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〇45 断罪された聖女が生まれ変わったら、罪人がなれないはずの大精霊だった。
しおりを挟む汚れた魂を持った罪人は、けっして精霊に生まれ変わる事が無い。
だから、罪人が精霊に生まれ変わった事はない。
それはその世界の常識だった。
精霊を愛し、精霊を敬う世界の常識。
けれど、もしそんな罪人が精霊に生まれ変わったとしたら、それはその「罪人」が濡れ衣を着せられた事になりますよね。
人々を守り、悪しきモノたちを浄化するのが聖女。
そんな聖女達が暮らし、修行に励んでいる場所が聖女教会だ。
その、聖女教会の祭儀場にて。
精霊降臨の儀式がたった今、終了した。
すると、大きなエネルギーが集まって、一つの形となっていく。
その場に集う聖女達が、感嘆の息をもらした。
「信じられないほど、強い力だわ」
今、精霊が私達の前に現れた。
それも、これまで誕生した微精霊ではなく、強力な大精霊だ。
これほどの強い力を備えた精霊は、前世では一体どんな聖人だったのだろう。
人は、死ぬと精霊に生まれ変わる。
善い行いを多くした人間は、強大な力を持った精霊に転生し、悪い行いばかりしていた人間は精霊には転生できない。
だから、目の前に現れたその精霊を見て、私達は思ったのだ。
一体前世はどんなすばらしい人だったのだろう、と。
その大精霊、天使の様に美しい女性は、こちらを眺めた。
その背中には、白い光の羽がはえている。
「大精霊様、どうか私達に力をお貸し下さいませんか」
見回された私達は、誰からともなく膝をつき、頭を垂れた。
私達は、その精霊の雰囲気に自然と気おされていたのだ。
厳しい修行を終えて聖女になった私達は、精霊の力を行使する機会が多い。
今までに何度も精霊の力を借りて、人々を助けてきた。
怪我をなおしてきたり、穢れに汚染された動物や土地を浄化してきたり。
けれど今まで、これほどまでに力を持った精霊とは出会った事がなかったのだ。
だから、緊張してしまう。
静寂の祭儀場で、その精霊が口を開いた。
「ひさしぶりね。ロクサヌ」
それは、聖女の一人名前だ。
けれど、本来の名前ではなく愛称。
もうその名前で彼女を呼ぶものなど、この世界にはいないはずだった。
罪人として処刑された、とある聖女以外は。
その精霊は、凍り付いたその場の中で、次々と聖女達の名前をあげていく。
「ジュサリネちゃんもいるのね。ミクリア様は、お元気かしら。あらあら、ジョセさんは位をあげたの? 聖なる力が増しているわ」
その喋り方は、激しく既視感を感じさせるものだ。
どうして、とその場にいた聖女達が思う。
私も、疑問がつきない。
目の前の大精霊が、あの罪人だとしか思えない。というのなら、罪人とされていた彼女は、濡れ衣だったというのか。
私はおそるおそる口を開いた。
「あなた、もしかしてカチュアなの?」
聖女カチュア。
それはつい先日処刑された罪人だ。
聖女でありながら、禁忌の力に手を染めた、恐るべき罪人。
国が指定している禁術を使って、捕まった人。
その罪をそそぐために、先日に刑が執行されたと聞いたが。
罪人が大精霊に生まれ変わるなんて聞いたことがない。
なら、彼女は濡れ衣だった?
彼女は罪などおかしていなかったというの?
私達は、犯罪の話が出た時に、カチュアを疑っていた。
カチュアが連れていかれる時だって、誰一人、彼女をかばわなかった。
それどころか、カチュアはすごい聖女だったから、皆嫉妬して、事情聴取で疑わしい事をどんどん報告していたのだ。
私達は、なんて事をしてしまったのだろう。
こんな事になるなら、しなかったのに。
かつてカチュアであったその大精霊は微笑んだ。
「私達、お友達よね」
私達は震えながら、首を縦に振る。
許して、とは言えなかった。
だって、私達がその立場だったら、とても許す事はできないから。
「カチュア、またあんた余計な事したの? あんたが活躍したら、あたし達の出番がなくなっちゃうじゃない」
「いいかげんにして、いちいち助言という名のお節介をしてこないで、どうせ力のない聖女なんて、哀れんでいるだけのくせに!」
「強い力を持った聖女様はいいわよね。上の人間からひいきされて、すぐ出世できるんだから。どうせ本当の実力はそれほど大した事ないんでしょうに」
私はこれまにカチュアにしてきた様々な事を思い出してきた。
仲間外れにしたり、物をかくしたり、必要な事を伝えなかったり。
色々な事をしてしまった。
きっと他の皆も同じだろう。
彼女達は震えて、顔を青くしている。
中には、身をよせあって、互いに縋り付く者達もいた。
その中で、「私は悪くない!」と叫びだす聖女が現れた。
「私は、他の聖女に命令されていただけ、あんたを虐めたくて虐めたわけじゃないわ!」
けれど、そういった聖女に大精霊が手をかざした。
次の瞬間、まばゆいばかりの光が放たれて、発言した子はその場から消え去っていた。
その場に、一瞬遅れて悲鳴が上がる。
「いやぁぁぁl!」
「ごめんなさい!」
「許して、殺さないで!」
その場にいた聖女達は一気にパニックに陥った。
皆が皆、邪魔になる誰かを押しの絵けて、その場から一刻も早く逃げようとしている。
中には、隣の聖女を転ばせて、自分だけ逃げようとしている者達もいた。
そんな者達を、大精霊はつぎつぎと消していく。
「ひっ、私達、とっ、友達だよね!」
そして、彼女をもっともよく虐めていた聖女が、そんな事を語りかけたのだが。
大精霊はにっこり笑ってそれも消し去った。
私はその様を呆然と眺める事しかできなかった。
精霊は清い心の持ち主しかなれないのではなかったのか。
いや、彼女は精霊として生まれるまでは、そうだったのかもしれない。
けれど、生まれ変わってこの場に出現した時に、復讐心が芽生えてしまったのだ。
大精霊は、最後に生き残った私も見つめてきた。
私も、同じように殺される。
そう思った私は、目をつぶって、その時をまった。
逃げる?
そんな事は、無理だ。
それに、報いは受けなければならない。
私がしでかした事は酷い事で、それは事実なのだから。
しかし、私はいつまでたってもしななかった。
不思議な事に、目をあけていたら、いつの間にか大精霊はいなくなっていた。
見逃されたのだろうか。
その後私は、事態に気が付いてやってきた者達に、現状を説明する事になったが、信じてもらえなかった。
罪を犯した(と思われている)人間が精霊になれるはずがない、とそう言われて。
そして私は、大量虐殺事件の犯人として、捕らえられてしまった。
濡れ衣をきせられて投獄されてしまう。
なんて事だろう。カチュアとまったく同じ状況だった。
ああ、見逃されたわけではなかったのだな、と私はその時になって思った。
ただ、苦しみを長く味合わせられているだけなのだ。
のちに、カチュアに濡れ衣をきせた人間、組織の上司が大精霊によって消し飛ばされたらしい。
公衆の面前で、仕事をしている最中に。
それによって、私の罪が濡れ衣だと言う事が、証明されることになった。
それは、死刑の執行まであと数時間とせまった、時だった。
もう死んでしまうかと思った。
でも、助かった。
私は、気まぐれで生かされたのだろうか。
とにかく、牢屋にいて何が起こったのか分からなかったので、自分で色々調べてみる事にした。
そして、分かったのが大精霊がした上司殺害の話。
以前の上司の感情。
死んだ上司は、カチュアの事がを気に食わなかったらしい。
当時は、同僚に色々と愚痴っていたらしい。
努力で成り上がった自分と比べて、才能のあるカチュアがどんどん出生していくのが許せなかったとか。
それで、命を落とす事になるとは夢にも思わなかっただろう。
今回の事で、多くの聖女がいなくなってしまった。
聖女教会の立て直しには、かなり時間がかかる事になるだろう。
力のある聖女が私だけになってしまったから、私は過労死寸前だ。
やはり、私は助けられたのではなく、ただ苦しめるために生かされたのかもしれない。
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