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今日はあの夜三階のロビーにいた軍の関係者達と会うことになっている。
四人の軍人が食堂の一番大きなテーブルについて待っていた。
四角い顔をした気むずかしそうな老人がラブロ大佐。
眼鏡を掛けたきまじめそうな七三わけがトレードマークの中年男性がテオ中佐。
見開いたような目が特徴の金色の短髪が壮年男性がリカルド大尉。
これと言って特徴のない青年がレナード大尉だ。
ラブロ大佐の部下がリカルド大尉でテオ中佐の部下がレナード大尉となっている。
四人とも今回のためにここへ来た中央の軍人達だ。
数多くの戦場をくぐり抜けてきた男達と相対するのは相対するは少女だ。まるで大人が子供を詰問しているように見える。
しかし実際はなにもかも逆で、大人に見える彼らは彼女からすればてんで子供だし、詰問するのも彼女の方だった。
それを理解していないのか百戦錬磨の軍人達は席も立たずにシャロンを迎えた。
シャロンはそんな彼らを見て苦笑する。
「礼儀もなにもあったものじゃないわね。あとでフレデリックに言っておかないと」
彼女なら本気でやりかねない。私は内心ゾッとしつつ椅子を引いた。
着席したシャロンは髪を指に絡めた。
「さて。なにから聞こうかしら」
すると一番年長の顔が四角い男、ラブロ大佐が口を開いた。
「そもそもだが、なぜ我々がこんな風に聞き取りを受けなきゃならんのだ?」
眼鏡のテオ中佐も頷いた。
「その通り。国のために働く我々をまるで容疑者のように扱うのは到底受け入れられない」
鋭い眼光を放つ二人だが、シャロンは面倒そうに肩をすくめて腕を広げた。
「あら、そう。なら受け入れなくていいわ。わたしはあなた達に質問する。あなた達はそれに答える。これだけのこともできないなんてネルコの軍人は子供以下ね」
「なんだと!?」
挑発に乗ったのはライオンを思わせる尖った金髪のリカルド大尉だ。
その横でこれと言って特徴のないレナード大尉は静かに紅茶を飲んでいた。
私は慌てて間に割って入る。
「落ち着いてください。この方は王から依頼を受けてここにいるんです」
「だからと言って国のために生きる我々を反逆者のように扱うことは容認できん!」
リカルド大尉は憤然としていた。こういう時、階級が上だとやりにくい。
「そもそも責めを負うのは我々ではなくこの城の警備を任されている者達じゃないのか?」
図星を指され、ローレンスは気まずそうに俯いた。
「……返す言葉もありません。ですが王は自分に挽回の機会を与えてくれました。そのためにはなんでもするつもりです」
眼鏡のテオ中佐は「我が王は寛大だな」と皮肉めいた笑みを浮かべた。
顔の四角いラブロ大佐は腕を組んで眉間に皺を寄せている。
「まずだ。なぜ我々がシモン・マグヌスを殺す必要がある? 疑うなら魔法推進派の我々でなく、反対派や慎重派を真っ先に問いただすべきだ。違うかね?」
ラブロ大佐はシャロンに尋ねた。自分勝手な軍人達にシャロンは呆れていた。
「違うもなにもそういったことを聞きに来たの。これ以上勝手に喋ると口からカエルを吐き出させるわよ」
そんな魔法もあるのか。私も気を付けよう。
シャロンは給仕が注いだ紅茶が入ったカップを手に取り、香りを楽しんだ。一口飲むとふうっと息を吐く。
「軍も一枚岩ではないというわけね」
「国を思う気持ちは誰もが同じだ」とラブロ大佐は答えた。「……しかし、やはり魔法は異質の技術。軽々に取り入れるべきかどうかは今なお議論がある」
「なるほど。あなた達は魔法に肯定的なグループということね。そのわりには態度が悪いけど?」
するとラブロ大佐の部下であるリカルド大尉が噛み付いた。
「我々はネルコの発展のために魔法を受け入れた。そのせいで誹りも受けてきた。なのにそんな我々をシモン殺しの犯人であるかのように扱うのは馬鹿げているではないか!」
「知らないわよ。あなた達は魔法を利用しようとしたのでしょう? ならその副作用も受け入れるべきだわ」
シャロンは面倒そうにした。申し訳ないがリカルド大尉のようなタイプは軍人に多い。
テオ中佐は眼鏡をくいっと直してその奥の細い目を更に細めた。
「我々はシモン・マグヌスが開発したと言われる兵器の情報を知り、高く評価していた。だから他の関係者より早くここに来て話を聞こうとしたのだ。前日から待っていた者は少ない。ほとんどが翌日の晩餐会で挨拶する程度の関心しかないからな。そんな我々がなぜ彼を殺す必要があるんだ?」
「あなた達が本当に魔法の活用を推進しているなら動機はないかもしれないわ。だけど立場を偽っていれば犯行に及んでもおかしくないとは思わない?」
「……我々の中に反対派がいるとでも?」
「可能性はあるわ。もしいるとすれば絶好の隠れ蓑になる。殺された彼も自分を評価してくれている存在なら警戒心もないでしょうし」
「……馬鹿馬鹿しい」
テオ中佐はそう言いながらも否定しきれないようだった。
たしかに反対派が紛れている可能性はある。それが敵国のスパイと繋がっているならシモン・マグヌスを殺す理由は十分だ。
そのことを理解している真に人物が一人だけいた。特徴のないレナード大尉がようやく口を開く。
「魔法使いの中にイガヌのスパイがいるみたいですね」
「どこでそれを?」とローレンスは驚いた。
「どこでもいい。今議論すべきはそれが我々と繋がっているか、それとも我々推進派以外の軍人に繋がっているか、あるいは魔法使い側にも繋がりを持つ人物が別にいるか。あるいはこれら全てに当てはまるかどうかを調べることです」
その通りだ。この男、特徴はないが頭は回るらしい。
実力は認められているのかレナード大尉が話し始めると他の三人は黙って聞いていた。
レナード大尉は続ける。
「スパイが我々四人と繋がっている場合、その人物は反対派である可能性が高いでしょう。他の軍人と繋がっている場合はやはりそれも反対派だと考えられます。スパイが魔法使いと繋がっている場合、軍の関係者に共犯がいる可能性がある。でなければあの密室を作り出すのは不可能だから。しかしそれが故意なのか知らないうちに動かされた結果なのかは分かりません。スパイがどちら側とも繋がっている場合、これは最も厄介で当日この古城にいたほぼ全ての人物が容疑者となり得ます」
シャロンはニコリと笑った。
「これからはあなたとだけ話していたいわ」
「恐縮です。ミス……」
「シャロンよ」
「ミスシャロン」
レナード大尉はシャロンに対して敬意を見せるように会釈した。
大尉を気に入ったのかシャロンは尋ねた。
「どの可能性が一番高いかしら?」
「そうですね。どの可能性も十分あり得ます。なので正しいアプローチの方法は犯人が如何にして密室を作ったか。この一点でしょうね」
「そうね。犯人は誰かを知るにはそれが一番だわ。作り方によって誰が可能かどうか分かるから。あなたみたいな人が軍にいれば安泰ね。隣にいる唐変木達の代わりになれば尚すばらしいわ」
「すいませんね。この人達馬鹿なんで」
レナード大尉はあっけらかんとそう言った。上官に対する侮辱など到底認められるはずがない。しかしやり玉に挙げられた三人は居心地が悪そうだ。
どういうことだと思ってローレンスを見ると小声で教えてくれた。
「彼はアンジェロ・リー中将のご子息だ」
なんと。あのアンジェロ中将の息子とは。中将と言えば数々の勝利を挙げた伝説的な軍人だ。その資質は息子にも受け継がれているらしい。
ラブロ大佐はゴホンと空咳をした。
「ならば我々をいくら問い詰めても意味はない。君達がすべきことはその密室とやらを誰がどうやって作り出したかを調べるべきだ」
「それを調べているからこうして聞いているのよ。頭だけじゃなくて中身まで四角いみたいね」
「なっ!?」
ラブロ大佐は四角い顔を赤くした。
しかしシャロンの言った通りだ。密室がどうやって作られたかの手がかりがない限り、情報収集を繰り返すしかない。
レナード大尉は眠そうに告げた。
「密室を作ったのが単独犯か複数犯かで誰を疑うべきかは変わってくる。だから我々の行動や魔法使いの行動は大変重要なわけですよ。犯行が可能な時間や使える道具、そして目撃者の有無で一人でも可能かそうでないかが分かりますからね」
「……なるほど」とラブロ大佐は渋々納得していた。
「しかし見たところ一人では難しいのでは?」
レナード大尉の問いにシャロンは難しそうな顔で答えた。
「そうね。でもなにも分かってない時点で可能性を排除するのは危険よ」
「たしかにその通りですね。利用された可能性も含め、容疑者から排除していけば犯人の思う壺です」
「だからこそ全員を平等に疑う必要があるの。分かったかしら?」
シャロンはレナード以外の三人を見下すようにそう言った。
四人の軍人が食堂の一番大きなテーブルについて待っていた。
四角い顔をした気むずかしそうな老人がラブロ大佐。
眼鏡を掛けたきまじめそうな七三わけがトレードマークの中年男性がテオ中佐。
見開いたような目が特徴の金色の短髪が壮年男性がリカルド大尉。
これと言って特徴のない青年がレナード大尉だ。
ラブロ大佐の部下がリカルド大尉でテオ中佐の部下がレナード大尉となっている。
四人とも今回のためにここへ来た中央の軍人達だ。
数多くの戦場をくぐり抜けてきた男達と相対するのは相対するは少女だ。まるで大人が子供を詰問しているように見える。
しかし実際はなにもかも逆で、大人に見える彼らは彼女からすればてんで子供だし、詰問するのも彼女の方だった。
それを理解していないのか百戦錬磨の軍人達は席も立たずにシャロンを迎えた。
シャロンはそんな彼らを見て苦笑する。
「礼儀もなにもあったものじゃないわね。あとでフレデリックに言っておかないと」
彼女なら本気でやりかねない。私は内心ゾッとしつつ椅子を引いた。
着席したシャロンは髪を指に絡めた。
「さて。なにから聞こうかしら」
すると一番年長の顔が四角い男、ラブロ大佐が口を開いた。
「そもそもだが、なぜ我々がこんな風に聞き取りを受けなきゃならんのだ?」
眼鏡のテオ中佐も頷いた。
「その通り。国のために働く我々をまるで容疑者のように扱うのは到底受け入れられない」
鋭い眼光を放つ二人だが、シャロンは面倒そうに肩をすくめて腕を広げた。
「あら、そう。なら受け入れなくていいわ。わたしはあなた達に質問する。あなた達はそれに答える。これだけのこともできないなんてネルコの軍人は子供以下ね」
「なんだと!?」
挑発に乗ったのはライオンを思わせる尖った金髪のリカルド大尉だ。
その横でこれと言って特徴のないレナード大尉は静かに紅茶を飲んでいた。
私は慌てて間に割って入る。
「落ち着いてください。この方は王から依頼を受けてここにいるんです」
「だからと言って国のために生きる我々を反逆者のように扱うことは容認できん!」
リカルド大尉は憤然としていた。こういう時、階級が上だとやりにくい。
「そもそも責めを負うのは我々ではなくこの城の警備を任されている者達じゃないのか?」
図星を指され、ローレンスは気まずそうに俯いた。
「……返す言葉もありません。ですが王は自分に挽回の機会を与えてくれました。そのためにはなんでもするつもりです」
眼鏡のテオ中佐は「我が王は寛大だな」と皮肉めいた笑みを浮かべた。
顔の四角いラブロ大佐は腕を組んで眉間に皺を寄せている。
「まずだ。なぜ我々がシモン・マグヌスを殺す必要がある? 疑うなら魔法推進派の我々でなく、反対派や慎重派を真っ先に問いただすべきだ。違うかね?」
ラブロ大佐はシャロンに尋ねた。自分勝手な軍人達にシャロンは呆れていた。
「違うもなにもそういったことを聞きに来たの。これ以上勝手に喋ると口からカエルを吐き出させるわよ」
そんな魔法もあるのか。私も気を付けよう。
シャロンは給仕が注いだ紅茶が入ったカップを手に取り、香りを楽しんだ。一口飲むとふうっと息を吐く。
「軍も一枚岩ではないというわけね」
「国を思う気持ちは誰もが同じだ」とラブロ大佐は答えた。「……しかし、やはり魔法は異質の技術。軽々に取り入れるべきかどうかは今なお議論がある」
「なるほど。あなた達は魔法に肯定的なグループということね。そのわりには態度が悪いけど?」
するとラブロ大佐の部下であるリカルド大尉が噛み付いた。
「我々はネルコの発展のために魔法を受け入れた。そのせいで誹りも受けてきた。なのにそんな我々をシモン殺しの犯人であるかのように扱うのは馬鹿げているではないか!」
「知らないわよ。あなた達は魔法を利用しようとしたのでしょう? ならその副作用も受け入れるべきだわ」
シャロンは面倒そうにした。申し訳ないがリカルド大尉のようなタイプは軍人に多い。
テオ中佐は眼鏡をくいっと直してその奥の細い目を更に細めた。
「我々はシモン・マグヌスが開発したと言われる兵器の情報を知り、高く評価していた。だから他の関係者より早くここに来て話を聞こうとしたのだ。前日から待っていた者は少ない。ほとんどが翌日の晩餐会で挨拶する程度の関心しかないからな。そんな我々がなぜ彼を殺す必要があるんだ?」
「あなた達が本当に魔法の活用を推進しているなら動機はないかもしれないわ。だけど立場を偽っていれば犯行に及んでもおかしくないとは思わない?」
「……我々の中に反対派がいるとでも?」
「可能性はあるわ。もしいるとすれば絶好の隠れ蓑になる。殺された彼も自分を評価してくれている存在なら警戒心もないでしょうし」
「……馬鹿馬鹿しい」
テオ中佐はそう言いながらも否定しきれないようだった。
たしかに反対派が紛れている可能性はある。それが敵国のスパイと繋がっているならシモン・マグヌスを殺す理由は十分だ。
そのことを理解している真に人物が一人だけいた。特徴のないレナード大尉がようやく口を開く。
「魔法使いの中にイガヌのスパイがいるみたいですね」
「どこでそれを?」とローレンスは驚いた。
「どこでもいい。今議論すべきはそれが我々と繋がっているか、それとも我々推進派以外の軍人に繋がっているか、あるいは魔法使い側にも繋がりを持つ人物が別にいるか。あるいはこれら全てに当てはまるかどうかを調べることです」
その通りだ。この男、特徴はないが頭は回るらしい。
実力は認められているのかレナード大尉が話し始めると他の三人は黙って聞いていた。
レナード大尉は続ける。
「スパイが我々四人と繋がっている場合、その人物は反対派である可能性が高いでしょう。他の軍人と繋がっている場合はやはりそれも反対派だと考えられます。スパイが魔法使いと繋がっている場合、軍の関係者に共犯がいる可能性がある。でなければあの密室を作り出すのは不可能だから。しかしそれが故意なのか知らないうちに動かされた結果なのかは分かりません。スパイがどちら側とも繋がっている場合、これは最も厄介で当日この古城にいたほぼ全ての人物が容疑者となり得ます」
シャロンはニコリと笑った。
「これからはあなたとだけ話していたいわ」
「恐縮です。ミス……」
「シャロンよ」
「ミスシャロン」
レナード大尉はシャロンに対して敬意を見せるように会釈した。
大尉を気に入ったのかシャロンは尋ねた。
「どの可能性が一番高いかしら?」
「そうですね。どの可能性も十分あり得ます。なので正しいアプローチの方法は犯人が如何にして密室を作ったか。この一点でしょうね」
「そうね。犯人は誰かを知るにはそれが一番だわ。作り方によって誰が可能かどうか分かるから。あなたみたいな人が軍にいれば安泰ね。隣にいる唐変木達の代わりになれば尚すばらしいわ」
「すいませんね。この人達馬鹿なんで」
レナード大尉はあっけらかんとそう言った。上官に対する侮辱など到底認められるはずがない。しかしやり玉に挙げられた三人は居心地が悪そうだ。
どういうことだと思ってローレンスを見ると小声で教えてくれた。
「彼はアンジェロ・リー中将のご子息だ」
なんと。あのアンジェロ中将の息子とは。中将と言えば数々の勝利を挙げた伝説的な軍人だ。その資質は息子にも受け継がれているらしい。
ラブロ大佐はゴホンと空咳をした。
「ならば我々をいくら問い詰めても意味はない。君達がすべきことはその密室とやらを誰がどうやって作り出したかを調べるべきだ」
「それを調べているからこうして聞いているのよ。頭だけじゃなくて中身まで四角いみたいね」
「なっ!?」
ラブロ大佐は四角い顔を赤くした。
しかしシャロンの言った通りだ。密室がどうやって作られたかの手がかりがない限り、情報収集を繰り返すしかない。
レナード大尉は眠そうに告げた。
「密室を作ったのが単独犯か複数犯かで誰を疑うべきかは変わってくる。だから我々の行動や魔法使いの行動は大変重要なわけですよ。犯行が可能な時間や使える道具、そして目撃者の有無で一人でも可能かそうでないかが分かりますからね」
「……なるほど」とラブロ大佐は渋々納得していた。
「しかし見たところ一人では難しいのでは?」
レナード大尉の問いにシャロンは難しそうな顔で答えた。
「そうね。でもなにも分かってない時点で可能性を排除するのは危険よ」
「たしかにその通りですね。利用された可能性も含め、容疑者から排除していけば犯人の思う壺です」
「だからこそ全員を平等に疑う必要があるの。分かったかしら?」
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