もふってちーと!!

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もふって就職!

◆もふって決着!2

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「さぁて、どうしましょうかね。こんなんじゃ絶対に攻撃通らないしなぁ……」

 目を瞑りながらランクーレを見つめる舞は腰に手を当てながらそう呟いた。

 弱点は分かっている。ダメージが入ったのも確認している。だが、その弱点を守られてしまっては手の打ちようがない。現状は舞の手に余るほどの厄介さを持っている。

 いっそ大規模な爆発が起こせればどうにかなるだろう。だがどうすれば大規模な爆発が起こせるのか。前回同様擬似水素爆発を起こすのか。あれはたまたま、偶然で水素と火の比率があっただけであって、狙ってできるものではない。
 それを分かっているからこそ舞は攻め手に欠けていて悩んでいるのだ。

「とりあえず、逃げなきゃ…!」

 追いかけてこれないことが分かった舞は空中を駆ける。一旦引き離したところで地面には降りずに空中に留まる。再び地上に降りればランクーレの格好の的となってしまうからだ。

 とはいったもののこの討伐クエスト、討伐しなければ終わりはない。逃げてしまえばそれで終わりだが推薦指定冒険者にはなれない。それ即ち、稼ぎに余裕がなくなるという事になる。

 今回のクエストは舞にとっても大きなプラスになるためどうにかこなしたいのだが、手も足も出ないのではこなしようがない。

「ランクーレってアンデットの癖に物理が効くからなぁ、なんとかそこを活かして動きを止めたいところなんだけど…」

 なんとか鍵になりそうなところを攻撃するという方向に考え始める。だが、弱点部位を剥き出しにさせる方法や足止めする方法などを考えているうちに思考が入り混じり何がなんだか分からなくなってしまう。

 これではダメだと一度頭を横に大きく振って思考を正す。どうにもランクーレの攻撃力の高さに無意識のうちに焦りや恐怖を覚えているようだった。

「…もっと、何か地球で蓄えた知識が活かせるといいんだけど……な……?」

《……………aa……》

 独り言を呟いていると明らかにランクーレではない小さく細いうめき声が聞こえてきた。人間の声出ないところから察するに何かしらの魔物らしい。

 声のする方向を目を凝らしてよく見てみると一体のゾンビが舞を目掛け飛んできた。

「えっ!? ゾンビって空飛べたっけ!?」

 慌てて体をひねり回避する。その後も立て続けにアンデットの魔物が飛来する。弾道を辿って行くと、そこには構えては投げ、構えては投げを繰り返すランクーレの姿があった。

 どうやら空中に逃げた舞を攻撃する手段が無いため、小型のアンデットを舞にむけて投げつけているようだった。

「あいつって案外頭いいのかも」

 などと冗談交じりに独り言を呟き、更に上空へと昇る。だがいくら昇ってもアンデットは絶えない。あの力でなら納得もできるのだが疲れを知らないのだろうか。

 上空に昇るまでにも数十体のアンデットの魔物を回避してきたのだ。ランクーレの投げたアンデットの総数はすでに百を超えているだろう。そして、舞はそこそこの高度まできていてランクーレはそこにむけて投げているのだ。

 いくら魔物と言えどもそこまで底なしのはずがない。背筋に悪寒を感じつつ舞は策を考え続ける。避けながらでも思考ができる程度には焦りも落ち着いたが、どうにも違和感が拭えない。

「なんか、数は少なくなってきてるけど、避けるのが難しくなってないかなぁ。ランクーレも疲れが回ったのかな?」

 楽観的に判断するには材料が少し足りないが、数は確かに減少していた。状況は楽になっているはずなのだが、舞の感じる違和感は確かに大きくなっていっていた。

「……どうしよう。なんでこう大事な時に限って僕の頭って働かなくなるのかなぁ。必要なときに動かないニートめ! ……はぁ」

 自分の体の一部を自身で貶してなんとも遣る瀬無い気持ちになる。この間もランクーレからの攻撃は途絶えることなく、舞の体にはかすり傷が増えていっていた・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……!!」

 そのことにようやく気がついた舞は違和感の正体を見つけることができた。
 先ほどまで飛んできていたアンデットはゾンビのみだったが、気が付けば飛んできているのはグールなどにすり替わっていた。単純に飛ばすアンデットが強化されていた。

 このままではジリ貧で恐らく自分がやられる。そう判断した舞は早急にその場を離れ再び距離を取る。額には脂汗が滲み、歯軋りをする。

「危なかった…! 気付けなかった知らぬ間に死んでたかも…!!」

 鼓動が早まり、息が切れる。短く呼吸を切って冷静な自分を取り戻そうとする。しかしうまく行かない。先程の焦りは尋常じゃなかった。
 それこそ、ランクーレから直の攻撃を受けたわけでもなく、ただただ攻めあぐねているランクーレを眺めていたはずなのに。それなのにも関わらず焦りは加速していく。

「っ…! とりあえず、落ち着かなきゃ。焦りは、破滅への第一歩。ふぅ…」

 深く息を吸って、吐く。吸って、吐く。目を開けると、吹雪が、一面の銀が視界を覆う。先ほどと変わらない。下を見る。何も飛んでこない。

 この高度で、この吹雪ではランクーレも対象を見失ってしまったのだろう。すでに舞の視界にもランクーレの姿はなかった。

「よし、策はないけど、だからこその正面突破だよね…いや、むしろそれしかないのか…地道にダメージを蓄積させて、最後に殴っておしまい! 完璧な作戦じゃないですか!」

 誰も見ていない雪山でひとり叫ぶ舞。空を蹴ってランクーレのいるであろう位置まで跳ぶ。

「……見つけた!」

 たった数秒で見つけたその姿は追い払ったと油断しきって隙だらけだった。音を立てずに背後に近寄り、全力でフレアをぶつける。だが、それはランクーレにとって痛みを感じこそすれど致命傷となるほどのものではなかったようだ。

 逃げた得物が帰ってきた。いや、正しくは小賢しい猿がまた自分の領地を荒らしに来た。だから怒っている。そのようなニュアンスが見て取れる。

「ちっ! やっぱり効かないか…! ………!?」

 ヒットアンドアウェイを繰り返そうとバックステップをするが、下がったその場所にはすでにランクーレの巨大な手が用意されていて、舞はまんまと捕まってしまった。

 ミシミシと体が軋む音が聞こえる。

「……あっ…! がっ…!」

 肺がつぶれかけて、息ができない。酸素が根こそぎ抜かれていくような感覚に陥る。脱出する方法はない。

──僕はここで死ぬのかな。

 ふと、舞の頭にこの一言が過る。瞼から力が抜けていく。重くなり、重力に従い、落ちる。そんな舞を起こしたのはランクーレの握力でもなく、仲間たちでもなかった。

 爆音。轟音。耳を劈くような、引き裂くような大きな音とともに体中に迸る痛みを感じる。ところどころから血が吹き出していくのがわかる。まだ、生きていることを自覚する。

「……っはぁっ! ぁっ……はっ…! ごほっ、げほっ…」

 呼吸に血がまじり苦しさを感じて咳をする。思わずでた咳に喉までもを痛めてしまう。

 ごろっ。

 咳で苦しんでいるところに、舞の耳元に何かが転がった音が聞こえた。咳をなんとか根性で押し込んでそれを見ると、そこに転がってきたのは黒い鉱石。

 酸化鉄か、黒曜石か、石炭か。痛みのせいか、死が間近にあるせいか、やけに鮮明になった思考回路の中を情報が統合するものを探すために細胞が行ったり来たりする。

 ヒット。みつけた。高度からまず、黒曜石はない。酸化鉄はありえるが、こんなに大きな鉱石は珍しい。よってほぼないと判断。そして、この空気がやけに入り込んだような穴だらけの鉱石と言ったら、石炭しかない。

 それを見た舞はランクーレの弱点を晒す方法を、見つけ出した。
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