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〇09 報われぬ生者の憎悪
しおりを挟むその憎悪は、全てを燃やし尽くす炎だった。
少女は瞳に憎しみをたたえ、この世の全てを壊し尽くす事を誓う。
愛など忘れた。
絆など捨てた。
希望など不要。
清廉など塵芥。
少女はどこまでも憎悪と共に在り、そして死すべき時まで憎悪にまみれて生き続けた。
安寧はなかった。
少女が安らぐ時は、全ての命が終わる時か、少女の復讐が道半ばで途切れる時のみ。
とある村に、一人の少女がいた。
その少女は、何の変哲もない普通の村娘だった。
面倒見がよく、ほんの少し人より健康で体が丈夫である。
ただそれだけの、普通の……。
しかし、普通の人間に必ず普通の人生が用意されているとは限らない。
村の外で活動的になった魔物の群れ。
その脅威によって、少女の村は一夜にして壊滅した。
それが、ただの意思なき生物による災いだったなら。
少女は、一時悲嘆にくれるものの、やがては前を向いて生きていたかもしれない。
しかし、真相はそうではなかった。
少女は、魔物の群れを操った人間に復讐を果たす事に決めた。
かつて普通に生きていた少女は、普通に生きるはずの余生を手放し、激動の中に身を置くことになる。
もっとも忌むべき存在、魔物を操る少年を味方につけてまで、仇を討った少女。
彼女は、そこで復讐の道を引き返してもよかっただろう。
しかし、歩き続けた。
背後で村の襲撃を計画した人物。
聖女と呼ばれる尊き存在。
少女にとっては忌むしかない不幸。
神出鬼没なそれを追いかける少女は、まぎれもない復讐人へと変貌していった。
そして、長い旅路の果てに、全てを対価にさしだして仇を討った後、少女に残されたものは何一つなかった。
己の命さえ。
復讐を終えた後、憎悪を失った少女の瞳には何が映っていたのか分からない。
ただ、一つだけ確かに言える事は、世界をよりよくする機会を彼女が奪ったという点だけ。
聖女によって善なる世界へと生まれ変わるはずだった、その世界は混沌にまみれ混乱の渦にのまれていく。
多くの犠牲が出て、多くの者が涙した。
憎悪は憎悪を呼び、人々の心につめを立ててかきむしる。
けれどもその憎悪を、亡き復讐鬼にぶつけようとしても、それは叶わぬ行い。
後の世に、復讐者はいないのだから。
曲がりに曲がり、淀みに淀み、汚れに汚れた憎悪が行きついたのは禁断の理。
死者蘇生の技術だった。
伝説の復讐鬼は、蘇る。
けれど生者の想いが報われる事は永遠にないだろう。
なぜなら、たとえ目標が復讐であっても、一つの人生を生きぬき、全てをやり遂げたそれは、もはやただの抜け殻で、なにものでもないからだ。
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