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第四話
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いい匂いの中で目が覚めた。隣に高崎はいない。とりあえず服を着ていい匂いの正体を探す。
キッチンに立つ高崎は香ばしい匂いをまき散らしてお腹を刺激してくる。
「おはよう」
後ろ姿に声をかけると振り返ってにっこりと笑顔を向けてきて、なんとも愛くるしい。
「おはようございます。もうすぐ朝食できるんで、座って待っててください」
元気をもらえる明るい声。その声に従い昨夜と同じ席に座る。
「お待たせしました」
目の前に置かれた皿にはベーコンエッグところんと丸い焼きたての香りただようパンが行儀よく並んでいる。向かいの席に座った高崎と軽く談笑しながら美味しい朝食を堪能した。
「男で生まれたから、彼女がいるからとか、非常識わかっていますけど、そんなことで俺は諦めたくないんです。好きな人をみっともなくあがいても手に入れたいと思ってるんです」
その言葉にハッとして高崎の顔を見る。その満足気な表情になんて返せばいいのかわからない。
「でも、もうやれるだけのことはしたかなって」
昨日のことをいっているのだろうか。その言葉以外は何もなかったように高崎は接してきた。
昼からバイトがあったので、朝食後に食器洗いだけは引き受けて、お礼をして一度家に帰った。
昨夜のことは、夢で済ますにはあまりにも生々しくて、記憶にも肌にも高崎の感触が残っている。
家でシャワーをざっと浴びて、高崎の気配を拭い去ろうとするが簡単にはいかない。
高崎のエロい顔。巧みな舌技ですぐにイってしまいそうになる口の中。僕を好きだという切ない声。
求められているという実感が一番厄介に思う。
最近の彼女からの扱いがそっけなさ過ぎて、人に求められることに飢えていたから、高崎からの気持ちに困惑しつつも、どこか心地よかった。
それでも、男と付き合いたいとは思えない。
高崎と触れ合った後、僕の生活は特に変わりはしなかった。
彼女に負い目はできたものの、関係は悪くもならず、よくなるわけもなく。
気になることといえば、高崎が男と一緒にいるところをよく見るようになったこと。
今まで意識してなかっただけなのかはわからないが、バイトに送り迎えする男をよく見る。
どことなく深い関係を持っている雰囲気がした。僕とのことが吹っ切れて交友関係を広げたのだろうか。
新しいパートナーだとしたら、僕が気持ちに答えられなかったのだし、仕方ないと祝福こそするところだが、どうにもころころと男が変わる。
気になって仕方なかったので、ある晩高崎にメッセージを送った。
「最近色んな人と仲良さそうに帰っているけど友だち?」
布団に置いたスマートフォンがすぐに震える。
『ある意味友だちですけど、先輩心配してくれてるんですか?』
「大事な後輩だと思っているし。それより、ある意味ってなんだよ」
聞いてはみるものの、高崎はのらりくらりとかわしてちゃんと答えようとはしない。
明日シフトがかぶっていることもわかっていたし、直接聞くことにして眠りについた。
休憩時間を合わせて、高崎がいるはずの休憩室に向かう。
ドアを開いた先で、椅子に座りサンドイッチを食べている高崎と目が合った。
「お疲れ様でーす」
人懐っこい笑顔とともに届いた声。
食事の用意をする前に椅子に座って高崎と向かい合う。
「どうしたんですか、先輩」
不思議そうに見つめてくる瞳をしっかり見つめ返し、僕がいうことじゃないとわかりつつも口を開いた。
「交友関係が広いのはいいと思う。僕が勘違いしているだけならそれでいい。失礼な人だと思ってくれたらいいけど、やけになって男をとっかえひっかえしてないよな?」
僕の言葉に高崎はにやりと意地の悪い顔をした。
「先輩、心配してくれるのは嬉しいですけど、先輩は僕のそばにいてくれないでしょ? だから俺にとってそばにいてくれるなら誰だっていいんですよ」
そばにはいれない。それでも、そんなことは間違っているはずだ。
「誰でもいいわけないだろ。相手は選んだ方がいい」
高崎が欲しいであろう言葉をいうこともできず、僕は正しいと思うことをただいった。それを聞いて、見下すような冷たい表情と冷たい声を高崎は出す。
「誰でも一緒です。先輩みたいに好きな人がそばにいるわけじゃないんで」
そういうと休憩室から出ていってしまった。それを追いかける資格は僕にはない。
高崎と業務以外でしゃべることはほとんどなくなり、個人的に連絡も取らなくなった。彼女とは相変わらずだが、どこかどうでもよくなっている。
色んな男が高崎を迎えに来た。ずっと目で追っているわけではないが、見せつけられているかのように目撃してしまう。
「お疲れ様でーす」
笑顔はないが、少し遅れて仕事を終え、更衣室に入ってきた僕に高崎は声をかけてくれた。
「お疲れ」
どこかご機嫌な様子の高崎にまた男が変わったのかと勘ぐってしまう。
「お先に失礼しまーす」
足取り軽くそういって出ていく高崎を、慌てて着替えを済まして追いかける。
店の外で高崎は周りをきょろきょろ見回して人を探し、目的の人物を見つけたのか顔が輝く。何をいうとか考える前に僕は高崎の腕を掴んだ。
「自分の価値を下げるようなことはするな」
思っていたより強い声が出る。驚いた高崎は腕を振り解こうと動く。振り解けないと諦めたのかキッとにらまれる。
「色んな人としたら人間としての価値って下がるんですか?」
力強い瞳に目をそらしそうになったが耐えた。
「それが本当に高崎のしたいことならいいよ。でも、僕に振られて自暴自棄になっているだけなら辞めろ」
高崎の瞳に涙がたまっていく。
「俺の気持ち、受け入れられないくせに命令しないでください……」
溢れた涙が頬を伝う。
「俺、先輩が好きなんです。先輩じゃないと意味がない。だから、先輩以外なら誰と寝ても一緒なんです」
ぼろぼろと涙をこぼす高崎を抱きしめていた。ストレートな愛情表現に守りたくなってしまうもろさ。
女よりも男を選んでしまいそうになる僕がいた。
キッチンに立つ高崎は香ばしい匂いをまき散らしてお腹を刺激してくる。
「おはよう」
後ろ姿に声をかけると振り返ってにっこりと笑顔を向けてきて、なんとも愛くるしい。
「おはようございます。もうすぐ朝食できるんで、座って待っててください」
元気をもらえる明るい声。その声に従い昨夜と同じ席に座る。
「お待たせしました」
目の前に置かれた皿にはベーコンエッグところんと丸い焼きたての香りただようパンが行儀よく並んでいる。向かいの席に座った高崎と軽く談笑しながら美味しい朝食を堪能した。
「男で生まれたから、彼女がいるからとか、非常識わかっていますけど、そんなことで俺は諦めたくないんです。好きな人をみっともなくあがいても手に入れたいと思ってるんです」
その言葉にハッとして高崎の顔を見る。その満足気な表情になんて返せばいいのかわからない。
「でも、もうやれるだけのことはしたかなって」
昨日のことをいっているのだろうか。その言葉以外は何もなかったように高崎は接してきた。
昼からバイトがあったので、朝食後に食器洗いだけは引き受けて、お礼をして一度家に帰った。
昨夜のことは、夢で済ますにはあまりにも生々しくて、記憶にも肌にも高崎の感触が残っている。
家でシャワーをざっと浴びて、高崎の気配を拭い去ろうとするが簡単にはいかない。
高崎のエロい顔。巧みな舌技ですぐにイってしまいそうになる口の中。僕を好きだという切ない声。
求められているという実感が一番厄介に思う。
最近の彼女からの扱いがそっけなさ過ぎて、人に求められることに飢えていたから、高崎からの気持ちに困惑しつつも、どこか心地よかった。
それでも、男と付き合いたいとは思えない。
高崎と触れ合った後、僕の生活は特に変わりはしなかった。
彼女に負い目はできたものの、関係は悪くもならず、よくなるわけもなく。
気になることといえば、高崎が男と一緒にいるところをよく見るようになったこと。
今まで意識してなかっただけなのかはわからないが、バイトに送り迎えする男をよく見る。
どことなく深い関係を持っている雰囲気がした。僕とのことが吹っ切れて交友関係を広げたのだろうか。
新しいパートナーだとしたら、僕が気持ちに答えられなかったのだし、仕方ないと祝福こそするところだが、どうにもころころと男が変わる。
気になって仕方なかったので、ある晩高崎にメッセージを送った。
「最近色んな人と仲良さそうに帰っているけど友だち?」
布団に置いたスマートフォンがすぐに震える。
『ある意味友だちですけど、先輩心配してくれてるんですか?』
「大事な後輩だと思っているし。それより、ある意味ってなんだよ」
聞いてはみるものの、高崎はのらりくらりとかわしてちゃんと答えようとはしない。
明日シフトがかぶっていることもわかっていたし、直接聞くことにして眠りについた。
休憩時間を合わせて、高崎がいるはずの休憩室に向かう。
ドアを開いた先で、椅子に座りサンドイッチを食べている高崎と目が合った。
「お疲れ様でーす」
人懐っこい笑顔とともに届いた声。
食事の用意をする前に椅子に座って高崎と向かい合う。
「どうしたんですか、先輩」
不思議そうに見つめてくる瞳をしっかり見つめ返し、僕がいうことじゃないとわかりつつも口を開いた。
「交友関係が広いのはいいと思う。僕が勘違いしているだけならそれでいい。失礼な人だと思ってくれたらいいけど、やけになって男をとっかえひっかえしてないよな?」
僕の言葉に高崎はにやりと意地の悪い顔をした。
「先輩、心配してくれるのは嬉しいですけど、先輩は僕のそばにいてくれないでしょ? だから俺にとってそばにいてくれるなら誰だっていいんですよ」
そばにはいれない。それでも、そんなことは間違っているはずだ。
「誰でもいいわけないだろ。相手は選んだ方がいい」
高崎が欲しいであろう言葉をいうこともできず、僕は正しいと思うことをただいった。それを聞いて、見下すような冷たい表情と冷たい声を高崎は出す。
「誰でも一緒です。先輩みたいに好きな人がそばにいるわけじゃないんで」
そういうと休憩室から出ていってしまった。それを追いかける資格は僕にはない。
高崎と業務以外でしゃべることはほとんどなくなり、個人的に連絡も取らなくなった。彼女とは相変わらずだが、どこかどうでもよくなっている。
色んな男が高崎を迎えに来た。ずっと目で追っているわけではないが、見せつけられているかのように目撃してしまう。
「お疲れ様でーす」
笑顔はないが、少し遅れて仕事を終え、更衣室に入ってきた僕に高崎は声をかけてくれた。
「お疲れ」
どこかご機嫌な様子の高崎にまた男が変わったのかと勘ぐってしまう。
「お先に失礼しまーす」
足取り軽くそういって出ていく高崎を、慌てて着替えを済まして追いかける。
店の外で高崎は周りをきょろきょろ見回して人を探し、目的の人物を見つけたのか顔が輝く。何をいうとか考える前に僕は高崎の腕を掴んだ。
「自分の価値を下げるようなことはするな」
思っていたより強い声が出る。驚いた高崎は腕を振り解こうと動く。振り解けないと諦めたのかキッとにらまれる。
「色んな人としたら人間としての価値って下がるんですか?」
力強い瞳に目をそらしそうになったが耐えた。
「それが本当に高崎のしたいことならいいよ。でも、僕に振られて自暴自棄になっているだけなら辞めろ」
高崎の瞳に涙がたまっていく。
「俺の気持ち、受け入れられないくせに命令しないでください……」
溢れた涙が頬を伝う。
「俺、先輩が好きなんです。先輩じゃないと意味がない。だから、先輩以外なら誰と寝ても一緒なんです」
ぼろぼろと涙をこぼす高崎を抱きしめていた。ストレートな愛情表現に守りたくなってしまうもろさ。
女よりも男を選んでしまいそうになる僕がいた。
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