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エピローグ
翌日。
私は城から出てシャロンと共に首都ナルンの街でスイーツ巡りをしていた。
店が建ち並ぶ通りでリカルド大尉おすすめのクアッドスイーツにやって来ると、シャロンはショーケースの中を見て子供のように瞳を輝かせている。
「あのタルトにするわ。フルーツがたっぷり乗ってておいしそうだから。あ。こっちのワッフルもいいわね。あっちのモンブランも捨てがたいわ」
シャロンはあれこれ悩んでいる時、私はあるものを見つけた。
それはレトワトと書かれた赤いジャムの瓶だった。私の知らない食べ物だがなぜか聞き覚えはある。手に取るとシャロンは言った。
「それに入っているのは魔法使いの間で人気の果実なのよ。普通の人にはあまり知られてないと思ったけど最近だとそうでもないのね」
「おいしいんですか?」
「ええ。甘さと酸味があってね。昔から料理をおいしくするために入れていたわ。そしてなによりレトワトの実を食べると魔法が上手くなるという言い伝えがあるの。まあ迷信だけど」
そこで私は思い出した。
「そう言えばシモン・マグヌスもよく頼んでいたと言ってましたね?」
「アーサーも商品に練り込んでたわ」
「そうか。だから聞いたことがある名前だったんだ」
「レトワトの実は料理に使うしかない実なの。偽のシモンはそれを魔法の研究に重要なものと言っていたけど、本当は本物のシモンがただ好きなだけだったみたいね。でも知らない実をよく買っているから偽者は勘違いしたんでしょう」
「そうか。偽者はどれが魔法に使うか分からなかったから知らない実を選んだんですね」
「ええ。本物になりすますためにも魔法に使えそうで安い物を買う必要があった。本物のシモンは求道者だと言うし、少しでも魔法が上手くなるために食べていたのかもしれないわ。ただ好物だったかもしれないけど、それにしても量が多すぎたわね。少ないと怪しまれると思ったんでしょう。でもレトワトは痛みやすいから箱いっぱい買うことなんてまずないのよ」
電話をした時点でシャロンは殺されたシモンが偽者だと確信していたのか。
アーサーは味を調えるために入れると言っていたし、それを大量に買っていた時点で怪しいことに気付くべきだった。
結局シャロンは悩んだ商品を全部私に買わせた。
「領収書お願いします」
私が支払いをしている間もシャロンはずっとニコニコしていた。どうやらこれが今回ナルンに来た一番の目的らしい。
レジの女性店員はそんなシャロンを見て私に笑いかける。
「娘さんの誕生日ですか?」
「え? あ、その、仕事が一段落したので」
私のぎこちない笑顔がガラスに映っていた。そうか。親子に見えるのか。実際は上司と部下のようなものだけど……。
店員はニコニコしてシャロンに言った。
「優しいパパでよかったね」
シャロンはいたずらっぽい微笑を浮かべて私を見上げる。
「ええ。とっても」
私は小さく嘆息しながらスイーツと紅茶の乗ったトレイを受け取った。
どうやらこんな生活がしばらく続きそうだ。
まったく。どうしてこんなことになったのだろうか。
翌日。
私は城から出てシャロンと共に首都ナルンの街でスイーツ巡りをしていた。
店が建ち並ぶ通りでリカルド大尉おすすめのクアッドスイーツにやって来ると、シャロンはショーケースの中を見て子供のように瞳を輝かせている。
「あのタルトにするわ。フルーツがたっぷり乗ってておいしそうだから。あ。こっちのワッフルもいいわね。あっちのモンブランも捨てがたいわ」
シャロンはあれこれ悩んでいる時、私はあるものを見つけた。
それはレトワトと書かれた赤いジャムの瓶だった。私の知らない食べ物だがなぜか聞き覚えはある。手に取るとシャロンは言った。
「それに入っているのは魔法使いの間で人気の果実なのよ。普通の人にはあまり知られてないと思ったけど最近だとそうでもないのね」
「おいしいんですか?」
「ええ。甘さと酸味があってね。昔から料理をおいしくするために入れていたわ。そしてなによりレトワトの実を食べると魔法が上手くなるという言い伝えがあるの。まあ迷信だけど」
そこで私は思い出した。
「そう言えばシモン・マグヌスもよく頼んでいたと言ってましたね?」
「アーサーも商品に練り込んでたわ」
「そうか。だから聞いたことがある名前だったんだ」
「レトワトの実は料理に使うしかない実なの。偽のシモンはそれを魔法の研究に重要なものと言っていたけど、本当は本物のシモンがただ好きなだけだったみたいね。でも知らない実をよく買っているから偽者は勘違いしたんでしょう」
「そうか。偽者はどれが魔法に使うか分からなかったから知らない実を選んだんですね」
「ええ。本物になりすますためにも魔法に使えそうで安い物を買う必要があった。本物のシモンは求道者だと言うし、少しでも魔法が上手くなるために食べていたのかもしれないわ。ただ好物だったかもしれないけど、それにしても量が多すぎたわね。少ないと怪しまれると思ったんでしょう。でもレトワトは痛みやすいから箱いっぱい買うことなんてまずないのよ」
電話をした時点でシャロンは殺されたシモンが偽者だと確信していたのか。
アーサーは味を調えるために入れると言っていたし、それを大量に買っていた時点で怪しいことに気付くべきだった。
結局シャロンは悩んだ商品を全部私に買わせた。
「領収書お願いします」
私が支払いをしている間もシャロンはずっとニコニコしていた。どうやらこれが今回ナルンに来た一番の目的らしい。
レジの女性店員はそんなシャロンを見て私に笑いかける。
「娘さんの誕生日ですか?」
「え? あ、その、仕事が一段落したので」
私のぎこちない笑顔がガラスに映っていた。そうか。親子に見えるのか。実際は上司と部下のようなものだけど……。
店員はニコニコしてシャロンに言った。
「優しいパパでよかったね」
シャロンはいたずらっぽい微笑を浮かべて私を見上げる。
「ええ。とっても」
私は小さく嘆息しながらスイーツと紅茶の乗ったトレイを受け取った。
どうやらこんな生活がしばらく続きそうだ。
まったく。どうしてこんなことになったのだろうか。
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