路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 小白は再び子ねこを追いかけた。
 蒼真に耳を見られたことは悔しいが、どうせこの町もすぐ離れるのだからと割り切っている。
 それよりも今はあの子ねこだ。ちゃんとついていかないとねこになれなくなる。
 子ねこは山の小道から道路に出てさらに進んでいた。
 小白は走って走って走りまくり、そしてようやく子ねこに追いついた。
 そこは丘の上を走る道路の頂上だった。広めの歩道には白い手すりがついていて、その向こうには町が広がっている。
 古い町は新しい街になり、その先に海が広がっていた。海にはフェリーが浮かんでいた。
 風が帽子から出たままになった小白の髪を優しく撫でる。青空の中に浮かぶ真っ白な雲が気持ちよさそうに流れていた。
 その中心、手すりの向こうに子ねこはいた。
 小白と子ねこの距離は三歩ほどだが、子ねこの座っている場所のすぐ下は十メートルほどの絶壁になっていて落ちればひとたまりもない。
 さすがの小白も手すりは越えられなかった。小白は手すりを掴んだまま再び聞いた。
「ねえ。どうしたらねこになれるの?」
 子ねこは風に髭を揺らしたまま水平線を眺めていた。
「簡単よ」
 子ねこはそう言い、振り向いた。
「心に肉球を持つの。強くて柔らかい肉球を」
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