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第7話
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「明日一緒に出かけませんか?」
期末試験ということで、広海くんとアイスをかじりながら昼間にいつものベンチに座っている時だった。顔を見れば、いつもよりも少し真剣に見える。
「試験中でしょ? 学生は勉強しなさい」
姉らしくいったつもりだ。内心は久しぶりにデートに誘われているのではとどぎまぎしている。
「俺こう見えて、日々こつこつ勉強するタイプなんですよ。だから、試験前だと焦ることも、いつもより勉強することもないんです。平均くらいはいけると思うんで、心配しないでください」
いつもよりも熱が入っている気がするのは気のせいだろうか。
「そこまでいうならいいけど、どこに行くの?」
明日は土曜日。気分転換がしたいんだろうかと、ゲームセンターやカラオケボックスを思い浮かべる。どこも広海くんが友達と遊びに行ったといっていたところだ。そういえば、休みの日に広海くんと会ったことないなぁとふと思う。
「水族館です」
思いもよらなかったデートスポットに私は一瞬身構えた。
だがすぐに思い返す。こんな若い子からしたら私はおばさん。ましてや今の立ち位置は歳の離れたお姉さん。下心やその他があるわけないじゃないだろう。だから私もデートだと胸を躍らせることも、下心もなくさないと。
「水族館か、久しぶりだなぁ」
何気なくいってのけると、広海くんが柔らかく笑う。
「よかったです。元カノと行くために買った水族館のチケットを使ってしまいたくって。友達に譲ってもよかったんですけど」
小骨がちくりと胸に刺さる。姉とのお出かけならそんなものだろう。別にチケットの出どころなんてどこでもいいじゃないか。
私は胸に刺さった小骨の痛みを知らないふりしようとした。そんなことに傷ついてしまう、自分の広海くんに対する感情に気づきたくない。
「私でよければ一緒に行こう」
明るくいった。ここからの最寄り駅を待ち合わせ場所にし、待ち合わせの時間を決めて、私たちは別れた。
何を着ていくのが正しいのだろうか。
おしゃれしていくのは違うか。デートじゃないし。そんなことを思いながら、タンスにしまっているおしゃれ着たちを引っ張り出す。
広海くんと別れてからずっとそわそわしてしまっている。久しぶりに誰かと出かける。だから、そわそわしているだけ。
なるべく普通に、お姉さんっぽく、大人しく。
そう繰り返しながら無難な服を選び、明日に向けて早めにベッドに入った。なかなか寝つけずスマホを手に取る。
結局寝入ったのはいつもよりも遅い時間だった。
翌朝。アラームを止め寝ぼけ眼をこする。
いつもと変わらない程度のメイクをし、いつもと同じ香水を身にまとう。
デートではない。いつもと変わらない。
自分にいい聞かせるように呟いて、広海くんと待ち合わせている駅に向かった。
そこにはスマートフォンを片手に、足なんかクロスさせちゃって立っている広海くんが目に入る。
初めて広海くんの私服を見た。今時のファッションというよりかは、シンプルにまとまっていて、ちょっとかっこいい。
「広海くん、かっこいいね」
さりげなく、余裕を持って声をかけた。
「別に普段着ですよ」
スマートフォンから目を離して、少し驚いた顔で広海くんは私を見る。
「華帆さんこそ、今日はいつもより綺麗ですね」
綺麗といわれて口元にしまりがなくなりかける。慌てて力を入れ、話題を変えた。
「早く水族館に向かおう。電車来ちゃうよ」
先に進み、後をついてくる広海くんの気配を感じていた。
運よく二人並んで席に座ることができ、いつもよりも近い距離に、少しだけ心臓の脈打つ音が大きくなる。
久しぶりに男の人と近い距離で座って、驚いているだけ。
自分でも昨日からいいわけが過ぎるとわかっていた。それでも、認めてはならないものがある。
広海くんは、大石さんに裏切られてから最初に優しくしてくれた男性だから、心が揺れてしまっているだけ。あの時と一緒。私は優しい人に弱すぎる。
「本当はいつもより服装めっちゃ意識しました。初めて見られる服がダサいと思われるの嫌だったんで」
走り去る風景を眺めながら物思いにふけっていた私に、広海くんの呟きが耳に入る。
横を見ればそっぽを向いていた。
可愛い愛おしいが、私の中に溢れだす。これは弟を愛でる感じと同じはずだと、またいいわけしながら広海くんを見つめていた。
期末試験ということで、広海くんとアイスをかじりながら昼間にいつものベンチに座っている時だった。顔を見れば、いつもよりも少し真剣に見える。
「試験中でしょ? 学生は勉強しなさい」
姉らしくいったつもりだ。内心は久しぶりにデートに誘われているのではとどぎまぎしている。
「俺こう見えて、日々こつこつ勉強するタイプなんですよ。だから、試験前だと焦ることも、いつもより勉強することもないんです。平均くらいはいけると思うんで、心配しないでください」
いつもよりも熱が入っている気がするのは気のせいだろうか。
「そこまでいうならいいけど、どこに行くの?」
明日は土曜日。気分転換がしたいんだろうかと、ゲームセンターやカラオケボックスを思い浮かべる。どこも広海くんが友達と遊びに行ったといっていたところだ。そういえば、休みの日に広海くんと会ったことないなぁとふと思う。
「水族館です」
思いもよらなかったデートスポットに私は一瞬身構えた。
だがすぐに思い返す。こんな若い子からしたら私はおばさん。ましてや今の立ち位置は歳の離れたお姉さん。下心やその他があるわけないじゃないだろう。だから私もデートだと胸を躍らせることも、下心もなくさないと。
「水族館か、久しぶりだなぁ」
何気なくいってのけると、広海くんが柔らかく笑う。
「よかったです。元カノと行くために買った水族館のチケットを使ってしまいたくって。友達に譲ってもよかったんですけど」
小骨がちくりと胸に刺さる。姉とのお出かけならそんなものだろう。別にチケットの出どころなんてどこでもいいじゃないか。
私は胸に刺さった小骨の痛みを知らないふりしようとした。そんなことに傷ついてしまう、自分の広海くんに対する感情に気づきたくない。
「私でよければ一緒に行こう」
明るくいった。ここからの最寄り駅を待ち合わせ場所にし、待ち合わせの時間を決めて、私たちは別れた。
何を着ていくのが正しいのだろうか。
おしゃれしていくのは違うか。デートじゃないし。そんなことを思いながら、タンスにしまっているおしゃれ着たちを引っ張り出す。
広海くんと別れてからずっとそわそわしてしまっている。久しぶりに誰かと出かける。だから、そわそわしているだけ。
なるべく普通に、お姉さんっぽく、大人しく。
そう繰り返しながら無難な服を選び、明日に向けて早めにベッドに入った。なかなか寝つけずスマホを手に取る。
結局寝入ったのはいつもよりも遅い時間だった。
翌朝。アラームを止め寝ぼけ眼をこする。
いつもと変わらない程度のメイクをし、いつもと同じ香水を身にまとう。
デートではない。いつもと変わらない。
自分にいい聞かせるように呟いて、広海くんと待ち合わせている駅に向かった。
そこにはスマートフォンを片手に、足なんかクロスさせちゃって立っている広海くんが目に入る。
初めて広海くんの私服を見た。今時のファッションというよりかは、シンプルにまとまっていて、ちょっとかっこいい。
「広海くん、かっこいいね」
さりげなく、余裕を持って声をかけた。
「別に普段着ですよ」
スマートフォンから目を離して、少し驚いた顔で広海くんは私を見る。
「華帆さんこそ、今日はいつもより綺麗ですね」
綺麗といわれて口元にしまりがなくなりかける。慌てて力を入れ、話題を変えた。
「早く水族館に向かおう。電車来ちゃうよ」
先に進み、後をついてくる広海くんの気配を感じていた。
運よく二人並んで席に座ることができ、いつもよりも近い距離に、少しだけ心臓の脈打つ音が大きくなる。
久しぶりに男の人と近い距離で座って、驚いているだけ。
自分でも昨日からいいわけが過ぎるとわかっていた。それでも、認めてはならないものがある。
広海くんは、大石さんに裏切られてから最初に優しくしてくれた男性だから、心が揺れてしまっているだけ。あの時と一緒。私は優しい人に弱すぎる。
「本当はいつもより服装めっちゃ意識しました。初めて見られる服がダサいと思われるの嫌だったんで」
走り去る風景を眺めながら物思いにふけっていた私に、広海くんの呟きが耳に入る。
横を見ればそっぽを向いていた。
可愛い愛おしいが、私の中に溢れだす。これは弟を愛でる感じと同じはずだと、またいいわけしながら広海くんを見つめていた。
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