何が起こったのか分からない。
俺は女を問いただした。
襟首をつかみ上げて、「何をしたか説明しろ!」と怒鳴った。
女は、その時になってはじめて、決められた言葉以外の事を喋った。
「聖女育成施設の地下をごらんなさい」
答えを求めていた俺は、女に言われた場所に行ってみるしかなかった。
女はそれ以外、何も話さなかったからだ。
この国には、聖女を育成するための施設がある。
そしてその地下には、国の暗部を秘めた、特別な場所があると聞いたことがあった。
俺がそこに行ってみると、その場所は無事だった。
地下だったからなのか、女が意図的に滅ぼさなかったからなのかはわからない。
だから俺は、その施設が何をやっていたのか知る事になったのだ。
地下施設にはおびただしい子供の亡骸があった。
そして生きていた子供を拷問していたであろう拷問道具も数多く残されていた。
拷問で死んだ子供を処理するための部屋には、狂暴な動物がひしめいていた。
奥には、これから拷問される予定らしい子供が、檻の中に入っていて、生気のない瞳でどこかを見つめていた。
表情のない顔に、病人の様に白い肌。
その子供達の特徴は、全てあの女にあてはまるものだった。
内部にあった資料を調べてみるとその施設はどうやら、俺の親父が用意したものらしかった。
俺は全てを知ったとたん、その場に崩れ落ちた。
その俺の背中に、人の気配が近づいてくる。
振り返る気力は、もうなかった。
「これで、絶望した?」
私達と同じように、と女が続けるまでもなかった。
そうだ、俺は絶望した。
こうなるべくして、こうなったのだから。
俺の視界が聖女の光で白く染まっていく。
目の前には、おびただしい子供達の亡霊が俺を見ているような幻覚。
その子供達が、俺を恨めし気に見ている。
俺はそれに、何も言えずに命を落とす事になった。
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