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〇29 光の世界が作られた理由
しおりを挟む医師団に所属する我等は、様々な場所に赴いては、患者の手当てを行っていた。
彼等の治療のかいあり、回復する患者はいるが……。
その何倍もの数の人間が、あの世へと旅立っていった。
死んだ後でも生きられると言うのなら生きたい。死んだ後でも誰かとまた会えるというのなら会いたい、そうした願いが叶えば救われる人は大勢いるだろう。
この世界で、全ての望みが叶う可能性は高くない。
生きているうちに、どれだけの人間が満足の行く生を送れるのだろう。
きっと、百パーセント幸福だったと言えるような、そんな人間はいないのではないだろうか。
みんな、何かの未練をのこして死んでいくのだ。
そんな人達の心を、救う事ができるかもしれないのが死後の世界。
曖昧で、観測は不可能。
実在を証明する事などできやしない。
けれどだからこそ……その存在が、死にゆく人達の希望になるのではないかと思った。
それは、ただの慰めにすぎないのだろう。
気休めにしかならないのだろう。
実のあるものではないかもしれない。
それは幻想にすぎなくて、形あるものを残す事ができない。
それでも、死にゆく人達の心を救いたかったから……。
だから、我々はその話を広めた。
死期が近い人間に、治療が及ばない人間に、全ての人間が救われる死後の「光の世界」の事を。
そこでは誰も苦しまなくていいのだ。
治療法のない病に悩む事も、重い怪我に煩わされる事もない。
始めは、私達だけの話だった。
しかし、いつしかその話は、世界中に広まっていった。
みなが、望んでいたからだろう。
やがて世界中の人々が、光の世界の存在を信じるようになった。
「先生、今までありがとうございました」
「安らかな眠りを」
「後は我々がこの医師団を引き継ぎます」
きっと、そのせいなのかもしれない。
誰もが抱いた祈りが、願いが、本当にその世界を作り出してしまったのかもしれない。
生の終わりを告げられた私は、次に目を覚ました時、そこにいた。
とてもあたたかな光の世界が、目の前にあった。
そこには何の苦痛もなく、悲しみもない。
今まで担当してきた患者たちが、何に悩まされる事なく幸せそうに微笑んでいる。
光は優しくこの体を包んで、私の魂を導いてくれたのだった。
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