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もふって就職!

◆もふって入学?2

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 そのまま休むことなく東へと歩みを進めてしばらく、ごく一般的な店などが立ち並び、特に魔導具の店と見受けられるような店は一軒たりともなかった。

 時折、舞は後ろを振り向いて、涼華たちに「東ってこっちで合ってるよね」と不安げな表情で尋ねたりした。方角的にも、八百屋の店主が言ったとおりの方角なので間違いはないだろう。

「それにしても結構歩いたよね…? 一向にそれらしき店が見えてこないんだけど……」

「大丈夫。ここにいるみんなそう思ってる」

 千明の返答に涼華とルイはうんうんと頷く。既に五キロほど歩いただろうか。

「ねぇ」

「ん?」

 みんなの疲労が目に見え始めたところで涼華が思いついたように言った。

「私思ったんだけど、移動魔法ゲート使えば良くないかな?」

「あ」

 その手があったか、と頭上に電球のようなものを出して手を叩く。そのまま流れるような動作で移動魔法ゲートを使おうとして千明に止められる。

「ちょっと待とうか」

「へ?」

「いやいや、へ? じゃないよ。今こんな人がいっぱいいる中でそんな魔法使ったら軽く騒ぎになっちゃうでしょ?」

「そんなはずないじゃん。普通でしょ?」

 千明の言葉を否定して再び魔法を展開しようとする。もちろんそれを千明は止める。

「だーかーらー! いままでやってきたことだって十分目立ってるんだから、せめて! 人気のない場所で!」

 舞の耳元で大きな声で叫ぶと舞も耳を抑えながらしぶしぶ了承した。

「うぅ、うるさいぃ…わかったよ、あっちの建物の陰でやるから、お願いだから大声出さないで、耳元で…痛いから…」

「わかったならよし!」

 自分に従うのを見て、千明は満足気に腰に手を当てて、胸を張った。そのまま全員で路地裏に入っていき、そこで移動魔法ゲートを使う。

 移動先はイースガルズ国内、最寄りの魔導具店。舞はそう念じながら展開した。

 目を開けたとき、目の前には先程の暗い路地裏とは違い、明るい陽射しが照らしつける一件の店の前に立っていた。そこには、ずっと歩いてきた商店街の賑やかさは無く、雑踏の音さえも聞こえない。一言で言えば、僻地、だろう。

「……ここ?」

「多分…? とりあえず僕は魔導具店前って念じたから…。これで違ってたら僕にもどうしようもないかなぁ」

「うーん、看板らしき看板もないし、ただの民家にも見えるんだけど……」

「迷ってても先に進めないでしょ! ほら、早く誰かノックしなよ!」

 珍しくルイが強気な事を言ったと思っていたら、案外そうでもなく、人任せで自分は絶対にこんな怖いところゴメンだ、という雰囲気さえも醸し出していた。

「ルイ…怖いんだね」

「こ、怖くないよ!」

「夜の街で、一人で外にいたっていうのに……こんな家が怖いだなんて。それに、ルイと私の杖を買いに来たんでしょ? ほら、私達が行かなくてどうするの? 行くよ!」

 そう言って涼華がルイの襟首を掴んでずるずると入り口方面に引きずっていく。

「いーやー! 行きたくないー! 私のことは放っておいてよー!」

「わがまま言わないの! ほら!」

 駄々をこねるルイを無理矢理に立たせると、恐らく魔道具店であろう建物の扉が開き、中からひとつの首がにゅっと外に顔を出した。

 突然出てきたそれにルイは腰を抜かしてしまい、折角立たせたのにまた座り込んでしまった。一方涼華は、驚きすぎたのか口をあんぐりと開けて固まってしまっている。

「ひ、ぁ………ぅ……」

 ぱくぱくと口を動かしているが掠れた音しか出ていない。中から出てきた首はその二人を見つめて口を動かす。

「……さっきからずっと表で騒いでいたのはアンタたちかい…」

 ローブを被っていてはっきりとした顔の輪郭は見えないが、目は酷く弛んでいて年配だということは簡単に推測できる。声もしゃがれていて、その推測を結論と結びつけている。

「ひっ! ご、ごめんなさい!」

「……ごめ…なさっ…!」

 扉に一番近いところにいた二人はその老人の眼光に完全に怯えてしまっていて頭を抑えて震えている。すると、老人は多少離れていてもわかるくらいの大きさでため息をつき、ローブを外した。

 ようやく拝むことができたその顔はやはり皺だらけで相当歳を食っているように見える。

「はぁ……そんなに怯えなくたっていいじゃないか……まったく、これだから最近の若者たちは、こんな老害一人に怯えて本当肝っ玉がないのかね…」

 もう一度ため息をつき、文句をつらつらと並べて涼華達にむけて一斉に発射する。その言葉が刺さり、今度は怯えるわけではなく、落ち込んでしまい、頭を抱えている。

「……さてと、いびりはここまでにしておこうかね。魔導学園に入学するために杖が必要なんだろう? 早く店の中に入っておいで。あたしゃ外は嫌いなんだ」

 舞たちの方をちらりと見てから老人はそう言った。とりあえず中には入れと言われたので舞と千明はそれぞれ涼華とルイを抱えて店の中に入る。

 店内は暗めだが床はホコリ一つないほど綺麗で、全体的に整った印象がある。商品もしっかりと陳列されている。

「……ほれ、杖はあっち側に置いてあるよ。あんたらの目がどんなもんか試してあげるから見て来なさい」

「ありがとうございます。じゃあ、早速」

 きょろきょろと挙動不審に店内を見回していると老人から声をかけられて杖の場所を教えてもらう。その言葉通り店内を歩くと、言われた通り杖が陳列されていた。

「はわー! 綺麗だなぁ…!」

「ツルツル! てかてか!」

 陳列されている杖はどれもしっかりと手入れがなされていて、ぱっと見ただけではどれがいい杖なのかは分からない。だが、実際に杖に触れてみると不思議なことに木材の表面の感触が全く違う。

 一本は本当に見た目通りツルツルで触り心地もいい。一本は見た目とは反した触り心地で非常にざらざらしている。その為、強く振ったりしたら手の皮が剥がれてしまうだろう。

「舞お姉ちゃん! これ!」

 いち早く杖を選んだのは涼華で、先ほど舞が触っていたざらざらとした表面の杖だ。

「…なんでこの杖を選んだの? ざらざらで手が痛くなるよ?」

 舞には涼華なら分かるという確信があったが念には念を入れて何故ざらざらの杖を選んだのか聞いてみる。すると、涼華はあっけらかんとした顔でさも当たり前のように答えた。

「だって、これが荒削りなのって木材が傷みやすいっていうか、ぼろぼろになりやすいからでしょ? それって、年季が入り過ぎて木材に空洞が出来ちゃってるから、じゃないの?」

「ただ単純に古いだけなの?」

「うん。だって、古いってことはそれだけ空気中の魔力マナを吸ってきてるってことでしょ? え? 違うの?」

 舞から質問をされ、自分の答えが本当にあっているのか不安になってくる感覚に陥る涼華。その答えを聞けて納得がいったのか舞はにっこりと笑って涼華の頭を撫でた。

「へっ? ちょ、いきなりどうしたの!?」

「ん? あぁ、嫌だった? ごめんね」

「いや、嫌って訳じゃないけど……突然撫でられたからびっくりして…」

「いやぁ、なんか自分の妹がちゃんと答えを言えて愛おしく感じてね。つい手が出ちゃった」

 テヘッ、と舌を出して謝る。表情から察するに涼華も満更ではないようだった。そんな甘々な雰囲気を壊すかのようにルイが舞のもとに走ってきた。

「マイお姉ちゃん! ほら、これ! これ良くないかな!?」

 ルイが持ってきた杖は、見た目は普通のツルツルした杖だった。舞はそれを手にとって感触を確かめる。その結果、この杖は見た目にも、感触にもツルツルな杖だった。

「…なんでこの杖を選んだの?」

「なんでって、あれ、言ってなかったっけ? 私、魔流感知マナサーチって言うのが使えるんだよ?」

「ごめん。聞いたことない。肉体的な戦闘力についてしか聞いてないよ」

「あれー? あ、それで理由はその魔流感知マナサーチで見たらこの杖がすごく魔力マナの通しが良かったんだよー! あ、涼華も選んだの!? すごい、これ、魔力マナの通しが凄くいい…使いやすそうだね!」

 怒涛の勢いで涼華の持ってきた杖を褒めるルイ。収まりがつかなくなりそうだったので舞が話を切って二本の杖を老人の元へと持って行った。
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