転生賢者の英雄再譚 〜世界救ったけど、二百年後の世界に再び危機が迫っているのでまた救います〜

ナガト

文字の大きさ
上 下
24 / 24

第二十三 過去

しおりを挟む
 アリシアの宿泊している場所は、彼女が高いというだけあって外見からして豪華だった。
 どこかの屋敷を彷彿とさせる建物の前には、色とりどりの花々が植えられた花壇が設けられており、夜でよく見えないが太陽の光が当たればさぞ絢爛な光景が広がるのだろう。

「ここの一室ですか?」
「いや、全部だ」
「…………はい?」

 思わず聞き返す。
 ここは迷宮都市内では決して一等地とは言えない場所だが、それでも庭付きの豪邸を一人で住んでいるというのは俄に信じがたかった。

「私とて、クランの副長を務めていた身だ。これくらいの家に住む貯蓄はある。とはいえ、賃貸だから持ち家というわけではないがな」
「はぁ……」

 酒場での防音が完璧だという発言を思い出す。
 確かにこれだけの敷地ならば、敷地内に侵入しない限り誰にも訊かれることがないだろう。それどころか、大音量で合唱でもしない限り近所迷惑にすらならないと思った。

 長い玄関を通り扉を開けると、目の前には二階へと続くY字型の階段が目に入った。。
内装は外装ほど絢爛ではなかった。外装とのギャップを防ぐために最低限の家具や装飾が施されている。そんな中よく目につくのは薔薇模様の家具たちだ。
 花瓶にベッドにソファーと、至る所に薔薇模様がある。

 そう言えば、アリシアが所属していたクランの名前にも薔薇というのが入っていたな。きっと名前に薔薇がついていたのは、アリシアが薔薇が好きだったからなのだろう。と、勝手に決めつけ、屋敷の中を歩く。

 案内された場所は大人数用の長テーブルが置かれているリビング。テーブルの上にもレースのついた薔薇柄のテーブルクロスが敷かれていた。

「飲み物を持ってこよう」

 そう言ってアリシアは、奥にあるキッチンへと消えていった。
 立たされたままのルーンは、どこに座ろうか迷っていた所にトレーを持ったアリシアがカップを、長い辺にある五席の真ん中に置いたため、そこに座る。そしてアリシアは、その向かい側の椅子に腰をかけた。

「さて、どこから話そうか……」

 出されたホットティーに口をつけて、思い出話の出発点を思案する。
 ルーンの過去は二十後半と人としては短い人生ではあるが、その知識と経験は何十年何百年にも及ぶ。魔法の蘊蓄はもちろん、邪竜討伐の旅は三日三晩ですら語りきれないほどだ。
 話の切り口を決めて、ルーンは口を開いた。

「結論から言いましょう。俺は、二〇〇年前に死んだはずのルーン=ジルマール。その本人です」

 それから話を続ける。
 なんで二〇〇年後のこの時代で、こんな体で生きているのか。そもそも体が違う時点で、ルーンという人間は生きているのか。正直言って未だに分からない。
 だけど、ルーンは自分という存在を認識しているし、ハルトたちとの旅の記憶もある。魔法の知識量も、ルーンが取る行動も生前のルーンと同じ。結果、ルーンは二〇〇年前の賢者ルーン=ジルマールであると結論づけたこと。
 そして、なぜこの時代で蘇ったのか、その理由を知るために蘇った地下迷宮を調査しようとしていることを話した。

 唐突の暴露に唖然とするアリシア。

「あ、いや……何と言えばいいのだろうか。やはりと言うべきか、まさかと言うべきか……」
「信じ難いのも無理ないです。実際、現状俺自身のことを全く把握できていないんで」

 名ばかりの賢者だとルーンは苦笑する。

「ああ、信じ難いが信じるさ。いや、むしろ納得が行った。ルーン……、いや賢者殿の強さは異常だったからな」
「賢者殿って、ルーンでいいですよ」

 軽口だった人からいきなり畏まられてもルーンとしても困る。

「では、ルーンと。それならば出来れば敬語はよしてほしい」
「いや、これはもう癖だからしょうがないです」
「なら、私も敬語を使わせてもらいます。二〇〇年前の英雄に敬語を使われていると思うと、なんか……」

 元々平民出身のルーンは、敬語を使えど使われる機会は少なかった。もちろん、賢者としての功績を積んだ後は敬われることは少なからずあったが、それでもルーン自身も敬語を使い続けていた。タメ口を使っていたのは、仲間の前くらいだろう。

「そうですか…………。いや、そうか。なら敬語は頑張って抜かせるよ」
「ありがたい」

 ホッと安堵のため息をつくと、アリシアはマグカップに手を伸ばす。
 それに釣られてルーンも手に持っていたカップを口へ運んだ。じんわりと広がる紅茶の渋み、そして仄かに香るレモンの匂い。暖炉に火をつけるまでもないが夜は少々体が冷える。そんな体をこの飲み物が中から温めてくれた。

「それで」
「ん?」

 暫しのティータイムで一息つくと、アリシアは今まで我慢していたとばかりにテーブルに身を乗り出した。

「二〇〇年前のことは聞いてもいいのだろうか?」
「……あ、ああ。大丈夫ですよ」

 アリシアの優雅な振る舞いから一転した姿に、さっそく敬語に戻ってしまった。
 だが、二〇〇年前の話が聞けると言う喜びが優ったようで全くそのことを気にしていないようすだった。

「で、では……。ルーンには恋人とか居たのか?」
「…………はい?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
 二〇〇年前の出来事の最初の質問がこれなのかと、それも至極真面目な表情で聞いてくるあたりがどこか狂気すら感じさせた。

「だから、恋人は居たのかどうか聞いている」
「いや、二〇〇年前の出来事だぞ? もっと聞くことあるだろ? 勇者はどんな人だったのかとか、邪竜との死闘とか、それこそアリシアのご先祖様のイーリアスのことだって」
「それもこれも全部聞きたいことだが、まずは質問に答えてほしい」

 ずいっ、とテーブルに乗り出した体をさらに近づける。ルーンは声には出さなかったが、近い近いっと内心で叫んだ。

「いなかったけど」
「けど?」
「いや、居なかった。気にしないでくれ」

 ”けど”と付け加えたのはただの見栄だ。「居なかった」より「居なかったけど」とつけた方が、含みがあるように演出できる。だが、見事にアリシアにツッコまれて逆に恥ずかしい結果になった。
 墓穴を掘って恥をかいたルーンは顔を真っ赤にする。
 しかし、恋愛しなかったのにはルーンにも言い分がある。
 ルーンは幼少期に魔法の才を開花させ、以来ずっと爺婆が九割を占める環境で魔法の研究に励んでいた。十何年という月日を魔法研究に縛られ、解放されたと思いきや次は血生臭い邪竜討伐の冒険だ。
 いわゆる青春と呼ばれる期間を、ルーンには与えられなかった。
 それを不幸だとは思わない。魔法の研究は楽しかったし、魔法界隈では最年少であるルーンはチヤホヤされてきた。邪竜討伐でも勇者をはじめとした仲間たちとの冒険は心躍るものがあった。

「なんで、こんなことを聞いてくるんだ?」
「イーリアス様の遺言でな。賢者に女の影がなければ笑ってやれってな」
「んなっ!?」

 なんて性格が悪いんだ!!!!、と心の中で盛大に叫んだ。
 イーリアスの憎たらしい下卑た笑みが脳裏に映し出される。遺言として代々受け継がせるとはどういう神経しているのか。それにしっかり次世代に受け継がせているアーレウス家も可笑しいし、しっかりその役目を果たしたアリシアもどうかと思う。
 総じてアーレウス家は頭がおかしい連中だと、ルーンの中でカテゴライズされた。

「他の人たちに対しての遺言とかは無かったのか?」
「特には無いな」
「俺のこと嫌い過ぎだろ……」

 そこまで恨まれるようなことをした覚えはないと、思わずテーブルに突っ伏す。
 確かにタイマン勝負では魔法の自動防御からの反射攻撃、小さな地割れを起こして足を崩し、そこから距離をとって一方的に魔法を打ちまくったとかはしたけど、こんなことで恨まれるはずがない。
 けれど、それから彼女の当たりが強くなった気もする。

「嫌っていると言うよりかは」

 子孫のアリシアには何か察したかのような表情でそこまで話す。が、それ以上は無粋だなと続きを話すのをやめた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

虐げられて死んだ僕ですが、逆行転生したら神様の生まれ変わりで実は女の子でした!?

RINFAM
ファンタジー
「ラ、ラ、ラトール様ああっ!!坊ちゃま!!た、たっ、大変でございます!!」  お城みたいに広大な屋敷の中で、女中頭の悲鳴じみた声が響き渡る。  これで離れの屋敷に過ぎないんだから、本邸はどれだけ広いんだか!?って思うよね。 「なんだ。どうした、キアイラ?」 「ぼ…坊ちゃま、ああッ…あ、慌てないでくださいね!?」  『坊ちゃま』と呼ばれた兄上が、微妙に嫌な顔をするのが見えた。  確か兄上は16歳になるはずだから、さすがにそろそろ坊ちゃま扱いは嫌だよね。わかる。 「慌てているのはお前だろう。いったい、どうしたというんだ…」 「フィ…フィーリウ坊ちゃまが…」 「フィーリウがどうした?」 「フィーリウ坊ちゃまが、坊ちゃまでないんです!!」  女中頭の言葉に兄上が、不可解そうな顔を見せる。  無能力者として生まれてしまった僕は、虐げられて誰にも愛されないまま死んだ。と思ったら、何故か5歳児になっていて、人生をもう一度やり直すことに!?しかも男の子だと信じて疑わなかったのに、本当は女の子だったんだけど!!??

処理中です...