路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 翌日の日曜日。
 真理恵は小白を連れて伯父のいる町まで来ていた。
「こっち」
 伯父の家は知らなかったので小白に案内してもらう。
 昭和中期に開発されたまま放置されたようなこの町は全体的に暗く感じた。建物は古く、使われたコンクリートは黒ずみ、欠けたりヒビが入ったりしている。駅の近くにはホームレスが寝ていて、目つきの悪い男もちらほら見えた。
 真理恵は警戒しながらも少し前を歩く小白について行く。
「ここ」
 駅から歩いて十五分。坂の上にある団地を小白は指さした。真理恵は緊張しながらも階段を登っていく。
「この部屋」
 小白は三階の奥にある重そうな扉の前で止まった。
 真理恵は緊張しながらもインターホンを押す。しかし返事はない。痺れを切らして扉をノックするがやはり反応はなかった。それどころか人の気配を感じない。
 真理恵が不安になって再びノックすると隣の部屋からおじさんが眉間に皺を寄せて出てきた。
「そこの人だったら引っ越したよ」
「え? 引っ越した? 本当ですか?」
「多分だけどね。家財道具も外に出してたし、管理人も来てたからそっちに聞いてみな」
 おじさんはそれだけ言うと引っ込んだ。真理恵は動揺しながら会釈する。
 隣の小白は少しだが俯いた。真理恵は小白に尋ねた。
「聞いてない?」
 小白は小さく首を横に振った。
 真理恵は不安そうに歩き出した。一番下の階に戻り、掲示板にあった電話番号に掛けると管理人が出た。管理人は先ほどの情報を裏付ける。
「ああ。はい。高野さんだったら引っ越されましたよ」
 電話が終わると真理恵は呆然とした。小白は花壇に植えられた花を見つめていた。
 このままだと大変なことになる。そう思った真理恵は小白に聞いた。
「伯父さんが働いてたところは分かる?」
「わかる」
 小白が頷くと真理恵の表情が明るくなる。
「本当? なんてところ?」
「ひやとい」
「………………日雇い。……そう」
 真理恵はどうしたらいいか分からず顔を手で覆った。そして大きく溜息をつくと顔を上げ、小白の住んでいた団地を見上げた。
 ここに小白を置いていく。そんな薄情なことができるほど真理恵の心は強くなかった。
「……とりあえず、お好み焼きでも食べて帰りましょうか」
 それを聞いて小白は再び町の方を指さした。
「だったらあっちがおいしい」
 小白のおすすめするお好み焼き屋はたしかにおいしかったが、真理恵はそれどころではなかった。
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