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第15話
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部屋に油の匂いが充満し、油の跳ねる音が響いている。
「あっち……!」
たまにそんなことをいいながら、広海くんが唐揚げを揚げてくれている。私が食べたいといったのがきっかけ。
別に作れないこともない。ただ自分一人のために肉を漬け込み、衣をつけて、熱い思いをしながら揚げて、後片付けをするのが億劫で重い腰が上がらなかったのだ。
唐揚げのいい匂いが漂ってくる。
絶対にいい旦那さんになるな、これ。広海くんと付き合ったり、結婚できる子が羨ましい。
そう思い、小さくため息を吐く。
最近、広海くんへの想いは大きくなるばかりで、ふとした時に溢れてしまいそうになっている。でも、叶わない、叶えてはいけないと自分をなんとか押し止める。
十年の壁は分厚く高い。
広海くんが成人しても、十の年の差は一生縮まらない。
「華帆さん、もうできますよー」
その声に考えるのをやめてキッチンへと向かう。
お皿の上に熱々の美味しそうな湯気を上げる唐揚げが並んでいる。
今はただこの幸せを噛み締めよう。鳴りそうになるお腹に急がされるように、私はいそいそとお皿をテーブルに運ぶ。
美味しい唐揚げをお腹いっぱい食べて、ソファーにくつろぐ。
洗い物は私がといったのに広海くんがかってでてくれた。いつもお部屋使わせてもらってるんでと、爽やかにいわれては、断るのも引ける。
幸せだなぁ。お腹が満たされ、窓から差し込む日光で程よく温かい。強い眠気に襲われ、あくびが出てくる。私は思いっきり体を伸ばした。
聞こえていた水音が止まり、広海くんの足音が近づいてくる。
叶わない恋心を抱き続けるのは苦しいけれど、この日々を失いたくないなと思う。でも、この日々も受験を終えればなくなる。
新しい生活が始まる広海くんに私はきっと必要ない。
私は私で始めて、歩いていかないと。
「旅行にでもいくんですか?」
食後のコーヒーまで淹れて持ってきてくれた広海くんはそういいながら隣に座った。
「え?」
そんな予定なんてないけどな、なんでそんなことをと思いを巡らせてみる
「キッチンの棚田に旅館のパンフレットとかあったんで、行くのかなって」
「あぁっ!!」
母から届いた手紙と今の旅館のパンフレット諸々を、キッチンの戸棚を置いたまましまうのを忘れていた。
「両親が経営している旅館なの。戻ってこいっていわれてて……」
その後に繋がる言葉がわからず口を閉じると、なんだか意味深な空気になってしまって、慌ててまた口を開く。
「接客業向いてないってわかってるし、戻るつもりないんだけどしつこくてさ」
なるべく軽くいって、広海くんの反応を伺う。
「華帆さん、家に帰りたくないんですか?」
悲しげな顔をして聞かれて、胸がきゅっと締まった。言葉にしにくいことをついてくるなぁ。
「帰りたくないっていうか、帰りづらいっていうか……」
自分がどうしたいのかまだ決まってないから言葉を濁すしかない私に、広海くんは優しく声をかけてくれる。
「話しならききますよ。華帆さんが遠くにいくのは嫌ですけど、戻りたくないっていうより、戻りたいけど戻れないって感じがしたんで。帰りたいなら、帰ればって事情を知らないから俺はそう思いますよ」
そういうところが好きなんだよな。なんでも丸っと包んでくれるような優しいお兄ちゃん。気が使えて、私のことよく見てくれて、思わず甘えそうになる。
「家を出る時、母に猛反対されてね。なんとか納得してもらって出たのに、仕事クビになったからってのこのこ帰るのって、甘えてるなって思っちゃって。自分で自分のことがしたいから出たのに、戻ったら意味ないんじゃないかって考えちゃうんだ。でも母の心配もわかるし、戻るべきなのかなって悩んでる」
私の言葉を受け止め、真剣に考えてくれてるのがその表情からわかった。
「家族なんだから甘えるのはいいと思います。華帆さんは今まで、自分のことを自分でしてきて、学生の時から頑張ってきたんでしょ? それはなくならないし、家に帰って甘えてると思ったことがあってもきっとそれは、疲れてるからとかもあるんじゃないですかね。休んでからまた頑張ればいいんですよ。それに家を出てきた時のことなんて過去の話ですよ。華帆さんのお母さんはその時のことなんて気にしてないし、今はただ帰ってきて欲しいと思ってるんじゃないですかね」
甘えてもいい。過去の話。広海くんはなんでいつも私の欲しい言葉をくれるんだろう。出そうになる涙を押し込める。そう何度も泣き顔を見せられない。
「ありがとう。話せてすっきりしたし、帰ってもいいのかなって思えた」
私の言葉に笑顔で頷く広海くん。
「力になれたならよかったです。でも、帰る時はいって下さいね。いきなりいなくなるとかなしですよ」
「そんなの当たり前じゃん」
そういいつつも、もし帰るなら、顔を見てちゃんとお別れできる自信ないし、会えば恋しくなって、連絡取り続ければ会いたくなっちゃうから、全てを捨てて逃げるように広海くんの元から去る気がした。
「あっち……!」
たまにそんなことをいいながら、広海くんが唐揚げを揚げてくれている。私が食べたいといったのがきっかけ。
別に作れないこともない。ただ自分一人のために肉を漬け込み、衣をつけて、熱い思いをしながら揚げて、後片付けをするのが億劫で重い腰が上がらなかったのだ。
唐揚げのいい匂いが漂ってくる。
絶対にいい旦那さんになるな、これ。広海くんと付き合ったり、結婚できる子が羨ましい。
そう思い、小さくため息を吐く。
最近、広海くんへの想いは大きくなるばかりで、ふとした時に溢れてしまいそうになっている。でも、叶わない、叶えてはいけないと自分をなんとか押し止める。
十年の壁は分厚く高い。
広海くんが成人しても、十の年の差は一生縮まらない。
「華帆さん、もうできますよー」
その声に考えるのをやめてキッチンへと向かう。
お皿の上に熱々の美味しそうな湯気を上げる唐揚げが並んでいる。
今はただこの幸せを噛み締めよう。鳴りそうになるお腹に急がされるように、私はいそいそとお皿をテーブルに運ぶ。
美味しい唐揚げをお腹いっぱい食べて、ソファーにくつろぐ。
洗い物は私がといったのに広海くんがかってでてくれた。いつもお部屋使わせてもらってるんでと、爽やかにいわれては、断るのも引ける。
幸せだなぁ。お腹が満たされ、窓から差し込む日光で程よく温かい。強い眠気に襲われ、あくびが出てくる。私は思いっきり体を伸ばした。
聞こえていた水音が止まり、広海くんの足音が近づいてくる。
叶わない恋心を抱き続けるのは苦しいけれど、この日々を失いたくないなと思う。でも、この日々も受験を終えればなくなる。
新しい生活が始まる広海くんに私はきっと必要ない。
私は私で始めて、歩いていかないと。
「旅行にでもいくんですか?」
食後のコーヒーまで淹れて持ってきてくれた広海くんはそういいながら隣に座った。
「え?」
そんな予定なんてないけどな、なんでそんなことをと思いを巡らせてみる
「キッチンの棚田に旅館のパンフレットとかあったんで、行くのかなって」
「あぁっ!!」
母から届いた手紙と今の旅館のパンフレット諸々を、キッチンの戸棚を置いたまましまうのを忘れていた。
「両親が経営している旅館なの。戻ってこいっていわれてて……」
その後に繋がる言葉がわからず口を閉じると、なんだか意味深な空気になってしまって、慌ててまた口を開く。
「接客業向いてないってわかってるし、戻るつもりないんだけどしつこくてさ」
なるべく軽くいって、広海くんの反応を伺う。
「華帆さん、家に帰りたくないんですか?」
悲しげな顔をして聞かれて、胸がきゅっと締まった。言葉にしにくいことをついてくるなぁ。
「帰りたくないっていうか、帰りづらいっていうか……」
自分がどうしたいのかまだ決まってないから言葉を濁すしかない私に、広海くんは優しく声をかけてくれる。
「話しならききますよ。華帆さんが遠くにいくのは嫌ですけど、戻りたくないっていうより、戻りたいけど戻れないって感じがしたんで。帰りたいなら、帰ればって事情を知らないから俺はそう思いますよ」
そういうところが好きなんだよな。なんでも丸っと包んでくれるような優しいお兄ちゃん。気が使えて、私のことよく見てくれて、思わず甘えそうになる。
「家を出る時、母に猛反対されてね。なんとか納得してもらって出たのに、仕事クビになったからってのこのこ帰るのって、甘えてるなって思っちゃって。自分で自分のことがしたいから出たのに、戻ったら意味ないんじゃないかって考えちゃうんだ。でも母の心配もわかるし、戻るべきなのかなって悩んでる」
私の言葉を受け止め、真剣に考えてくれてるのがその表情からわかった。
「家族なんだから甘えるのはいいと思います。華帆さんは今まで、自分のことを自分でしてきて、学生の時から頑張ってきたんでしょ? それはなくならないし、家に帰って甘えてると思ったことがあってもきっとそれは、疲れてるからとかもあるんじゃないですかね。休んでからまた頑張ればいいんですよ。それに家を出てきた時のことなんて過去の話ですよ。華帆さんのお母さんはその時のことなんて気にしてないし、今はただ帰ってきて欲しいと思ってるんじゃないですかね」
甘えてもいい。過去の話。広海くんはなんでいつも私の欲しい言葉をくれるんだろう。出そうになる涙を押し込める。そう何度も泣き顔を見せられない。
「ありがとう。話せてすっきりしたし、帰ってもいいのかなって思えた」
私の言葉に笑顔で頷く広海くん。
「力になれたならよかったです。でも、帰る時はいって下さいね。いきなりいなくなるとかなしですよ」
「そんなの当たり前じゃん」
そういいつつも、もし帰るなら、顔を見てちゃんとお別れできる自信ないし、会えば恋しくなって、連絡取り続ければ会いたくなっちゃうから、全てを捨てて逃げるように広海くんの元から去る気がした。
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