4 / 5
第四話
しおりを挟む
いい匂いの中で目が覚めた。隣に高崎はいない。とりあえず服を着ていい匂いの正体を探す。
キッチンに立つ高崎は香ばしい匂いをまき散らしてお腹を刺激してくる。
「おはよう」
後ろ姿に声をかけると振り返ってにっこりと笑顔を向けてきて、なんとも愛くるしい。
「おはようございます。もうすぐ朝食できるんで、座って待っててください」
元気をもらえる明るい声。その声に従い昨夜と同じ席に座る。
「お待たせしました」
目の前に置かれた皿にはベーコンエッグところんと丸い焼きたての香りただようパンが行儀よく並んでいる。向かいの席に座った高崎と軽く談笑しながら美味しい朝食を堪能した。
「男で生まれたから、彼女がいるからとか、非常識わかっていますけど、そんなことで俺は諦めたくないんです。好きな人をみっともなくあがいても手に入れたいと思ってるんです」
その言葉にハッとして高崎の顔を見る。その満足気な表情になんて返せばいいのかわからない。
「でも、もうやれるだけのことはしたかなって」
昨日のことをいっているのだろうか。その言葉以外は何もなかったように高崎は接してきた。
昼からバイトがあったので、朝食後に食器洗いだけは引き受けて、お礼をして一度家に帰った。
昨夜のことは、夢で済ますにはあまりにも生々しくて、記憶にも肌にも高崎の感触が残っている。
家でシャワーをざっと浴びて、高崎の気配を拭い去ろうとするが簡単にはいかない。
高崎のエロい顔。巧みな舌技ですぐにイってしまいそうになる口の中。僕を好きだという切ない声。
求められているという実感が一番厄介に思う。
最近の彼女からの扱いがそっけなさ過ぎて、人に求められることに飢えていたから、高崎からの気持ちに困惑しつつも、どこか心地よかった。
それでも、男と付き合いたいとは思えない。
高崎と触れ合った後、僕の生活は特に変わりはしなかった。
彼女に負い目はできたものの、関係は悪くもならず、よくなるわけもなく。
気になることといえば、高崎が男と一緒にいるところをよく見るようになったこと。
今まで意識してなかっただけなのかはわからないが、バイトに送り迎えする男をよく見る。
どことなく深い関係を持っている雰囲気がした。僕とのことが吹っ切れて交友関係を広げたのだろうか。
新しいパートナーだとしたら、僕が気持ちに答えられなかったのだし、仕方ないと祝福こそするところだが、どうにもころころと男が変わる。
気になって仕方なかったので、ある晩高崎にメッセージを送った。
「最近色んな人と仲良さそうに帰っているけど友だち?」
布団に置いたスマートフォンがすぐに震える。
『ある意味友だちですけど、先輩心配してくれてるんですか?』
「大事な後輩だと思っているし。それより、ある意味ってなんだよ」
聞いてはみるものの、高崎はのらりくらりとかわしてちゃんと答えようとはしない。
明日シフトがかぶっていることもわかっていたし、直接聞くことにして眠りについた。
休憩時間を合わせて、高崎がいるはずの休憩室に向かう。
ドアを開いた先で、椅子に座りサンドイッチを食べている高崎と目が合った。
「お疲れ様でーす」
人懐っこい笑顔とともに届いた声。
食事の用意をする前に椅子に座って高崎と向かい合う。
「どうしたんですか、先輩」
不思議そうに見つめてくる瞳をしっかり見つめ返し、僕がいうことじゃないとわかりつつも口を開いた。
「交友関係が広いのはいいと思う。僕が勘違いしているだけならそれでいい。失礼な人だと思ってくれたらいいけど、やけになって男をとっかえひっかえしてないよな?」
僕の言葉に高崎はにやりと意地の悪い顔をした。
「先輩、心配してくれるのは嬉しいですけど、先輩は僕のそばにいてくれないでしょ? だから俺にとってそばにいてくれるなら誰だっていいんですよ」
そばにはいれない。それでも、そんなことは間違っているはずだ。
「誰でもいいわけないだろ。相手は選んだ方がいい」
高崎が欲しいであろう言葉をいうこともできず、僕は正しいと思うことをただいった。それを聞いて、見下すような冷たい表情と冷たい声を高崎は出す。
「誰でも一緒です。先輩みたいに好きな人がそばにいるわけじゃないんで」
そういうと休憩室から出ていってしまった。それを追いかける資格は僕にはない。
高崎と業務以外でしゃべることはほとんどなくなり、個人的に連絡も取らなくなった。彼女とは相変わらずだが、どこかどうでもよくなっている。
色んな男が高崎を迎えに来た。ずっと目で追っているわけではないが、見せつけられているかのように目撃してしまう。
「お疲れ様でーす」
笑顔はないが、少し遅れて仕事を終え、更衣室に入ってきた僕に高崎は声をかけてくれた。
「お疲れ」
どこかご機嫌な様子の高崎にまた男が変わったのかと勘ぐってしまう。
「お先に失礼しまーす」
足取り軽くそういって出ていく高崎を、慌てて着替えを済まして追いかける。
店の外で高崎は周りをきょろきょろ見回して人を探し、目的の人物を見つけたのか顔が輝く。何をいうとか考える前に僕は高崎の腕を掴んだ。
「自分の価値を下げるようなことはするな」
思っていたより強い声が出る。驚いた高崎は腕を振り解こうと動く。振り解けないと諦めたのかキッとにらまれる。
「色んな人としたら人間としての価値って下がるんですか?」
力強い瞳に目をそらしそうになったが耐えた。
「それが本当に高崎のしたいことならいいよ。でも、僕に振られて自暴自棄になっているだけなら辞めろ」
高崎の瞳に涙がたまっていく。
「俺の気持ち、受け入れられないくせに命令しないでください……」
溢れた涙が頬を伝う。
「俺、先輩が好きなんです。先輩じゃないと意味がない。だから、先輩以外なら誰と寝ても一緒なんです」
ぼろぼろと涙をこぼす高崎を抱きしめていた。ストレートな愛情表現に守りたくなってしまうもろさ。
女よりも男を選んでしまいそうになる僕がいた。
キッチンに立つ高崎は香ばしい匂いをまき散らしてお腹を刺激してくる。
「おはよう」
後ろ姿に声をかけると振り返ってにっこりと笑顔を向けてきて、なんとも愛くるしい。
「おはようございます。もうすぐ朝食できるんで、座って待っててください」
元気をもらえる明るい声。その声に従い昨夜と同じ席に座る。
「お待たせしました」
目の前に置かれた皿にはベーコンエッグところんと丸い焼きたての香りただようパンが行儀よく並んでいる。向かいの席に座った高崎と軽く談笑しながら美味しい朝食を堪能した。
「男で生まれたから、彼女がいるからとか、非常識わかっていますけど、そんなことで俺は諦めたくないんです。好きな人をみっともなくあがいても手に入れたいと思ってるんです」
その言葉にハッとして高崎の顔を見る。その満足気な表情になんて返せばいいのかわからない。
「でも、もうやれるだけのことはしたかなって」
昨日のことをいっているのだろうか。その言葉以外は何もなかったように高崎は接してきた。
昼からバイトがあったので、朝食後に食器洗いだけは引き受けて、お礼をして一度家に帰った。
昨夜のことは、夢で済ますにはあまりにも生々しくて、記憶にも肌にも高崎の感触が残っている。
家でシャワーをざっと浴びて、高崎の気配を拭い去ろうとするが簡単にはいかない。
高崎のエロい顔。巧みな舌技ですぐにイってしまいそうになる口の中。僕を好きだという切ない声。
求められているという実感が一番厄介に思う。
最近の彼女からの扱いがそっけなさ過ぎて、人に求められることに飢えていたから、高崎からの気持ちに困惑しつつも、どこか心地よかった。
それでも、男と付き合いたいとは思えない。
高崎と触れ合った後、僕の生活は特に変わりはしなかった。
彼女に負い目はできたものの、関係は悪くもならず、よくなるわけもなく。
気になることといえば、高崎が男と一緒にいるところをよく見るようになったこと。
今まで意識してなかっただけなのかはわからないが、バイトに送り迎えする男をよく見る。
どことなく深い関係を持っている雰囲気がした。僕とのことが吹っ切れて交友関係を広げたのだろうか。
新しいパートナーだとしたら、僕が気持ちに答えられなかったのだし、仕方ないと祝福こそするところだが、どうにもころころと男が変わる。
気になって仕方なかったので、ある晩高崎にメッセージを送った。
「最近色んな人と仲良さそうに帰っているけど友だち?」
布団に置いたスマートフォンがすぐに震える。
『ある意味友だちですけど、先輩心配してくれてるんですか?』
「大事な後輩だと思っているし。それより、ある意味ってなんだよ」
聞いてはみるものの、高崎はのらりくらりとかわしてちゃんと答えようとはしない。
明日シフトがかぶっていることもわかっていたし、直接聞くことにして眠りについた。
休憩時間を合わせて、高崎がいるはずの休憩室に向かう。
ドアを開いた先で、椅子に座りサンドイッチを食べている高崎と目が合った。
「お疲れ様でーす」
人懐っこい笑顔とともに届いた声。
食事の用意をする前に椅子に座って高崎と向かい合う。
「どうしたんですか、先輩」
不思議そうに見つめてくる瞳をしっかり見つめ返し、僕がいうことじゃないとわかりつつも口を開いた。
「交友関係が広いのはいいと思う。僕が勘違いしているだけならそれでいい。失礼な人だと思ってくれたらいいけど、やけになって男をとっかえひっかえしてないよな?」
僕の言葉に高崎はにやりと意地の悪い顔をした。
「先輩、心配してくれるのは嬉しいですけど、先輩は僕のそばにいてくれないでしょ? だから俺にとってそばにいてくれるなら誰だっていいんですよ」
そばにはいれない。それでも、そんなことは間違っているはずだ。
「誰でもいいわけないだろ。相手は選んだ方がいい」
高崎が欲しいであろう言葉をいうこともできず、僕は正しいと思うことをただいった。それを聞いて、見下すような冷たい表情と冷たい声を高崎は出す。
「誰でも一緒です。先輩みたいに好きな人がそばにいるわけじゃないんで」
そういうと休憩室から出ていってしまった。それを追いかける資格は僕にはない。
高崎と業務以外でしゃべることはほとんどなくなり、個人的に連絡も取らなくなった。彼女とは相変わらずだが、どこかどうでもよくなっている。
色んな男が高崎を迎えに来た。ずっと目で追っているわけではないが、見せつけられているかのように目撃してしまう。
「お疲れ様でーす」
笑顔はないが、少し遅れて仕事を終え、更衣室に入ってきた僕に高崎は声をかけてくれた。
「お疲れ」
どこかご機嫌な様子の高崎にまた男が変わったのかと勘ぐってしまう。
「お先に失礼しまーす」
足取り軽くそういって出ていく高崎を、慌てて着替えを済まして追いかける。
店の外で高崎は周りをきょろきょろ見回して人を探し、目的の人物を見つけたのか顔が輝く。何をいうとか考える前に僕は高崎の腕を掴んだ。
「自分の価値を下げるようなことはするな」
思っていたより強い声が出る。驚いた高崎は腕を振り解こうと動く。振り解けないと諦めたのかキッとにらまれる。
「色んな人としたら人間としての価値って下がるんですか?」
力強い瞳に目をそらしそうになったが耐えた。
「それが本当に高崎のしたいことならいいよ。でも、僕に振られて自暴自棄になっているだけなら辞めろ」
高崎の瞳に涙がたまっていく。
「俺の気持ち、受け入れられないくせに命令しないでください……」
溢れた涙が頬を伝う。
「俺、先輩が好きなんです。先輩じゃないと意味がない。だから、先輩以外なら誰と寝ても一緒なんです」
ぼろぼろと涙をこぼす高崎を抱きしめていた。ストレートな愛情表現に守りたくなってしまうもろさ。
女よりも男を選んでしまいそうになる僕がいた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
隠れSな攻めの短編集
あかさたな!
BL
こちら全話独立、オトナな短編集です。
1話1話完結しています。
いきなりオトナな内容に入るのでご注意を。
今回はソフトからドがつくくらいのSまで、いろんなタイプの攻めがみられる短編集です!隠れSとか、メガネSとか、年下Sとか…⁉︎
【お仕置きで奥の処女をもらう参謀】【口の中をいじめる歯医者】
【独占欲で使用人をいじめる王様】
【無自覚Sがトイレを我慢させる】
【召喚された勇者は魔術師の性癖(ケモ耳)に巻き込まれる】
【勝手にイくことを許さない許嫁】
【胸の敏感なところだけでいかせたいいじめっ子】
【自称Sをしばく女装っ子の部下】
【魔王を公開処刑する勇者】
【酔うとエスになるカテキョ】
【虎視眈々と下剋上を狙うヴァンパイアの眷属】
【貴族坊ちゃんの弱みを握った庶民】
【主人を調教する奴隷】
2022/04/15を持って、こちらの短編集は完結とさせていただきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
前作に
・年下攻め
・いじわるな溺愛攻め
・下剋上っぽい関係
短編集も完結してるで、プロフィールからぜひ!
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
簒奪王の劣情と黄金の秘めごと
陣リン
BL
【敬語執着王×ツンデレ美人王弟】約束してくれたでしょう、アルフォンス殿下。再び会えたらこの腕に抱いて、あのときのようにくちづけを……。
◆◇◆ご注意!作者の性癖で無理矢理描写がございます◆◇◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる