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〇34 悪役令嬢は善人に生まれ変わる事ができるのか
しおりを挟む私は振り返ってみて気が付いた。
以前の私は、なんてひどい人間だったのだろう。
人にイジワルばかりしていた。
けれど、悪人だった私とは今日でさよならだ。
生まれ変わった私は、人のためになる行動をしていこうと思った。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。
私はある日、突然その事を知った。
記憶を思い出したのだ。
前の人生の。
けれど、その世界は前世でよくやっていたゲームの世界だったので、最初こそ戸惑ったものの、不安はそれほどなかった。
しかし問題なのは、私が悪役令嬢だと言う点だ。
乙女ゲームにおける悪役は、ヒロインと攻略対象の仲をひきさいたり、恋路を邪魔するもの。
悪役令嬢は、各方面からの反感をかいやすい。
将来が心配になった。
しかし、転生したと気が付いた時点で私は、すでに十歳の誕生日をすぎていた。
これまでに、原作で起こっためぼしい過去イベントがすべて終了した後だったのだ。
ここから先は、原作では省略されて、一気に時が流れる
十五歳に乙女ゲームの舞台となる学園に入学するまで、あまり攻略対象達やヒロインとのエピソードはない。
描かれていないだけで接しているのか、それとも引っ越しなどで物理的に距離をおかざるをえない出来事が発生するのか。
どちらにしても恐怖である。
私はとんでもない時期に、前世の記憶を思い出してしまったものだ。
記憶を思い出す前の私は、なぜならすでに攻略対象やヒロイン達にイジワルをしてしまっているのだから。
ここから、原作ストーリーが始まるまでに挽回しないと、悪役令嬢の汚名をぬぐうのは難しいと感じた。
というのも原作での悪役、つまり私は自分では大した事やっていないが、周囲のとりまき達が気をきかせて勝手に行動してしまうからだ。
だから、それまでに主要人物達との関係を修復、そして人間関係を新たに構築しなおさねばならなかった。
そうと決まれば即行動だ。
幸いにも引越などの予定はないようだから、十分に時間はアル。
攻略対象達やヒロインに謝罪の手紙を出し、お詫びの品も贈っておいた。
でも、それだけでは弱い。
だから、直接顔をみて頭を下げ、ごめんなさいをするまで何とかこぎつけなければ。
私は、訪問のお手紙を書いて出した。
返事待ちをしている間も楽はできない。
これまでにつるんでいた悪いお友達と縁を切り、もっと健全なお付き合いのできる人の輪に入れてもらわなければ。
社交界に赴いた私は、今までのお友達にもう遊べません、といってさよならを告げ。
他のグループに声をかけていった。
だが、一筋なわではいかない。
これまで悪い人間だった子が、急に良い子になっていたら警戒するのが普通の反応だ。
対応こそしてもらえるものの、距離を置かれっぱなしだった。
しかも、悪いお友達が「縁を切るなんてどういうつもり?」と突っかかってくる。
さんざん一緒に悪い事していたのに、自分だけ良い子ぶってさよならなんて虫が良すぎると言われた。
まったくもって、その通り。
けれど、そのまま悪い子になってたら将来が危ないので、勝手ながらここは引けない。
今まで一緒にやってた悪い事は誰にも話さないからと説得するのに、一か月はかかっただろうか。
その頃には、他のグループにも入れてもらえるようになった。
元悪い子的な私を受け入れるだけあって、変わり者ばかりのグループだったけれど、贅沢は言わない。
やたら個性的な厨二な絵を描く子だったり、やたらおどろおどろしい彫刻を彫る子がいたけれど、悪いグループに比べたらまだつきあいやすい。
他の人達にも改心したと認めてもらえるまで、私はひたすら大人しくしていたのだった。
それからしばらくの時間が経つ。
やっと攻略対象やヒロイン達から訪問許可が出た。
帰ってきたお手紙には、今までの事をちゃんと謝るんだったらいいよ、みたいな感じで書かれていた。
できた人間達である。
私だったら、いつまでも根に持っているかもしれないのに。
そういうわけでお菓子を持って、各お家に訪問。
それぞれに頭を下げてごめんなさいの意を示す。
皆、やはり半信半疑といった顔をしていたが、もう嫌がらせされたり悪口を言われたりしたくなかったのだろう。
同じような事を二度としないなら許すと言ってくれた。
これでなんとかマイナス100点くらいだったのを、マイナス10点か20点くらいにできたはず。
後は、原作開始の時期に備えて、ひたすら自分を律して生きていくのみだ。
それからの私は、悪の心が芽生えないように細心の注意を払いながら過ごした。
所属しているグループの子が変わり者だと他の子になじられたらかばったし、おかしな子だとからかわれたら励ました。
そして十五歳になる歳。
とうとう原作開始の時期になった。
学校に入学した私は、攻略対象達とヒロインの恋路を邪魔することなく、ひたすら静かに学園生活をおくっていく。
余計な心を出して、恋路をサポート、なんてことはしない。
人からお節介やかれるとさめる恋だってあるだろうし、元悪役がへたな事をして摘んでおいた悪の芽が出ては困るからだ。
だから、ひたすら地味な活動である清掃活動をこなしたり、学級委員的な物をこなしたりして、進学に向けてアピールポイントをかせいでいた。将来大事!
人の目にとまらない?
活躍の場が地味すぎる?
そんな事はどうだっていい。
私は、派手派手しい装いで人を罵倒するような悪人ではなく、地味でも地道に人助けをしていく善人になる。
そう決めたのだから。
大人になったら立派な貴族になって、庶民たちから慕われる人間になるのだ。
その方が敵が少なくて良いだろうし。
けれど、そんな努力を無駄にするような事が起きた。
私はやってない。
断じてヒロインをいじめていない。
なのに断罪されていた。攻略対象達に。
どうやら、ヒロインの汚れた机のまわりやロッカーに私の持ち物が落ちていたらしい。
それで私がヒロイン虐めをしていると思われて、攻略対象達から糾弾されてしまったのだ。
どうしてこうなってしまうのか。
私は周囲を見回した。
すると、元友達だった悪い子軍団が私を見て、ニヤニヤ笑っているのが目に入った。
つまり、彼女達がやった事をなすりつけられたらしい。
私は、攻略対象達にその事を説明した。
しかし、彼等は信じてくれなかった。
教師達に言って退学にしてもらうと言う彼等を前にして私が絶句していると、今度は今のお友達がやってきた。
彼女達は、ヒロインに行われた嫌がらせが私のせいではないと述べた。
私の味方をしてくれたらしい。
嬉しかった。
そして罪悪感。
悪い子達よりマシだとか考えていて、打算でつきあっていてごめんなさい。
改心して善人になる道はまだまだ険しかったらしい。
最終的にはヒロインがとりなしてくれて、その場はおさまった。
こんなにかばう人達がいるのだから悪い事をするはずがない、と。
そういってヒロインが、私を助けてくれたのだ。
日ごろの行いに助けられた瞬間だった。
やがて、ヒロインに行われた嫌がらせの数々は、しっかり調査されきちんと黒幕があきらかになった。
真犯人たちは断罪されて、過去とは違って今度は攻略対象達が私に謝ってきた。
私は、「次同じことがあったら濡れ衣を着せられる人が出ないようにしてください」と、そう言って彼等を許した。
運命の修正力とかが発動しないとは限らないし、他にもヒロインを妬んでいる人達がいそうだから。
しかし、しっぺ返しをくらった悪い子軍団たちが、抑止力になったのだろう。
それからは平穏だった。
やがて学生生活は終わり、私は断罪される事も破滅する事もなく無事に卒業した。
ヒロインは攻略対象達の一人と結ばれたらしい。
私は、私をかばってくれた子達と良い友達関係を続けている。
まだ道の途中だが、
どうやら悪役令嬢はほどほどの善人に生まれ変わる事ができたらしい。
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