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ホテルで夕飯を取るとフロントから連絡があった。
行くとローレンスが届けさせた紙袋が預けてある。私はそれを受け取りシャロンの部屋に向かった。ドアをノックすると「入って」と声が聞こえた。
恐る恐る入室すると部屋の奥からなにやらゴリゴリというイヤな音が聞こえた。
今度はなにが始まるんだとげんなりしながら奥に進むと白い頭巾を頭に巻き、腕まくりしたシャロンがローテーブルの上にすり鉢を置いてなにかを砕いている。
なぜだか祖母がクッキーを作っているところが思い浮かんだ。
私はテーブルに紙袋を置いて尋ねた。
「なにをしてるんですか?」
「なにに見える?」
「……魔法の薬かなにかを作っているとか?」
「呆れた。あなたの頭には魔法しかないのね」
そう言えば実験と言っていたな。でもなんの実験だ?
「それは?」
「死体に付いていた破片よ。量が少なかったから魔法で複製したの。これくらいの魔法使用ならいいでしょ?」
「ダメと言っても聞かないでしょう?」
シャロンはフフッと笑って「分かってるじゃない」と楽しそうにした。
「それでその粉からなにが分かるんですか?」
「予想が合っているかが分かるわ」
「予想?」
「どうやってシモン・マグヌスが殺されたかよ」
私は驚いた。
「それがこれで分かるんですか?」
「さあ、かもしれないってだけよ。ほら、中身を出して」
私は紙袋の中身を取りだした。入っていたのは子供が化学の時間に使うような簡単な実験道具だ。リトマス紙に石灰水。そう言えばこんなのを学校で使ったなと懐かしくなる。
「水を汲んでリトマス紙に付けて」
シャロンに言われ、私はコップに水を注ぎ、リトマス紙に付けた。
「色は?」
「変わりません」
「そう。よかった。じゃあその水にこれを混ぜて」
シャロンはすり鉢を渡した。中には白い粉が入っている。私は言われた通り水に粉を入れた。
「もっとよもっと。全部入れて」
「はい」
こんなことでなにが分かるんだ? 私は怪しみながらも粉を集めて水に入れた。
「かき混ぜて」
指でするのもどうかと思い、私は紙袋に入っていたガラスの棒を取りだした。
グルグルと回すと粉が水に溶けていく。それを見てシャロンは言った。
「もういいわ。リトマス紙を付けてみて」
私がまたリトマス紙を一枚手に取りコップに入れた。
すると赤いリトマス紙が青く変わった。
「色が変わりました。ええと赤が青くなったから……」
「アルカリ性でしょ」
シャロンは呆れ、そして目を細めた。
「やっぱりそうなのね」
悲しげな、それでいて興味深そうな微笑だった。
しかし私にはなにがなんだか分からない。
「えっと……。なにが分かったんですか? あ。凶器がなにか分かったとか?」
「死体に付いていた破片がアルカリ性だってことが分かったでしょう」
「いや、それは分かるんですが……」
「それが分かれば十分なのよ。少なくとも明日の予定は決まったわ」
そう言うとシャロンは可愛らしくあくびをした。
「今日はもう疲れたから寝るわ。マッサージはいいからあなたも休みなさい」
「はあ……」
私は釈然としなかったが、それ以上は深く追求しなかった。してもシャロンはなにも言わないだろう。まだ確信は持ててないからだ。だが真実には近づいている。
その夜、私は眠くなるまで自室のベッドで青くなったリトマス紙を思い出しながら彼女の視界を想像していた。
行くとローレンスが届けさせた紙袋が預けてある。私はそれを受け取りシャロンの部屋に向かった。ドアをノックすると「入って」と声が聞こえた。
恐る恐る入室すると部屋の奥からなにやらゴリゴリというイヤな音が聞こえた。
今度はなにが始まるんだとげんなりしながら奥に進むと白い頭巾を頭に巻き、腕まくりしたシャロンがローテーブルの上にすり鉢を置いてなにかを砕いている。
なぜだか祖母がクッキーを作っているところが思い浮かんだ。
私はテーブルに紙袋を置いて尋ねた。
「なにをしてるんですか?」
「なにに見える?」
「……魔法の薬かなにかを作っているとか?」
「呆れた。あなたの頭には魔法しかないのね」
そう言えば実験と言っていたな。でもなんの実験だ?
「それは?」
「死体に付いていた破片よ。量が少なかったから魔法で複製したの。これくらいの魔法使用ならいいでしょ?」
「ダメと言っても聞かないでしょう?」
シャロンはフフッと笑って「分かってるじゃない」と楽しそうにした。
「それでその粉からなにが分かるんですか?」
「予想が合っているかが分かるわ」
「予想?」
「どうやってシモン・マグヌスが殺されたかよ」
私は驚いた。
「それがこれで分かるんですか?」
「さあ、かもしれないってだけよ。ほら、中身を出して」
私は紙袋の中身を取りだした。入っていたのは子供が化学の時間に使うような簡単な実験道具だ。リトマス紙に石灰水。そう言えばこんなのを学校で使ったなと懐かしくなる。
「水を汲んでリトマス紙に付けて」
シャロンに言われ、私はコップに水を注ぎ、リトマス紙に付けた。
「色は?」
「変わりません」
「そう。よかった。じゃあその水にこれを混ぜて」
シャロンはすり鉢を渡した。中には白い粉が入っている。私は言われた通り水に粉を入れた。
「もっとよもっと。全部入れて」
「はい」
こんなことでなにが分かるんだ? 私は怪しみながらも粉を集めて水に入れた。
「かき混ぜて」
指でするのもどうかと思い、私は紙袋に入っていたガラスの棒を取りだした。
グルグルと回すと粉が水に溶けていく。それを見てシャロンは言った。
「もういいわ。リトマス紙を付けてみて」
私がまたリトマス紙を一枚手に取りコップに入れた。
すると赤いリトマス紙が青く変わった。
「色が変わりました。ええと赤が青くなったから……」
「アルカリ性でしょ」
シャロンは呆れ、そして目を細めた。
「やっぱりそうなのね」
悲しげな、それでいて興味深そうな微笑だった。
しかし私にはなにがなんだか分からない。
「えっと……。なにが分かったんですか? あ。凶器がなにか分かったとか?」
「死体に付いていた破片がアルカリ性だってことが分かったでしょう」
「いや、それは分かるんですが……」
「それが分かれば十分なのよ。少なくとも明日の予定は決まったわ」
そう言うとシャロンは可愛らしくあくびをした。
「今日はもう疲れたから寝るわ。マッサージはいいからあなたも休みなさい」
「はあ……」
私は釈然としなかったが、それ以上は深く追求しなかった。してもシャロンはなにも言わないだろう。まだ確信は持ててないからだ。だが真実には近づいている。
その夜、私は眠くなるまで自室のベッドで青くなったリトマス紙を思い出しながら彼女の視界を想像していた。
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