上 下
47 / 90

〇47 気味の悪い聖女と結婚したくなかったので婚約破棄したとたん国が滅んでしまった

しおりを挟む



 どこかにある、その施設の中で、とある少女が生き延びた。
 その少女は、生き残れなかった友の体を抱いて、涙をこぼす。

 そして最後の言葉を聞いた少女は決意した。

「私達みたいな子供がいなくなるように、して。この国の偉い人に真実を伝えてほしい」
「うん」

 すでにその心はボロボロだったものの、ボロボロのまま歩くだけの力はまだ湧いてきていた。

「その人が信じられる人なら、伝える」

 だから少女は、友に別れをつげて、施設の外へと歩き出した。

 どんな傷も癒す聖なる力を、その手に携えて。







 俺には結婚の約束をした女がいた。

 けれど、その女は俺の好みじゃなかったから、あれこれ難癖をつけたり、濡れ衣を着せたりして婚約を解消した。

 そしたら、なぜか国が滅んでしまった。

 一体なぜ、こんな事になってしまったのだろう。





「王子にお似合いの婚約者ですぞ」

「あんな素晴らしい人物を婚約者にできるなんて、王子は幸せ者ですな」

「これでこの国の未来は明るい! 民達の祝福する声が城の内部まで聞こえてきそうです」

 周りの者がぜひ婚約者に、とすすめてきた女。

 だから、言われるがままに、俺は婚約していた。

 他の人間にそんなに褒められるなら、と興味が湧いたのだ。
 どんな女かと思った。

 だが、あまり俺の好みではなかった。

 一目見た時に、失敗したと思った。

 生気のない瞳、そして表情の変わらぬ顔、病的なまでに青白い肌。

 その女からは、人を寄せ付けない雰囲気を感じた。

 実際に喋ってみたらどんなものかと思い、話しかけてはみたが。

 その女は、

「はい」
「そうですね」
「その通りです」

 しか言わない。

 コネだけで成り上がったそこらの無能なお偉いさん、(自称)重要人物の方がよっぽど会話できるものだ。

 だから俺は、さっさと婚約破棄しようと思ったのだ。

 周りの者に愚痴を言ったら「国一番の聖女なのですぞ。一体何がご不満で?」と信じられないような顔をされるばかりなので、自分一人で準備を行わなければならなかったのは大変だった。

 俺はしばらく、妻となるその人間の様子を観察した。

 王宮では、俺の妻になるための教育を受けていたらしいが、成果は出ていなかった。

 成績はいつも悪い。

 その女は、とりたてて何かに秀でているようには見えなかった。

 しかも、覚えも悪いし、容量も悪い。

 なぜこの女を、みなが心底褒めるのが理解できなかった。

 ただ、聖女としての力が強いだけで、女としての魅力はないし、頭もよくない、傍においていても楽しくない。

 だから俺は、何かにつけて教育現場にのりこみ、あれがだめだ、これがだめだと難癖をつけた。

 口うるさく文句を言えば、心を病ませる事が出来るかと思った。

 自分から婚約は嫌だと言い出すかと思ったが。

 女は特に答えた様子がなかった。

 こうなったら、悪事の濡れ衣を着せてやろうと思い、実際には起こっていない事件をでっちあげて、女を糾弾した。

 しかし何かあっても、必ず周りの者が擁護するため、これも成果が実らず。

「国の沽券にかかわる」とかなんとか。

 そこで女が、

「濡れ衣です」
「罪などおかしておりません」

 とか弁明をしていれば、まだかわいげをかんじられたものの。

 濡れ衣を着せられている間も、ずっと無反応だったのが気味が悪い。

 だから、俺は最終手段として、その女を亡き者にしようとした。

 高い所からつき落としたり、逆に高い所から地上を歩いているその女めがけて物を落としたりした。

 毒を使ったりしたこともあったな。

 けれど、女は死ななかった。

 血まみれで病院に運ばれた翌日には、けろっとした顔で退院してしまう。

 これは、好きになるとかそういう問題ではない。

 人としてどうこう思うよりも、同じ人間として見る事ができなかった。

 だから、俺はどうしてもこの女と一緒になりたくなかったため、必死になって婚約破棄するための計画を練った。

 一人の医者を脅して、金をにぎらせて、偽の健康診断書を作らせた。

 子供をつくる事ができない。

 という診断書だ。

 俺と一緒になる者に求められるのは、権力だったり、実績だったり、さまざまなものがあるが。

 最も大事なものの一つが子供を授かる能力だ。

 それが欠けていたならば、もうその女は用済み。

 俺の思った通り、これまでその女を擁護してきた連中は、手のひらを返して婚約破棄に賛成してきた。

 これで、やっとあの女を妻にせずに済む。

 そう思ったのだが。







 婚約破棄の意思を伝えたとたん。

 その女からあふれ出したとてつもない光が辺りを満たしていた。

 そして、一瞬後、国が壊滅していたのだ。

 女の近くにいた俺だけが無事だった。
 
 一体何が起こったのか分からない。

 俺は女を問いただした。

 襟首をつかみ上げて、「何をしたか説明しろ!」と怒鳴った。

 女は、その時になってはじめて、決められた言葉以外の事を喋った。

「聖女育成施設の地下をごらんなさい」

 答えを求めていた俺は、女に言われた場所に行ってみるしかなかった。

 女はそれ以外、何も話さなかったからだ。

 この国には、聖女を育成するための施設がある。

 そしてその地下には、国の暗部を秘めた、特別な場所があると聞いたことがあった。

 俺がそこに行ってみると、その場所は無事だった。

 地下だったからなのか、女が意図的に滅ぼさなかったからなのかはわからない。

 だから俺は、その施設が何をやっていたのか知る事になったのだ。

 地下施設にはおびただしい子供の亡骸があった。

 そして生きていた子供を拷問していたであろう拷問道具も数多く残されていた。

 拷問で死んだ子供を処理するための部屋には、狂暴な動物がひしめいていた。

 奥には、これから拷問される予定らしい子供が、檻の中に入っていて、生気のない瞳でどこかを見つめていた。

 表情のない顔に、病人の様に白い肌。

 その子供達の特徴は、全てあの女にあてはまるものだった。

 内部にあった資料を調べてみるとその施設はどうやら、俺の親父が用意したものらしかった。

 俺は全てを知ったとたん、その場に崩れ落ちた。





 その俺の背中に、人の気配が近づいてくる。

 振り返る気力は、もうなかった。

「これで、絶望した?」

 私達と同じように、と女が続けるまでもなかった。

 そうだ、俺は絶望した。

 こうなるべくして、こうなったのだから。

 俺の視界が聖女の光で白く染まっていく。

 目の前には、おびただしい子供達の亡霊が俺を見ているような幻覚。

 その子供達が、俺を恨めし気に見ている。

 俺はそれに、何も言えずに命を落とす事になった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...