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〇15 お金を生み出す力を手に入れたら、今まで虐めてきた人たちが手のひら返しをしてきた
しおりを挟むこの世界にはいろいろな神様がいる。
その中で人気があるのは、お金の神様だ。
一般的には、この世界では神様に多くのお供え物をささげると、加護をもらう事ができるようになっている。
その事から。お金の神様に多くのお供え物をあげる人がいたのだが。
ある日、おかしなことが起こった。
捧げものをあげていないのに、なぜか加護を授かってしまったという出来事が。
それは同年代の少女達が催すお誕生日パーティーに出席した日のことだった。
「貧乏貴族の貴方なんかにいい顔したって無駄だもの」
「さっさと出ていきなさいよ」
「そうよ。呼ばないと両親がうるさいから、呼んだだけなのよ」
「貧乏がうつるから、さっさと帰って」
お金がない事で、皆から虐められていた私はその日も冷たい態度をとられていた。
わざわざ誕生日パーティーに言ったのに、そこでなされた仕打ちは辛いものばかり。
冷たいコップの水をかけられたり、服を切り裂かれたりして、出席した会場から追い出されてしまっていた。
馬車も用意できなかった私は、帰り道をとぼとぼ歩くしかなかった。
両親にどうやって説明しようと頭を悩ませる。
娘をとりまく環境にうすうす気が付いている父と母に、なんて言い訳をしようと。
けれど、鬱々とした気分で考え事をしていると、おかしなことが起こった。
私は特にお金の神様に何かしたわけではない。
だというのに。
「あれ?」
皆に馬鹿にされないようにお金が欲しいな、と思ったらちゃりんと小銭が出てきたので驚いたのだ。
どこかから取り出したわけではない。
何気なく自分の手に平を見つめて、そこにお金があったらいいなと想像していたら、お金が出現したのだ。
この国の硬貨が一枚。
自分の手の中に。
「えっ? えっ?」
困惑した私は、その場で硬直していた。
幻覚でも見ているのかと思ったが、触れてみたお金の感触はリアルだった。
反射的にもっとお金がほしい、と思ったらさらにちゃりん。
手のひらに二枚目の小銭が出現。
私はそこで、(なぜか分からないものの)自分がお金の神様から加護をもらったのだと気が付いたのだった。
私の家は貧乏だ。
一応、貴族として昔はそこそこ名前が有名だったけれど、今はその影はない。
日々、生きていくのがやっとで、平民の身分になるのも時間の問題かと思われた。
しかし、この加護があればそんな心配に悩まされることがなくなる。
「お母様、お父様、お話があります」
お誕生日パーティーの会場から追い出されてきた娘の姿に絶句する彼等に向けて、私は誤魔化すように加護の説明をする。
実際に手のひらの中に硬貨を生み出してみると、二人は驚いた顔をした。
けれど両親に打ち明けた後は、二人ともほっとした顔で喜んでくれた。
「良かったわねあなた。神様はきっと私達の日ごろの行いを見てくれたのね」
「寛大な神様は、捧げものが用意できなくても、信仰心があったから手を差し伸べてくださったのだろう」
貧乏貴族といえども、貴族としての名前を大事にしてきた二人は、先祖から受け継いできた家の名前に誇りを持っていた。
このまま貴族でいられるかもしれないと知って、ほっとしているようだ。
「これで貴方も他の子達から虐められる事はなくなるわ」
「きっとみんな、自分の行動を改めてくれるさ」
日ごろ私に冷たい仕打ちをしている者達が、これで態度を変えるかどうかは疑問だったが、親孝行ができたというのは嬉しかった。
それにしてもやはり不思議だ。
両親は毎日熱心に神様に祈りを捧げていたが、それはある特定の神様ではなく、全ての神様に対して。
特別お金の神様に祈りを捧げたわけではないのに、どうしてこんな事になったのだろう。
それからは経済のバランスを考えながら、少しずつお金の神様の力を使っていった。
お金だけ大量に生み出しても、品物が増えるわけではない。
そうなると、市民がお買い物をする際にとても困る事になるらしい。
だから、私達の生活はいつもよりちょっと豊かになったくらいだった。
それでも明日の食べ物に困る事がなくなったのは大きい。
心に余裕を持てるようになった。
けれど、あいかわらず同年代の者達には冷たい仕打ちをされている。
「ちょっと裕福になったからって調子に乗らないでよね」
と、このような具合だ。
その日も、出席した社交界で他の貴族令嬢達から色々と意地悪をされてしまった。
飲み物でずぶぬれになったお古のドレスをしぼりながら、とぼとぼと帰り道を歩く。
お金に余裕ができた事で馬車を使えるようになったけれど、いじめられている事を両親に知られたくなかったので、私は相変わらず徒歩で移動している。
今日は天気がいいので、後で服を川で洗って乾かそう。
女性が一人で道を歩くなど、野盗に襲われる可能性があったけれど、こうみえて護身術を嗜んでいるため、荒れくれものなど怖くはなかった。
貧しくて友達ができなかった私は、一人でもできる事をこなすうちに、体をきたえすぎたらしい。
体が丈夫になって、人より早く走れるし、重たい者も持てる。
そのおかげなのか、貧乏生活で体調を崩す事が無かったのは良い事だ。
川への寄り道を決めながらの帰り道。
その途中で、私は珍しい毛並みの犬と出会った。
金色の毛並みの犬だ。
「キャン、キャン!」
人懐こい犬だ。
以前この道を歩いた時、倒れた木に挟まっているところを見て助けてから、なつかれているのだ。
飼い主はいないようなので、家で飼う事も考えたがお世話にはお金がかかる。
お金の加護があると言えども、それで慢心はしたくなかった。
私は適当に遊んであげた後に、いい人に拾われるようにと祈りながら、その犬と別れた。
「良い人に拾われるといいわね」
「キャン! キャン!」
しばらくは質素な日常が続いたが、良い事が少しずつ増えてきた。
それから少しした後、犬を保護した男性(商会の人間らしい)と縁を持ったことで、様々な面で商売に関われるようになった。それで商売で得た利益が入るようになったし、庶民向けの安価なお化粧品の開発にも貢献したという事で、家の名前が知れるようになった。
金毛並みの犬とであった場所に、質のよい材料が眠っていたらしい。
貴族向けの化粧も開発しているところだ。
我が家は少しづつ潤っていった。
そして一年も経つ頃には、誰も貧乏貴族と呼べないようにまでになった。
私を虐めていた者達は、今では大人しくしているようになっていた。
それだけではなく、手のひらを返して私と仲良くしようとするような者達まで出てくる始末。
だけど、私は彼女達からの交流をすべて断っている。
私の代わりに、辛い立場にある他の貴族令嬢を見つけた彼女達は、相変わらず同じような事を繰り返し虐めているからだ。
私は、彼女等にやられた出来事を忘れてはいない。
改心する気配のない彼女達と付き合うなど、これ以上ないくらい時間の無駄だろう。
けれど、やられっぱなしでいるのは悔しかったのでささやかな反撃をした。
虐められていた事を細かく書き記した抗議の文書を、彼女達の家に送り付けて両親達に叱ってもらう事にした。
そして、彼女達の仕打ちで被った被害を計算して、弁償代や慰謝料を請求。
「お金で困っているわけでもない貴方達なら、簡単にだしてくれますよね」
と、最後はそんな言葉で締めくくっておいた。
それと、あのお金の加護は知らないうちに消えていた。
原因不明で授かった加護だけに、首をかしげるしかない状況だ。
一体どうして、加護を授かったのだろう。
そういえば、あれから例の犬を見なくなった。
飼い主の男性も知らない間にいなくなっていたといって驚いていた。
いま、どこで何をしているのだろうか。心配だ。
加護を授かった理由について未だに悩み続ける私だが、あの時手を最述べてもらった恩は忘れない。
私は毎日欠かさずに神様へのお祈りを行うことにしていた。
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