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最初の怪事件

うわさはどんな

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「……最近参拝客が少ないような気はしてたんだよね。」

そう呟いたこのかは、自宅から大急ぎで持って来た時刻表を開く。

ダイヤを確かめると余裕~♪と笑った。

ついでに持ってきた大福にかぶりつくと、餡の甘さがじんわり口の中に広がっていく。

さっきまで一緒になって時刻表をチラ見していた鳩神えっちゃんも、両手に持った大福にパクついている。

食べ終えると彼は「まぁまぁだのぅ。」との感想を述べた。

スーパーの一袋5個入り280円は、甘みが強めでそれなりの味だった。

やっぱりこばと屋の豆大福は最強だ。

3個目の大福に手を伸ばすえっちゃんを見ながら、こうやって見てるぶんにはちょっと風変わりなちびっ子なんだけどなぁと思う。

うちの神社の神様か…

ペットボトルのお茶で口の中に残った甘さを流し込むと、ほうっと息を吐く。

あいつここ出た後すぐだから。次の列車が来るまであと二時間はある。」


もう一度開いた時刻表のダイヤを確かめる。

今頃足止めを食らってる筈だとわかって、思わずニンマリとしてしまう。

田舎の列車運行舐めんなよ、もやしっ子!

都会の数分おきに出る電車とはわけが違うのだ。

炎天下に何もない駅のホームでうろちょろするがいい。

ここに居ない相手に喧嘩をふっかけフンと鼻を鳴らす。

もう少し休んでから駅に向かえば丁度いい感じだ。

龍も引っ捕まえられるだろうし同時に問題の御神鏡も戻ってくる。

ひとまずこれで少しは今後の行動に目処も立った。

駅に向かう前に気になっていた事を聞いておこうと、お腹が満たされご満悦のえっちゃんに向き直る。

「そういえば、さっき言いかけてた悪い噂ってどういうもんなの?」

一瞬きょとんとした彼は、思い出した途端よくぞ聞いてくれたとポンと手を打った。

「うむ。平たく言うと突然【御利益ごりやくがなくなった】と言うことらしいのだ。それに夕暮れ時に淡花神社ここの近くを通りかかると妙な人影を見るらしくてのぅ。」

「御利益なくなったって何を根拠に…」

平たくもなにも漠然としすぎてなんだかよくわからない。

それに妙な人影ってなんだろう。

家の周辺にそんな噂があるって、嫌だなぁ。

でも調べるとしたらまずはそれだろうか?

肝心の手がかりがこれじゃ、問題が解決できるか不安になってくる。

「妙な人影ってどんな?どこら辺で?」

「うぬぅ。我も詳しくはわからぬ。ちらっと小耳に挟んだだけなのだ。」

ダメじゃん。

「手がかりはそれだけか…」

溜息をつくと、困り顔で首をすくめたえっちゃんがこちらの不安を察知しマズイと思ったのか、そうだ!と新たな情報を切り出す。

「参拝した者に次々と不幸が起こるという噂もあるのだ。」

これは一番体験者が多いのだと力説してくる。

ちょっとそれ、神社としては嬉しくない情報だ。

「は?何それ!そんなの聞いたことないわよ。」

何かの間違いじゃと言いかけて、最近聞いたばかりの話が脳裏をかすめた。

「あ!そういえば香苗かなえが…。」

「かなえ…?」

きょとんとしているえっちゃんに、私の友達と告げる。

「初デートでうちの神社に来て、参拝した直後に村の池で大喧嘩して別れたって言ってた。これって、何か関係あるのかな?」

「それだ!!」

「ホント!?」

言われてみれば確かに最近似た様な話をあっちこっちで耳にした気がする。

あれ?

ちょっと待てよ。なにか引っかかるなーと思っていると、鳩神えっちゃんがせっつく様に他には何かないのかと聞いてきた。

「んー。そうだなぁ。…学校でも確か誰かが…」

「それもなのだっ!!」

突然叫んだ鳩神えっちゃんに、反射的にマジで!?と聞き返す。

今、学校でしか言ってないけど…

「御利益を授ける力は、村のほこらに集まる気によって保たれておっての。おそらくその祠に何か仕掛けたやからがいるのだ。」

祠?と聞くと村の古地図を広げた鳩神えっちゃんが、こほんと咳払いをして指し棒片手に説明をはじめる。

地図も指し棒も一体何処から取り出したのだろうと気にはなるが、今は置いておこう。

「ここが我らの居るやしろなのだ。そしてコレが池なのだ。村の至る所に霊脈が巡っておっての。そういう場所は影響がでやすいと言われておる。」

祠が置かれたのもその為なのだそうだ。

「……ここと、ここと…ここ。」

淡花神社うちを中心に次々に指し示していく。

他にもあるはずだと言って、困ったように眉間に皺を寄せる。

何やらうむうむ考え込みはじめたえっちゃんと、古地図とを見比べているうちにおやっと思う。

そういえばこの場所は…

「…ねぇ。村の祠があった場所って、最近怪奇現象の噂がたってる場所と被ってるんだけど…」

さっきまで寄っていたえっちゃんの眉間の皺が、パァーっと晴れ渡る。

「せーかいなのだ!!」

ひゃっほーいと小躍りしながら叫ぶえっちゃんに驚いた鳩達が何事かとざわつく。

いや、何が正解なのだろうか…

というか、こっちは全然話についていけてないんだけど。

「ちょっと待って、えっちゃん。ちょっと整理しようか。とりあえずその…村の祠に何か仕掛けた奴がいて。それが原因で村中に怪奇現象が増えたんだよね。それとも元々あった怪奇現象が出てきたって事なのかな?」

「そうなのだ。」

「それがうちの神社の噂とも関係あるって事なの?」

「そうなのだ。」

「じゃあ、その仕掛けられた祠を特定して。御神鏡持って2人揃ってその祠に行って。仕掛けた何かを取っ払えば全部解決するって事?」

「そう…なのだ?」

なんで疑問系?

本当に解ってるのかなーと疑いの念が芽生えるが、ひとまずこれも置いておこう。

「で、具体的には御神鏡をどうすればいいの?」

「うー。」

「うちの神社の神様なんでしょ?御神鏡の使用方法くらいわかるよね。」

「うむ。無理なのだ!頼む!」

またそれか。そんなにこやかに言われてもねー。

えっちゃんにわからなかったら、私にもわからんわ。

にしても駄目押しで聞いてみたが、やっぱり無理だったか。

堂々巡りだ。

「…祠に行ってみれば、なんとかなるかもしれないのだ。」

極論よえっちゃん、それは…

「そもそも何で私達に力が移っちゃったのかな?手に取ったらほいほい移るもんなの?」

脱力して聞くと、大神様の直下の神社おおもとの息子と、お膝元の社おひざもとの娘だからというよくわからない返答がきた。

聞いた私が馬鹿だったかもしれない。

「きっと鏡に宿った大神様の力に同調したのだ。うむ、きっとそうだ!」

「きっとって…。」

さっきも聞いたー。

なんか適当に言ってるように感じるのは何故なんだろうか…

「はぁ~、土地の神様が御神鏡の力を使えないって不便よねー。」

元気よくすまん!と謝るえっちゃんを横目に、まぁ、いいかと諦めの溜息をつく。

とりあえず多少事情は把握できた。

今から向かえば次の列車の到着前には余裕でたどり着けるだろう。

あとは龍を引っ捕まえてから考えよう。

うん、そうしよう。

「じゃあ、えっちゃん。今から私龍の奴とっ捕まえてくるから。戻ったら作戦会議だからね。」

「おお、頼もしいぞこのか♪」

お?おだてられれば悪い気はしないものだ。

「そう?…うふふ♪任っせなさいっ!」

人助けはうちの家訓だしねと言うと、家訓?と首を傾げられた。

こういう所を見てると、やっぱり小学生にしかみえないんだけどなと思う。

時刻表を取りに行こうと一緒に社を出た時、彼の姿が消えてしまうのを見てなければ…

えっちゃんが神様にしろなんにしろ、何かが巻き起こっている事には違いないんだろう。

困ってる人を見捨てるのは性に合わない。


「そ。困ってる輩を見捨てるやつは、腹をかっさばいて筋道とおせ!ってね♪」

「ぶっ、物騒なのだ!!!」

「そうかな…?」

突然青ざめ隅っこに後ずさったえっちゃんに、とりあえず行ってくるねと告げる。

今度こそ駅に向かう為、このかはやしろを後にした。

続く
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