もふってちーと!!

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もふって就職!

◆もふって戦闘!

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 翌朝、目を覚ました三人はいつも通りに食卓に座り、朝食を食べていた。

「ほーあ、ほうひへはひほうほんはほほひふへはんらお!」

「何言ってるか分からないよ!ちゃんと口の中からご飯がなくなってから喋りましょう!」

 いきなり口に物を入れながら喋り出した舞を叱り付ける涼華。千明は朝に弱いので空気と化していた。

「むぅ…んく……ふぅ。それでね、昨日こんな物を見つけたんだよ」

「ん?どれどれ?」

 そういって舞が取り出したのは赤い宝石の様な物で、何処か禍々しいような気配を感じさせられる。

「…これなに?」

「それがね、わからないんだよ。落ちてて綺麗だからーって拾ったんだけど、正直、少し気持ち悪いんだよね」

 机の上に置かれた石を見つめながら言うと、先程まで空気だった千明も涼華と一緒に首を縦に振って同意の意を示している。

 二人共、言い様のない気持ち悪さに気が付いていたようだった。

 結局朝食が終わってから、石を鞄の中に入れて今日の仕事帰りに鑑定所に寄って鑑定してもらうことが決まった。

 その日の仕事は、昨日と同じくイス草の納品依頼だった。

 しかし、昨日とは違って、果てしない量のイス草を採取することができた為に銀貨2枚と大胴貨5枚と言う大金を手にすることができた。

 帰り道、舞は目的の場所を見つけた。

 【ガルズ鑑定所】

 ここは、主に魔道具や、魔石などの鑑定をしている鑑定所で、その鑑定の腕から王国中から利用者が訪れるのだ。

 そんなガルズ鑑定所に入ると、カウンターに黒いローブを身に纏った人が椅子に座っていた。

「…いらっしゃい。今日は何の用かね?」

「ええと、とある石の事なんですが……」

「……魔石の鑑定かい?」

「いえ、なんだか、気味の悪い石の鑑定です。コレはイースガルズ平原で拾ったもので……」

 早速本題に入っていく舞。それをじっくりと聞いていたローブの人物はしきりに首を傾げていた。

「…それは本当に拾ったのかい?」

「はい」

 雰囲気からローブの人物が考えこんでいることが分かる。そしてすぐに此方を向いて結論を言い放った。

「それは、ドラゴンの命石めいせきだよ。それも凄く昔の前古時代のね」

「命石?ですか?」

「あぁ、そうだよ。別名ハートストーン。ちなみに、その命石の魔力を少し見てわかったが、ドラゴンの中でも格別な存在の命石のようだよ」

 ローブの人物は真剣な声で此方に語りかけてくる。

「格別な存在…それは、神格を得たドラゴンだよ」

「ちょっ、ちょっと待ってください。僕、神格とか聞いたことがないんですけど。辛うじてドラゴンは知っていましたが……」

「……そうだな…珍しかったからついテンションがあがってしまってな……一から説明し直そう」

「はい」

 ローブの人物によるとドラゴンとはこの世界のヒエラルキーの頂点に君臨する種族らしい。

 神格持ちの生物は多様に存在するが、ドラゴンの神格持ちは二万年に一度生まれるか生まれないからしい。

 主に神格は先天性の物だが、一部を見れば後天的に神格化した生物もいるらしい。

 そんなただでさえ強いドラゴンが神格化したらどうなるのか。

 答えは簡単に街どころか国が二、三個滅んでも討伐が難しい程に強いらしい。

 過去に討伐されたという歴史があるがその伝承が正しければ確実に五国程ドラゴンによって滅ぼされている。

 それどころか、ただのドラゴンでさえ国が総力をあげて軍を動員してもギリギリ討伐できるかできないからしく、最高ランク冒険者を一人雇って漸く倒すことができたという。

「…話の方向性が変わってしまうんですが、この命石ハートストーンって何に使うんですか?」

命石ハートストーンにはね、その魔物や魔獣の魔力がそのままそっくり入ってる。使わない限り劣化もしない石さ。だからその性質を活かして魔道具なんかに使われるね」

「なるほど……」

「あぁ、でも、気を付けなよ。魔力を放出させるならいいが、間違えて魔力を送り込んでしまうと命石ハートストーンから魔物が蘇ってしまう……最悪死ぬぞ」

「わかりました、ありがとうございます。鑑定料は……」

「いや、いいよ。久しぶりに珍しい物に出会えた。それで十分さ」

「…そうですか。ではお言葉に甘えさせて頂きますね。また、機会があれば」

「ああ、またな」

 舞達は鑑定所を出てすぐに走りだして、家に戻っていった。

「…やるしかないよね?異世界だもんね?」

 家に着いてすぐ、舞は荷物を放り投げると二人に視線を送りながら言う。

「もちろん。やらないわけないじゃん」

「うん!やるしかないよ!」

 二人とも何をするかも理解していて乗り気のようだ。

 三人の中でもずば抜けて常識人な涼華も何をするかを察した上で同意しているようだった。

「よし、早速明日やろうかーーー






ーーー神格化ドラゴンの蘇生を」


 三人は部屋の中で薄気味悪い笑みを浮かべて笑い合っていた。

 その日は夕飯を食べてすぐに床に就いた。

 翌日、よほど楽しみだったのか三人共目の下に隈を作っていた。

「よし、ついに今日だよ!」

「そうだね!」

「うん!」

 相当張り切っていることが朝食から見て取れる。

 いつもなら質素に和食で統一してあるのだが、今日は朝から肉やら何やらと沢山並んでいる。

 もしもの時のために朝食にがっつく三人は、すぐに用意された物を平らげてしまった。

「ふっふっふっ。あまりに楽しみすぎて、朝食を食べ過ぎてしまった」

「……右に同じ…うえっ……」

「私は適度に食べて終わりにしたから……」

 「寧ろ、よくあんなに食べられるよね」と苦笑い気味に涼華が呟く。

 食べ過ぎて気持ち悪いのか二人は顔を真っ青にしながら、目的地の誰もいないイースガルズ平原を目指していた。

 程なくして平原についたが、未だ顔が青い二人の回復を待ってから、という事になった。

 それも、楽しみには勝てないのかすぐに体調を万全に引き戻して元気になる。

「さて……やるよ」

「うん」

「……」

 いよいよドラゴンとご対面という事に各々緊張した面持ちになる。

 そして、舞が命石ハートストーンに魔力を流しこんだ途端に、平原一体が膨大な光に包まれた。

 光が止むと、そこには小さいが果てしない量の魔力を持つドラゴンが翼をはためかせて浮遊していた。

「…これが、ドラゴン」

「……うっ…」

「…千明お姉ちゃんが、魔力に当てられてる……!」

 急に苦しみ始めた千明に回復魔法をかけるが、一向に良くならない。

「…また気持ち悪くなってきた……食べ過ぎた………」

「そっち!?」

 焦って損をしたようで、千明はただ気持ち悪さがぶり返しただけだった。

『……おい。人間』

「まったくもう…心配させないでね?」

「ご、ごめん……うっ…」

「ちょっ、千明お姉ちゃん!?」

『おい。人間共。我を目覚めさせたのはお主たちk…』

「千明、大丈夫?」

「な、なんとか」

 何度も此方に声を掛けてくるドラゴンの言葉にかぶせて三人は喋り続ける。

 段々とドラゴンの顔に青筋が浮かび始める。

『おい。人間共。いい加減にしろ。キレるぞ』

「キレてるじゃん」

 まさかのドラゴンのキレる発言に笑いながら言葉を返す舞。

『ええい!もういいわ!頭にきた!殺してくれる!!』

 一瞬で目の前に移動をしてきたドラゴンは、小さいながら大きな鉤爪を持っていて、その鉤爪で体を切り裂かれそうになる。

 咄嗟の判断で千明が舞の前に出る。

 ドラゴンの鉤爪が千明に刺さる前に、千明のスキルの自動物理障壁シールドが発動して二人共無事に無傷だ。

「あっぶなー……」

『…ほう、我の横薙ぎをただの自動物理障壁シールドで防ぐか。中々高位な魔法使いだな。身体能力も相当なものを持っている。強いな』

「へー、よくわかったね」

『だが、生憎と貴様程度の人間は散々屠って来た。今更貴様に後れを取る程我も弱いわけではないのだ』

 そう言うとドラゴンは更にスピードをあげて千明に肉薄する。

 千明はそれをいとも簡単に避けてみせる。

 その余裕綽々な表情に苛立ちを隠せないドラゴンは更にスピードをあげて攻撃を仕掛ける。

 世界最強種を相手に引けを取らない速さを持つ千明がその攻撃を受け流して攻勢に転ずる。

 しかし、ドラゴンも余程戦い慣れているのか攻撃が当たらないどころか流されて時々反撃されてしまう。

 お互いに空中戦へと誘い込み、戦いは更に縺れ込んでいった。

『…お主、中々やるな』

「そっちこそ!」

 ドラゴンは久方振りに強者が現れたことに喜び、千明は自分の力をコントロールする訓練相手が出来て喜び、お互いにお互いを賞賛し合う。

『……埒が明かんな。そろそろ、私も本格的に戦うとしよう。少々大人気ないが、悪く思うなよ』

 そうドラゴンが言うと、自身から出た闇で身体を覆い隠してしまった。

 千明が今がチャンスと魔法を放つが、黒い闇に阻まれて届かない。

 やがて、ドラゴンを覆っていた闇が空に溶けていき中から出てきたのはーー






ーー黒い翼を生やした人間だった。
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