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第4話

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 連れてかれたのはやっぱりホテルで、部屋に入ってから少し酔いが醒めたのか、これからすることに不安を感じて身体が震えだす。
「どうした?」
 心配そうに声をかけてくれた大石さんに顔を覗き込まれ、恥ずかしくて顔をそらしてしまう。
「あの私初めてなんです……。だから、ちょっと怖くて……」
 少し震えてしまう声でそういうと、ぎゅっと抱きしめられた。
「そうなのか。優しくする」
 大石さんはそのまま私をベッドに運んで覆いかぶさる。
 その顔は私の知っているものじゃなく、鼻息荒くねちっこい視線で、体のラインを確かめるようにゆっくりと撫で上げていくようだった。
 怖い。そう思ってもどうすることもできず、私は大石さんに身を任せただ身体を震わせていた。

 初めてを終えて、大石さんにタクシーで送ってもらい、家に着いた私は、ホテルのものよりも硬くて狭いベッドに倒れこみ、ほっと一息吐いて、先程の行為を思い返しながら考えていた。
 思っていたものと全然違った。
 もっと気持ちがよくて、満たされるものだと思っていたのに。初めてだから?
 それでも身体を重ねたのだから、私たちって付き合ってるってことだよねって嬉しくなっていた自分は今だから思うけど本当にバカだ。好きとはいわれなかったけれど、こういう行為って好き同士しかしないものなんだしと思ったのも。
 この時私が体だけの関係もあるのだと理解していたら、もっと大人の対応ができてたのかなと今更ながら思う時がある。
 私もこの時ぐらいまではまだ、広海くんよりもちょっと灰色がかってるくらいで綺麗さが残っていたんじゃないかと、目の前の純心な男の子を見て目を細めた。
 学校のことを話してくれる広海くんは眩しかった。
 彼の話す学校生活。私が知らない今時の高校生の世界はキラキラしていて、私と同じように失恋した彼は早くも立ち直って、活発に動く。その姿に励まされていた。

「華帆さん、お待たせしました。これ、借りてた本」
 息を切らし、汗を大量に流しながら駆けつけてきた広海くんは、鞄から貸していた本を取り出した。
「とっても、面白かった、です」
 荒い息を整えつつ、本を手渡し、ふぅーと大きく息を吐いた彼。
「すいません。感想はまた今度ゆっくり。今日はちょっと弟たちの面倒を見なきゃいけないんで、すぐ失礼します」
 幾分息が落ち着いてきた広海くんは手の甲で額の汗を拭う。
「忙しいならまた今度でもよかったのに……」
「いえ、今日返すっていってましたし。走ってきたのは、ちょっとでも華帆さんとしゃべりたかったからですし」
 まっすぐな言葉が胸に刺さる。笑顔が眩しい。
「ちゃんとお兄ちゃんしてるんだね」
 受け流すようにちょっと茶化す。
「たまにですけどね。料理のレパートリーもそこまでないから、弟たちにまたこれ? なんていわれてますし」
 照れくさそうに話す広海くんは可愛い。
「料理できるんだ。それだけで充分すごいよ!」
 私が高校生の時なんて勉強が忙しくて、料理を作ることなんか家庭科の授業の時くらいだった。
「親が一生懸命働いてて、家にいないことがあるから仕方なしにですけどね。家のこととか一通りできないと困るの俺なんで」
「すごーい。私が高校生の時なんてほとんど何もしてなかったよ」
 素直に感心していた。きっとすごくいいお兄ちゃんなんだろうな。
「そうだ、弟たちの写真見ます?」
 スマートフォンを取り出して、しばらく操作した後に画面を見せてくれた。そこに並ぶのは、広海くんの顔に似た小さい男の子や女の子たち。
「妹が一人と弟が二人。どんどん生意気になってきて困ってるんですよ」
 そういいつつも、写真を眺める広海くんはとっても優しい顔で、愛おしそうな目をしている。兄の顔だった。
「私にも妹がいてね、私と違ってすごくしっかりしてるから、すぐ生意気になって困ったもんだよ」
 少しだけ妹や弟たちの話しをして、広海くんは帰っていった。
 兄弟を大事に思っていることが、言葉の端から伝わってきて、年上の私が兄に欲しいと思うくらいだった。弟たちを思いやれる優しいところ、すごくいいな。しっかりしてるんだろうなと、まだまだ知らない広海くんに思いを馳せる。
 あの人とは大違いだ。

 大石さんとのデートにホテルという選択肢が追加されてから、色んなことが変わっていった。
 よかったことは仕事面で、ちょこちょこ私の企画に目を止めてもらうことが増えて、仕事にやりがいが持ててること。
 プライベートでは、よくないとまではいわないが、ホテルに行く頻度と、デートっぽくないデートに不満が募っている。
 休みの日でも会えるのは夕方から。外泊は、「今は大事な仕事も受け持ってるんだから家での勉強も大事。俺は邪魔したくないから」といってしてくれない。
 デートっぽくないデートといっても、ドライブデートくらいはしている。かなりスキンシップ多めのドライブだけど。
 あまりにもそういう行為が絡んでいることが多いので、私はホテルのベッドの上で大石さんに聞いてみた。
「あの、こういうことするの多過ぎません? みんなこうなんですか?」
 うーん……とけだるげに返事をした後、彼はこういった。
「他の人は知らないが、俺しか知らない君を、俺好みに染め上げることができる今がたまらなくて、ついここに来てしまう」
 がばりと抱きしめられて、乱暴にキスをされる。
 はぁ……。心でため息を吐いた。
 何かスイッチを触ってしまったらしい。私は早く大石さんが満足することを祈る。

 私は肌を重ねることがやっぱり好きではなかった。
 普段優しい言葉をかけてくれている大石さんとは思えない程、荒々しい部分がこの時出てくる。
 私のことなんてちっとも考えてないんじゃないか、大事に思ってくれてないんじゃないかと思えるような言葉に、苦しいことを強引にされたり、時に痛い思いもする。
 思い返せば耐えてばかりだったが、その頃にはもう、嫌な部分があっても私は大石さんを失うことが考えられないくらいに依存していた。
 普段の優しい言葉。求められている体。愚痴っても、弱音を吐いても受け止めて、そんなことはないから大丈夫と慰めてくれて、こんなダメな自分を受け入れてくれる男の人は大石さんしかいないとしか思えなかったのだ。
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