もふってちーと!!

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もふって新人生!

◆もふって邂逅!

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「まだか……」

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。体感ではもう何日も経っているようにも思えるほど舞は疲弊していた。

 息を整えつつ、整備などされていない獣道を歩いて行く。

 もう、一歩を踏み出すことすら辛いと言わんばかりに足は乳酸でパンパンに膨れ上がって突っ張っている。

「くそっ…安易な考えで彼処から移動を試みるべきじゃなかった…!」

 自身に対して罵詈雑言を吐く。ちょっと深いだけの森なんてすぐに抜けるさ、などと甘い考えをしていたあの時の自分を責めるように。

 ぶつぶつと独り言を呟きながらも歩みを進めると、ふと、辺りが明るくなったのがわかった。

 はっ、と顔を上げるとまるで、森の木をそこだけ消し去ったかのような綺麗な草原が広がっていた。

 今は何時ごろかと空を見上げる。既に日は沈み、満天の星空が輝く。舞は北極星の位置からおおよその時間を測定する。

「もう、夜も遅いな。明日も歩くことを考えると寝るのが先決か。だけど、危ないな。我が身一つで野宿は危険だよな。」

 そこまで言って舞は「ん?」と声をあげる。

「よくよく考えてみれば、今まで何にも遭遇しなかったってことは、何もいないんじゃないか?」

 「第一ここは異世界だし、死んだら死んだでいいや」と、自問自答を繰り広げ、満足の行く解答が得られた舞はその場でドサッと地面に寝転がる。

「……おやすみ」

 草原の敷布団に風の掛け布団、などと詩的なことを考えながら眠りに就いた。

 翌朝、明朝一番、舞はいきなり叫びだした。

「うええぇぇえ!?なんで!?いや、なんで!!」

 それは、目が覚めると隣に寝転がっていた一人の人間に対して発されたものだった。

 どこかで見たことあるような顔をしているその人間は見た目から明らかに女の子だという事がわかる。

「な、なんで、ち、千明がここにっ!?」

「んぅ?………ぅるさぃょぅ……」

「いや、ぅるさぃょぅ……じゃねぇよ!!」

「ぅへへー……いつでもあなたの側に、千明ちゃんだよぉ…」

「うおっ!」

 そう、千明だった。

 しかし寝惚けているのか、千明は女体化して容姿が変わったはずの舞に対して抱きついたりしている。

「はーなーせー!」

「ぅへー…かわいいおんなのこだよー………」

「や・め・ろ!」

「ぶー」

「ぶーじゃない!」

「うー………はっ!……はぅ…」

 こんなやり取りをしている間に千明の眠気は吹き飛んだようで、自分が今何をしてどんな状況なのかを勝手に察し、赤面して悶えている。

「わ、忘れてっ!俺がさっきしたこと全部忘れてっ!!一生の恥だから!!……こうなったら!!貴方を殺してこの秘密を墓場まで持っていく!!!」

「ちょっ、待てっ!忘れはしないが誰にも言わないから!!な!!」

「信用できない!!舞とも涼華ちゃんとも離れ離れだし…この恨み!晴らすべし!」

「僕に八つ当たりするな!」

 二人は肩を上下させながら互いに睨み合う。数瞬の緊迫が訪れる。すると、そんな雰囲気をぶち壊すかの如く女の子が悲鳴を上げながら走ってきた。

「きゃぁぁぁぁぁああああ!!」

 女の子の後方には猪が。今のこの状況を見るにまともに戦えるのは舞しかいないようだ。それを悟ったのか、一歩、舞は前へと出る。

 カッターをポケットから取り出してかまえる。

 舞と猪が対峙し、じりじりとお互いに距離を詰めていく。舞はグッ、と、カッターを握りしめて大きく一歩を踏み出す。

「おおぉぉぉぉおお!!」

 カッターの軌道を読んでいたかのように猪は軽々と避ける。

「うそっ!?」

 避けられたカッターは力の行き場を失い、舞の体ごと前に放られる。そこをチャンスと見たか猪は舞に向かって突進を繰り出してきた。

「Bumooooooooooo!!!」

 舞は流れに身を任せていて、猪の突進を避ける術は無かった。だが、猪が突進を繰り出すのが少し早すぎたのか、舞には当たらず、挙句には舞にその毛並みを触られていた。

 瞬間、舞の頭の奥底から明るいファンファーレが鳴り響く。

「うぇっ!?」

 突然の事に舞は驚いたが、猪との戦いから目をそらす程馬鹿ではなかったようだ。

 また、同じように猪が突進を繰り出してきた。そこで、舞はあることに気づいた。

「ん?」

 猪の動きが先程よりも見違える程に遅くなっている。恐らく原因はあのファンファーレだが、何にせよ、今の舞には好都合だった。

「……はっ!」

 猪が近づいてきたところを狙って脇腹にナイフを刺し込む。すると猪は雄叫びをあげ息絶えていった。

「…これが異世界での初戦闘とか」

 何もしていないのに行き成り強くなって初めての相手を倒してしまった舞は残念そうな顔をしていた。

「もっと、バチバチのヤツがやりたかったなぁ……せっかくの異世界なのに」

「でも、君女の子じゃん。筋肉とか足りないところ、一杯あるんじゃない?」

「あぁ、そっか…猪に勝てただけでも儲けモンってか……はぁ……」

 未だに手に残る猪の肉を切り裂く感触を拳を握り、しっかりと体に刻む。

 呆気無く終わってしまった戦闘だが、確かに敵意を持った生き物を殺した。異世界だから、当たり前だ。

 何かチートな能力を持っていれば別だが、それも現段階じゃ分かるはずもない。この世界で生きる事に、遠慮は要らない。

 そう、強く言葉を飲み込み改めて千明と向きあって話を始める。

「んで、千明?なんでお前がここに?」

「いや、ちょっと待って。いくら俺が寝惚けてあんなことしたからって、行き成り名前呼びは…」

「ん?あぁ、いい忘れてた。悪い。俺がお前の探してた舞さんだぞ」

 舞の言葉に一瞬呆けた顔をする千明。
すぐにはっ、として当然の疑問をぶつけてくる。

「え!?なんで!?女の子だし、見た目も全く違うじゃん!なんでフツメンから美少女!?」

「フツメンだったけど、余計なお世話だ!…ったく。僕も理由はよくわからない。こっちにきたらこうなってたんだ」

「リアル女体化ktkr」

「あ?なんて言ったんだ?」

「気にしなくていいよ」

「お、おう」

「それじゃあ、これからよろしくね、舞」

「おう、千明もな!」

 二人ががっちりと握手をしたりハグをしたりする。

 二人の時間を楽しんでいると小さい声で誰かが喋っているのが聴こえた。

「あぁ、私は空気なんですね。放置プレイですか?感じちゃいますよ?なんで二人でイチャイチャしてるんですか。泣きますよ。ひとりぼっちって辛いことを知りましょうよお二人さん」

「あ、ごめんね、忘れてた」

「…悪い悪い……ぷっ……くくっ……」

 もちろん態と放置していたのだが、舞は思わずツボってしまったらしい。

「酷いです……って、千明さんとお兄ちゃんなら別に敬語じゃなくてもいいよね」

「もちろん!」

「なんで兄に敬語なんだよ。今時流行らねぇぞ敬語妹なんて」

「じゃあ、私もこれからもよろしくお願いしますっ!!」

「「よろしく」」

 こうして、無事に三人が合流しら街への道を探してまた森へと入っていった。
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