5 / 35
最初の怪事件
うわさはどんな
しおりを挟む「……最近参拝客が少ないような気はしてたんだよね。」
そう呟いたこのかは、自宅から大急ぎで持って来た時刻表を開く。
ダイヤを確かめると余裕~♪と笑った。
ついでに持ってきた大福にかぶりつくと、餡の甘さがじんわり口の中に広がっていく。
さっきまで一緒になって時刻表をチラ見していた鳩神も、両手に持った大福にパクついている。
食べ終えると彼は「まぁまぁだのぅ。」との感想を述べた。
スーパーの一袋5個入り280円は、甘みが強めでそれなりの味だった。
やっぱりこばと屋の豆大福は最強だ。
3個目の大福に手を伸ばすえっちゃんを見ながら、こうやって見てるぶんにはちょっと風変わりなちびっ子なんだけどなぁと思う。
うちの神社の神様か…
ペットボトルのお茶で口の中に残った甘さを流し込むと、ほうっと息を吐く。
「龍が社出た後すぐだから。次の列車が来るまであと二時間はある。」
もう一度開いた時刻表のダイヤを確かめる。
今頃足止めを食らってる筈だとわかって、思わずニンマリとしてしまう。
田舎の列車運行舐めんなよ、もやしっ子!
都会の数分おきに出る電車とはわけが違うのだ。
炎天下に何もない駅のホームでうろちょろするがいい。
ここに居ない相手に喧嘩をふっかけフンと鼻を鳴らす。
もう少し休んでから駅に向かえば丁度いい感じだ。
龍も引っ捕まえられるだろうし同時に問題の御神鏡も戻ってくる。
ひとまずこれで少しは今後の行動に目処も立った。
駅に向かう前に気になっていた事を聞いておこうと、お腹が満たされご満悦のえっちゃんに向き直る。
「そういえば、さっき言いかけてた悪い噂ってどういうもんなの?」
一瞬きょとんとした彼は、思い出した途端よくぞ聞いてくれたとポンと手を打った。
「うむ。平たく言うと突然【御利益がなくなった】と言うことらしいのだ。それに夕暮れ時に淡花神社の近くを通りかかると妙な人影を見るらしくてのぅ。」
「御利益なくなったって何を根拠に…」
平たくもなにも漠然としすぎてなんだかよくわからない。
それに妙な人影ってなんだろう。
家の周辺にそんな噂があるって、嫌だなぁ。
でも調べるとしたらまずはそれだろうか?
肝心の手がかりがこれじゃ、問題が解決できるか不安になってくる。
「妙な人影ってどんな?どこら辺で?」
「うぬぅ。我も詳しくはわからぬ。ちらっと小耳に挟んだだけなのだ。」
ダメじゃん。
「手がかりはそれだけか…」
溜息をつくと、困り顔で首をすくめたえっちゃんがこちらの不安を察知しマズイと思ったのか、そうだ!と新たな情報を切り出す。
「参拝した者に次々と不幸が起こるという噂もあるのだ。」
これは一番体験者が多いのだと力説してくる。
ちょっとそれ、神社としては嬉しくない情報だ。
「は?何それ!そんなの聞いたことないわよ。」
何かの間違いじゃと言いかけて、最近聞いたばかりの話が脳裏をかすめた。
「あ!そういえば香苗が…。」
「かなえ…?」
きょとんとしているえっちゃんに、私の友達と告げる。
「初デートでうちの神社に来て、参拝した直後に村の池で大喧嘩して別れたって言ってた。これって、何か関係あるのかな?」
「それだ!!」
「ホント!?」
言われてみれば確かに最近似た様な話をあっちこっちで耳にした気がする。
あれ?
ちょっと待てよ。なにか引っかかるなーと思っていると、鳩神がせっつく様に他には何かないのかと聞いてきた。
「んー。そうだなぁ。…学校でも確か誰かが…」
「それもなのだっ!!」
突然叫んだ鳩神に、反射的にマジで!?と聞き返す。
今、学校でしか言ってないけど…
「御利益を授ける力は、村の祠に集まる気によって保たれておっての。おそらくその祠に何か仕掛けた輩がいるのだ。」
祠?と聞くと村の古地図を広げた鳩神が、こほんと咳払いをして指し棒片手に説明をはじめる。
地図も指し棒も一体何処から取り出したのだろうと気にはなるが、今は置いておこう。
「ここが我らの居る社なのだ。そしてコレが池なのだ。村の至る所に霊脈が巡っておっての。そういう場所は影響がでやすいと言われておる。」
祠が置かれたのもその為なのだそうだ。
「……ここと、ここと…ここ。」
淡花神社を中心に次々に指し示していく。
他にもあるはずだと言って、困ったように眉間に皺を寄せる。
何やらうむうむ考え込みはじめたえっちゃんと、古地図とを見比べているうちにおやっと思う。
そういえばこの場所は…
「…ねぇ。村の祠があった場所って、最近怪奇現象の噂がたってる場所と被ってるんだけど…」
さっきまで寄っていたえっちゃんの眉間の皺が、パァーっと晴れ渡る。
「せーかいなのだ!!」
ひゃっほーいと小躍りしながら叫ぶえっちゃんに驚いた鳩達が何事かと騒つく。
いや、何が正解なのだろうか…
というか、こっちは全然話についていけてないんだけど。
「ちょっと待って、えっちゃん。ちょっと整理しようか。とりあえずその…村の祠に何か仕掛けた奴がいて。それが原因で村中に怪奇現象が増えたんだよね。それとも元々あった怪奇現象が出てきたって事なのかな?」
「そうなのだ。」
「それがうちの神社の噂とも関係あるって事なの?」
「そうなのだ。」
「じゃあ、その仕掛けられた祠を特定して。御神鏡持って2人揃ってその祠に行って。仕掛けた何かを取っ払えば全部解決するって事?」
「そう…なのだ?」
なんで疑問系?
本当に解ってるのかなーと疑いの念が芽生えるが、ひとまずこれも置いておこう。
「で、具体的には御神鏡をどうすればいいの?」
「うー。」
「うちの神社の神様なんでしょ?御神鏡の使用方法くらいわかるよね。」
「うむ。無理なのだ!頼む!」
またそれか。そんなにこやかに言われてもねー。
えっちゃんにわからなかったら、私にもわからんわ。
にしても駄目押しで聞いてみたが、やっぱり無理だったか。
堂々巡りだ。
「…祠に行ってみれば、なんとかなるかもしれないのだ。」
極論よえっちゃん、それは…
「そもそも何で私達に力が移っちゃったのかな?手に取ったらほいほい移るもんなの?」
脱力して聞くと、大神様の直下の神社の息子と、お膝元の社の娘だからというよくわからない返答がきた。
聞いた私が馬鹿だったかもしれない。
「きっと鏡に宿った大神様の力に同調したのだ。うむ、きっとそうだ!」
「きっとって…。」
さっきも聞いたー。
なんか適当に言ってるように感じるのは何故なんだろうか…
「はぁ~、土地の神様が御神鏡の力を使えないって不便よねー。」
元気よくすまん!と謝るえっちゃんを横目に、まぁ、いいかと諦めの溜息をつく。
とりあえず多少事情は把握できた。
今から向かえば次の列車の到着前には余裕でたどり着けるだろう。
あとは龍を引っ捕まえてから考えよう。
うん、そうしよう。
「じゃあ、えっちゃん。今から私龍の奴とっ捕まえてくるから。戻ったら作戦会議だからね。」
「おお、頼もしいぞこのか♪」
お?おだてられれば悪い気はしないものだ。
「そう?…うふふ♪任っせなさいっ!」
人助けはうちの家訓だしねと言うと、家訓?と首を傾げられた。
こういう所を見てると、やっぱり小学生にしかみえないんだけどなと思う。
時刻表を取りに行こうと一緒に社を出た時、彼の姿が消えてしまうのを見てなければ…
えっちゃんが神様にしろなんにしろ、何かが巻き起こっている事には違いないんだろう。
困ってる人を見捨てるのは性に合わない。
「そ。困ってる輩を見捨てるやつは、腹をかっ捌いて筋道とおせ!ってね♪」
「ぶっ、物騒なのだ!!!」
「そうかな…?」
突然青ざめ隅っこに後ずさったえっちゃんに、とりあえず行ってくるねと告げる。
今度こそ駅に向かう為、このかは社を後にした。
続く
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
バスケットボールくすぐり受難
ねむり猫
大衆娯楽
今日は女子バスケットボール県大会の決勝戦。優勝候補である「桜ヶ丘中学」の前に決勝戦の相手として現れたのは、無名の学校「胡蝶栗女学園中学」であった。桜ヶ丘中学のメンバーは、胡蝶栗女学園の姑息な攻撃に調子を崩され…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる