もふってちーと!!

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もふって就職!

◆もふって急展開!?

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「っと、これが今回の調査の結果かぁ……はぁあ…なんかやる気が削がれるくらいにいやなことしてるなあ……」

 調査から帰還した無機追尾監視魔法サイレンストラックモニターの内部データをいじりながら舞はそうつぶやく。

「でも、この子のおかげで足掛かりどころか犯人見つけられたでしょ?」

「うん、まぁそうなんだけどね……?」

「所詮相手は洗脳の術式しか使えないんでしょ?」

「いや、そんなことはないと思うけど…」

 千明と涼華の二人に勢いに流されそうになる舞。そこに畳みかけるように二人は言葉を続ける。

「じゃあやることは一つだよ! 魔法なんて飾り、物理最強説を証明しよう! そうと決まればぁ…」

『早速犯人逮……』

「ちょっと待とうか、君たち」

 千明と涼華が口をそろえて言い切る前に舞が二人の言動を遮った。

「んん? どうしたんだい、舞ちゃぁん?」

「なに? お姉ちゃん」

「そんな説証明せんでもええわ!! なんで犯人見つけました、じゃあ捕まえましょうになるの! 脳筋かよ!」

 額に青筋を浮かべながら眉間にしわを寄せ、笑顔で怒鳴る舞に二人は唖然として声が出ない。それをいいことに舞はさらに言葉を連ねる。

「いきなり乗り込んで成功するわけないでしょ? いくら何でも考えが足らなすぎ…」

 ここまで言って舞は「言い過ぎた…」とようやく気付くことができた。さっきまで言いたい放題に行っていた相手、つまりは千明と涼華がそれぞれ眉を吊り上げ不安そうな目で舞を見ていたのだ。

「あ……ごめ」

「舞、ごめん」

「ごめんね、お姉ちゃん」

 舞の謝罪を遮って千明と涼華が舞に頭を下げる。

「へ? え?」

 確かに二人の言動には慎重性もなく舞の怒りはもっともなのだが当の本人はなぜ謝られたのか理解できなかった。自分がいきなり起こり始めたのに。

「舞がそこまで俺たちを心配してくれてるのに気づかずにあんなこと言っちゃって、ごめん」

 隣で千明と一緒に涼華も頭を下げる。これまた納得いかないまま不思議な雰囲気に包まれ、なんとも気まずくなってしまった。

 しかし、このままずっと黙ってるというわけにもいかないので、話を進めるかと舞から切り出した。

「……ううん、こちらこそ。いきなり怒鳴ったりしてごめんね。でも、今回の相手は洗脳を使ってくるから、万が一って可能性も見過ごせないんだ」

「うん。わかった。じゃあ改めて、作戦会議、しちゃう?」

「しちゃいましょう!」

 よし、と三人は意気込んでテーブルに座る。いい作戦を考えるのには、適度に緊張した空気が張り詰めていたほうが思いつきやすいのだ。

「さて、今回の相手だけど……洗脳の術式を使えるのはかなーり厄介だよ?」

「右に同じく。万が一に備えるとしたら、三人全員が洗脳解除マインドクラッシュを覚える必要があると思うな」

洗脳解除マインドクラッシュ?』

 舞の提案に出現した聞きなれないワードに首をかしげる二人。それを見て舞が口元に手を当てて笑う。

「すごい、息ぴったり」

「いや、そこは突っ込まなくていいから、教えてよ洗脳解除マインドクラッシュって何の魔法だ?」

「読んで字のごとく、洗脳を解除する魔法だよ!」

 嬉々とした発言につい二人は思ってしまった。『あれ、これってヌルゲーじゃない?』と。

「でも、ちょっとだけ習得するのが難しいかな~って」

 しかし、舞だけが洗脳解除マインドクラッシュを使える状態で挑み、その肝心要な舞が洗脳されてしまえば、もう後はない。まさに『魔法なんて飾り、物理最強』を実行証明しなければいけなくなる。

「でも、覚えとかないと大変なことになりそうだよね」

「うん、しかもさっき言われた通り使える魔法が洗脳だけとは限らないし…」

 そう。それに加え、映像で見たものはあくまで一部。女性たちは鎖でつながれ、抵抗できない立場にあった。つまるところを言えば、攻撃魔法や移動魔法、そして防御魔法などは使う必要がないのだ。

「だから、もしかすると…」

 そこで舞がふと何かを思い出したかのようにうつむいて考え込んでいた顔を上げ硬直してしまった。

「そうだ…あれに映ってたあいつって見た目いくつくらいだったっけ?」

「うーんと…大体三十前半かなぁ」

「……!!」

 舞は何かに気が付いたのか、目を見開き口をパクパクさせて必死になにかを言おうとしている。よほどの大発見だったのかいまだ声は発されていない。

「お、お姉ちゃん。いったん落ち着こう? ね?」

 涼華になだめられて舞は一度大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き、そして一呼吸終えてから告げた。



「───都立の図書館に行こう」

「え? なんで?」

「手がかりがあるから!」

 ほら、急いで、と二人をせかして舞は早速外での準備をし始めた。現在時刻はおよそ十時。都立の図書館につく頃にはもう午後も一時を回ってしまう。探し物を見つけるために、三人は急いで家を出た。


           ◆

 少し急ぎ足で移動をしていたから、図書館についた時刻は想定していたよりも少し早めについてしまったようだった。現在の太陽の位置から割り出せる時間はおよそ正午辺りだ。

「割と早めについたね!」

「そりゃあ…走ったりっ…したもんね」

「…はぁ…はぁ」

「いやだって、しょうがないじゃん! いつ閉まるか覚えてなかったんだし!」

 三人とも額から少量の汗を流し、千明と涼華は肩を大きく揺らしながら舞を睨みつけている。

「まぁまぁ。こうして早く着けたんだから!」

「……はぁ。せめてさ、説明してよ。一体ここになんの手がかりがあるの?」

「は! そうだよ! なんの手がかりがあるのか、説明してよお姉ちゃん!」

「えっと、確かあっちの方だったかなぁ…? ちょっと着いてきて」

 舞が図書館の目星を付けた場所に移動する。本に囲まれていて方向感覚を失いそうになるが、舞はすいすいとその中を掻い潜って進んでいく。

 図書館の館内はとても広く目的の場所にたどり着くまでに少しの時間を要した。その移動の合間に、後ろをついてきている二人からはずっと、

「ねーねー、まだなのー?」

「まだつかないのー?」

等の不満があがっていた。

 二人の不満を軽くいなしつつずんずん進んでいくと、ようやくその場所に到着したようだった。

「ん、あったあった。ここだよ」

「んー、この辺りって、魔導歴史の本…?」

「うん。そうだよ」

「ん、よく分からないよ。ここになんの手がかりがあるって?」

「えっ………と、うん、これ。前読んだんだけど、この本の中にね洗脳術式に関した資料があったんだ」

 そう言いながら、その本を手に取りぱらぱらと軽快にページをめくっていく。そこそこの厚さだからか中々見たいページが開けない。

「あ、あったあった。これ見てよ」

「ん? なにこれ……"洗脳術式、又は精神操作に関する術式を行使することが可能な魔術師は別書『精神術式使用者録』に、名とすべての使用可能術式の記述を強制する"…って、これでなんの手がかりが?」

「あ、うーん、手がかりっていうのはちょっと語弊があったかな。ごめん。素性がわかるっていうの?」

「あぁ、なるほど。これがわかればそうそうやられはしないんだね」

「そう。だから、少し探してみよう? 確か顔写真も載ってるはずだから」

「りょーかい」

「わかった!」

 この図書館に保管されている精神術式使用者録は全部で十三巻あり、その一冊一冊が物凄い厚さである。三人で手分けしても日が暮れるまでに探しきれるかどうかもわからない。

 舞は一冊目から、千明は十三冊目から、涼華は七冊目から。手分けしても中々作業は進まず、見つからないままの平行線だった。

「あー! 見つからない! 疲れた!」

 そんな状況に痺れを切らしたのは千明だった。手足をばたつかせ、椅子の背もたれに溶けるように寄りかかっている。

「うーん、確かに見つからないなぁ…」

 舞たちには徐々に疲れが見え始めていた。いくら写真を確認するだけと言っても、数百、数千ものページをめくれば疲れは回ってくる。

 たった一冊のページをすべてめくり終えるだけで途轍もない時間がかかった気さえする。外の明るさを確認することができないため、はっきりとした時間はわからない。

「うーん、でも、もう六冊目だよ?」

「よし、じゃあ、次で今日は最後にしようか」

「そうだね。そろそろ真っ暗になるくらいじゃないかな」

「最後だよ、頑張ろうね!」

『おー!』

 気合を入れて、一斉に本に向かう。一ページ一ページ、しっかりと確認しながらめくっていく。

 静かな図書館に、ひたすらページをめくる音だけが響く。そして、それから、すぐの事だった。

「あ……あ、ぁ…」

「ん? どうしたの千明?」

「あっ………!」

「あ?」

「あったー!! こいつ、こいつでしょ!」

 そう言った千明が指差していたのは、顔写真の貼られている所で、そこには、無機追尾監視魔法サイレンストラックモニターに映っていた男の顔写真が貼ってあった。

「やったー!!」

「めっけたったー!!」

「やったね!」

 長時間の作業に皆疲れを見せていたためか、反動は大きく、図書館であるという事も忘れて叫んでしまった。もちろん、そんなことをすれば注意されるのも当然で、

「あの……申し訳ございませんが、当館ではお静かにお願いします……あ、それと、あと少しで閉館となりますので、お調べものを早めに切り上げてお帰りください…」

「あ、すいません…わかりました、早めに切り上げて帰ります」

「いえ、では」

 司書さんらしき人は、一通り注意した後に一礼して図書館の中心部に向かって歩いて行った。

「……ふぅ、ここ図書館だった。忘れてた」

「だって嬉しいし、しょうがないじゃんか」

「ははは、頑張ったもんね」

「うん。みんな手伝ってくれてありがとう、って締めたいところなんだけど、その前に、ここに書いてあることメモしてこう」

「あぁ、そうか。よし、じゃあ最後の仕事だよ!」

 ようやくたどり着くことができた今回の犯人の詳細な情報を書き間違えることなくしっかりとメモしていく。やはりというべきか、精神術式を扱うだけあってそれ相当の力は持っているようだった。

「えっと、名前は…」

「ソンブル・シャルール…?」

「聞いたことないなぁ…そこそこ名のある人だと思うんだけどなぁ…」

「お姉ちゃん、これ…」

「ん?」

 涼華の指が指し示していたのは称号と書かれていた場所だった。

「……称号…全属性持ちエレメンタラー…」

 通常、異世界から召喚されたり、異世界転生した者しか手に入れることのできない称号なのだが、今回の犯人はその称号を有していた。しかし、このことを知らない三人はその情報を手に入れ、

「うーん、強そうだね」

「そうだねぇ…でも、アリルには負けるよね?」

「たぶん…ほら、ここ。この人のランクはAらしいし、何とかなるんじゃないかな」

「そうだね、何とかなるって信じよう!」

 メモも終わり内容に間違いがないか何度も繰り返して見直し、完璧であることを確認してからメモを懐にしまう。片付けをしてから忘れ物を確かめる。

「よし、何もないね!」

「うん」

「ないよ!」

 最後に司書に挨拶をして図書館を後にする。外はもう真っ暗で、町のところどころに配置された街灯が出店や住宅を明るく照らし出していた。

「ふぅー、つかれたー…」

「おなかすいたー」

「すいたー」

 お昼も食べないでずっと作業に没頭していたためか、全員空腹で、図書館を出た瞬間に同時におなかがなってしまった。

「……今日は外で食べていこうか」

『ほんとに!? やったー!』

「うん。みんな頑張ってくれたしね。好きなところ選んでいいよ! 今日はいっぱい食べよう!」

 あたりにある開いているお店は飲食店が多く、そのほとんどが肉を主に扱っている店だった。中には麺類を扱っている店や、米を扱っている店などもあった。

 一通りぐるっと回って出店を眺めた末に、一番多いであろう肉専門の店に狙いを絞り、入店していった。

 店内はだいぶにぎやかでたくさんの客によって無数にあるような席の大半はすでに埋まってしまっている。肉専門の店だけあって、客はステーキなどをほおばっている。

「おいしそうだね」

「肉だー! 肉だー!」

「本当にいいの!? 私いっぱい食べちゃうよ!?」

「どうぞ、お好きなだけ」

 珍しく興奮をあらわにする涼華に笑顔で答える舞。なんだかんだで外食で済ましたのは、ギルドが最後だったのだ。

「やったあ! お姉ちゃん、座ろう、早く!」

「はいはい」

「いらっしゃいませ。本日は何名様でご来店でしょうか」

「あ、三人でお願いします」

「かしこまりました。ではお席に案内いたしますのでこちらへどうぞ」

「はい」

 店員さんに案内されて席に座る三人。メニューを開くとその中には肉。肉。肉。ステーキから骨付き肉、ローストビーフらしきものまで豊富な種類の肉料理が所狭しと並べられている。

「ふたりとも、好きなのたのんでね」

「はーい!」

「はーい!」

 しばらくメニューを眺めていた二人は自分が食べるものを決めたようで、各々注文を済ませた。

 全員の注文したものがそろって夕飯を食べ始めてから少しして、店の入り口のほうから騒音が聞こえてきた。どうやら、入店してきた客が何かをやらかしたようだった。

 夕飯の途中だったため、騒ぎがあまり大きくないうちは動かないつもりでいたが、そうもいかないようだった。突然店内がさっきとは全く異なった様子で、ざわつき始めたので舞たちもさすがに何事かと席を立ち様子を見に行く。

「何があったんだろう…」

「あ、いいよ、僕が見てくるから待ってて」

「え、ちょ、危ないよ?」

「そうだよ、危ないよお姉ちゃん…!」

「でも、全員行って何かあるよりましでしょ? 一番力がないのは僕なんだし」

 そう言って一人で様子を確認しに行く舞。だが、ちらっと外をのぞいただけですぐさま引き返してきた。

「ん? どうしたの?」

「あ、あああ、ぁあ」

「お、落ち着こう、ね? いったん落ち着こうよ」

 深呼吸をして、少しの間うつむいてから、顔を勢いよく上げて言った。

「あいつが、ソンブルが……!!」

「えっ…!」

「ちょ、ちょっ、ちょっとおおお落ち着こうよ……なんでいるのあいつ!? ひっひっふー、ひっひっふー」

「千明、落ち着いて!? 一番頭おかしいよ!?」

 そんなやり取りをしている間に悲鳴交じりに騒ぎが大きくなっていく。そのうち、食器が崩れ落ちる音や、人が倒れる音までもが聞こえてきた。

 すかさず外を覗くと、ソンブルが一人、また一人と、屋敷で行っていたように魔法を行使し、洗脳を施していた。

 その最中に抵抗を見せた人は、すでに洗脳された人たちによって無理矢理取り押さえられ、洗脳されるのを待つのみとされたしまっていた。

「ねぇ、洗脳された人ってもしかして…?」

「うん。多分……いや、間違いなく」

「直接術式に組み込んだりしてるってことなの?」

「その可能性が現状一番高いかな。それ以外の魔法を使ったようにも見えなかったし……ただ、そうなるとやっぱり厄介なのは…」

「冒険者さんとか、かな?」

「そうなるね…つまり、今この状況はかなりゲームオーバーに近い状況だってことにな…」

「おい」

 舞たちが密かに会議していると、突然誰かに声をかけられた。びっくりして頭を上げると、そこにはソンブルが邪悪な笑みを浮かべ立っていた。

「お嬢さん方、楽しそうじゃあないかぁ…秘密の井戸端会議ってかぁ……はぁ…? ……なぁ? ははははははっ!」

「ひっ……!」

 突然顔を手で覆い笑いはじめたソンブルはその手の指の感覚を少しだけ開けてこちらを見やる。

「なぁ………? あんたら、いぃぃ、カラダしてんねぇ…はぁ…? ちょっと、俺の、実験台になってくれないかなぁ……はぁぁ……?」

「……っ! 断る! お前なんかの操り人形なんて真っ平ごめんだ! そんなに僕達が欲しいなら力尽くで奪ってみろ!」

「………あぁぁあああ!!? おめぇぇ…いまなんつったぁああ!? はあぁぁあ…? だァれにモノを……言ってるんだよォ……!?」

 先ほどの邪悪な笑みをその顔から何もなかったかのように消し去り、顔を覆っていた手は、ソンブル自身の顔を深く抉っている。

 その表情には哀しみや怒りなどが見えたが、力を抜き、指から滴る血を舐め取りながら、再びこちらを見やり気持ち悪いほどに口角を吊り上げ、笑う。

 けたたましく、雄叫びのように、絞り出した、金切り声のように、快楽に浸る、嬌声のように。

 声にならない、声で。

「──────────────!!」

「──ッ!?」

 突然、何もないところから氷塊が生まれ、その鋭利になっている尖端をこちらへ向け、素早く射撃してくる。ここでやられるわけにはいかない三人はその攻撃を咄嗟に避け、すぐさまソンブルに対応できるように受け身を取る。

「なッ!? はやッ!」

 しかし、受け身を取ると同時にソンブルは第二撃をすでに放っていて、舞たちは防戦一方となってしまっている。

 誰がどう見ても、劣勢なのは、舞たちだった。

「なぁんで魔法は全体に攻撃ができるかなぁ!」

「そんなの知らないよ! いいから、隙を見て反撃に移るよ!」

「わかってる!」

 攻撃を避けながら反撃のチャンスを覗うも、ソンブルはまったく隙を見せない。

「ははははははは!!!! どォぅしたぁ…はぁ……!? 
そォんなもんなのかァ!? あはははははっ!! こうしてる間にも、俺の、下僕は、増えていくぜぇ……? なぁ……!!!


───この、盗人がァ!!! よくもまぁ俺の屋敷に変なもん飛ばして覗き見してくれたなぁ! あァ!? 変態か? 変態なのか? あァあ!!? ぶち殺すぞォ!?」

「!? なんで!? 無機追尾監視魔法サイレンストラックモニターは、空気中の魔力マナに溶け込むはず…! なのに、なんで!? ………いや、今はそれどころじゃない! 千明!」

「はいよっ!」

「涼華も!」

「うんっ!」

 ソンブルが激昂し、攻撃が止んだ瞬間を見逃さず三人は防戦から一気に好転し、攻勢へと転じる。しかし当のソンブルは気にもとめてないようでずっと空に向かい叫び続けている。

 これが好機と見るやいなや舞たちはすぐさま逃げ出そうとするが、それを許すほど敵も寛大ではなかったようで、

「おいぃ! どこに行こうってんだぁ……はぁぁ……!?」

「あっ、ぶなっ! やめっ!」

 退路を塞ぐように氷塊を飛ばしては道をどんどん狭くしていく。

 このまま氷塊を壊すことができなければ道を塞がれてゲームオーバーな未来しか見えない。氷塊を、壊すしかなかった。

「千明! ごめん、お願い! 涼華も!」

「はいはいっ! 壊れると、いいねっ!」

「………フレアッ!」

「なにぃッ!」

 二人の攻撃が氷塊に炸裂し、爆発を起こす。あたりに砂煙が舞い散り、周囲の視認ができなくなる。

「やっ…」

「それは言わないで! フラグだよ!」

 段々と視界が晴れてきて、あたりがある程度見える様になったと同時に、氷塊を確認する。

「………!」

「……はぁ……」

「うっ、そ………?」

 完全に晴れて、見えるようになった氷塊は、欠片が周囲に待っているだけで、穴どころか、ヒビすら入っていなかった。

「うん。うん。そうだよねぇ……ははっ、無理だよォ…君たちじゃァ………心配したけど、君たち程度じゃァむりだよぉ…はぁ……!」

「そこそこ力はあるはずだよ!?」

「私も、できるだけ魔力マナを込めて打ったよ!」

「もし、もしもだァ……とォーッても濃密な、それは極上の氷の魔力マナの壁があったとしたらァ……どぉかなァ…はぁあ……?」

 魔力は、魔力によって互いに消散させることができる。それは、相反する属性同士の魔法を同程度の密度と威力でぶつけた時である。もし、片方のほうが密度が高ければ密度が高い方がその場に残り続ける。

「つまり、涼華の魔法は、お前の魔力障壁マナウォールより密度が低いって言うのか…?」

「そォいうこったぁぁ…はぁ……まぁ、今回は運が悪かったと思って死んどけやァ…! くはははっ!」

「っ!」

 ソンブルの腕が振り上がり、氷塊が空中に生成される。それは、ソンブルが腕を振り下ろすと同時にこちらに尖端を向け、一直線に飛んでくる。

 逃げ道がない舞たちは、もはやここまでか、と衝撃を待つように目を強く瞑る。しかし、その衝撃とやらは、いつまで経っても舞たちを襲うことはなかった。

「──おい。目を開けろ。ふざけるな。それが我に果敢に食らいついてきた奴の最後か」

 突然、目の前から声が聞こえてきて、目を開ける。

 するとそこには、ここにいるはずも、ここにくるはずもないアリルの姿があった。

 当然、舞たちは目を見開いてアリルを見て硬直してしまう。数秒経ち、アリルは小さく溜め息をつき、

「お前ら…いい加減にしろ。つまらん。つまらんぞ。我を倒すのではなかったのか? こんな、化け物に成り下がったゴミにも勝てぬようでは我には到底敵わんぞ」

「アリル………」

「おいィ………! なァんで俺の死刑執行を邪魔するんだァ……? あぁ!? 退けよ! そこからァ! 邪魔なんだよォ!!」

「アリルっ! 危ないっ!」

 ゴッという鈍い音とともにアリルの頭部が激しく揺れる。しかしアリルはさして何もないような顔をして平然とこちらを見ている。

「おおぉおおおおおぉぉおおおいいいいいいいィィイ!!! なんでだよォ!? 死ねよォ!!! 邪魔なんだよォ! 邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァ!!」

「ふぅ、うるさい奴だ……」

 やれやれといった仕草をして、くるりと後ろに振り返る。目前に迫ってきているソンブルを右手で払い地面に叩きつける。

「ぐゥッ! ッてぇなァッ! おい、お前らァッ! こいつを取り押さえろッ!」

 不意打ちを軽くいなされたことに怒りを覚えたソンブルは激しい怒号をあげ、先ほど洗脳したばかりの人々を使ってアリルを取り押さえようとした。

 しかし、アリルにとって人々は所詮人間であって、その人質は抑止力にはならなかった。

「ふん。我は、我が認めた者にしか興味がわかんのでな。生憎、一般の人間になどこれっぽっちも情はわかん。諦めろ」

 そう言って、動きを止めようと寄ってくる人々を薙ぎ払ってどんどんソンブルとの距離を詰めていく。

「なッ……! 来るなァ………!!」

 圧倒的なアリルの強さを目の当たりにして、恐怖に染まるソンブル。じりじりと距離を詰められ、アリルの陰に隠れると、

「ひぃッ!」

 という声を最後に何も聞こえなくなった。それと同時に操られていた人たちは膝からがくんと崩れ落ち、すぐに意識を取り戻した。

 この騒動の終わりに最後に残ったのはソンブルだったもの・・・・・だけだった。

「……アリ…ル…」

「ふん……つまらんやつに成り下がってしまったか。最早、我の脅威になる事はかなわぬぞ」

「ちがっ…!」

「何が違う。お前らの慢心が今回の自体を招いたんだろう。違うのか? ……言ってただろう、自分自身で、SSSランクに近い? ふざけるな。魔法をろくに使ったこともない青二才が」

「………! でも…っ! 諦めてなかった!」

「眼前に迫った敵の攻撃を目を瞑って待っていたというのにか?」

「ギリギリで、魔法を使うつもりだった!」

「信じられんな。特に、お主が言うとな。マイ、だったか?」

「わかったよ、じゃあ、見せれば、使おうとした魔法を見せれば納得する?」

「見せるだけでは駄目に決まっておろう。ギリギリまで引き付けるくらいなのだから、余程自信があったのだろう? 我相手に使ってみよ。我自身が見定めてやる」

「ちょっと待ってよ! そんなの諦めた諦めてなかったには関係ないでしょ!? 下手したら舞が死んじゃう!」

「だが、力が無ければどっちにしろ死ぬ。それに…」

「それに?」

「状況を再現して、そこで考えていた事ができれば、まぁ、納得する材料にはなり得るであろう。ましてや、相手はこの我だ」

 有無を言わせぬ雰囲気があたりに漂いはじめる。ひどく張り詰めていて、自分が弾けとびそうなくらいの緊張感が三人を襲う。

 ここでアリルを納得させなければ、自分達も死ぬ気がする。それを直感で感じ取り、舞たちも焦っていたのだ。

「……いいよ、やろう」

「舞!?」

「お姉ちゃん!」

 二人が必死の形相で舞の腕を掴んで止めようとするが、舞はその制止の手を払いのけアリルのいる方へと歩いて行く。

 それを見たアリルは少しだけニヤッとして腕を組む。

「……やはり、そうでなくてはな。しかし、尚分からんな。何故我に恐れをなさずにあのゴミめに恐れをなしたのか」

「いいよそんな世間話は………はじめよう」

「相分かった……では、行くぞッ!」

 アリルは、舞が先ほど追い詰められていた位置に座りこんだのを見ると、すぐに地を蹴り攻撃を開始する。

「─────!!!」

 舞が魔法を行使した瞬間、あたりがはじけた。
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