転生賢者の英雄再譚 〜世界救ったけど、二百年後の世界に再び危機が迫っているのでまた救います〜

ナガト

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第二十話 魔人化事件

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 事件の後、地上へ戻ったルーン達を出迎えていたのはギルドの職員たちだった。
 ギルドお抱えの冒険者らしき人も数人待機しており、もう少し遅かったら迷宮へ潜っていたのかもしれない。
 ギルド職員の後ろには、リノアを初めとした『銀紅の薔薇』の当事者たちが、ヴィルメルがどうなったのか心配そうに覗いていた。
 彼女らはアリシアが背負っている人間に戻った姿の彼女を確認するや、ギルド職員を押し退けてヴィルメルの元へ駆け寄った。
 意識がない彼女に息を呑む。だが、小さく息をしている事に安堵し、涙が込み上げてくる。
 みんなして泣いて、ルーンとアリシアに終わらない感謝を告げられた。

 ヴィルメルはと言うと、見た目は元の姿になったとは言え、まだ彼女の容態は経過を見なければということで、ギルドの医療班に預けられることになった。
 実際万能薬を使用したから体力こそ消費して寝ているけれど、それ以外は健康状態そのものなのだが、それを言うメリットは無いので黙っておく。

 彼女の服はもはや恥部すらも隠せないほどに破けさっていたので、ルーンのジャケットを着せている状態。預ける際に大きめのブランケットに身を包みまれて引き取られた。
 ルーンが彼女に着せていたジャケットを着直すと、ギルド職員が二人の前に立った。

「アリシア・アーレウス殿と、そちらの……」
「ルーディル・メイジックです」
「これは失礼致しました。ルーディル・メイジック殿、今回の件でギルド長が一度報告に来てほしいと。迷宮探索後で大変お疲れなのは承知ですが、ギルドまで同行をお願い致します」

 ルーンはアリシアとアイコンタクトを取り、ギルド職員に頷いた。
 二人とも確かな疲労感が残っているが、こういった事態は早い報告が重要になってくる。
 未だ報告されていない、人が魔物のようになる現象は今後増えないとも言いかねない。
 寝たいだの、疲れただのとは言っていられなかった。

 ギルドまでの移動は馬車だった。
 ギルドが手配した馬車に乗る。
 内装こそ質素な物だったが、座席は肌触りもよく優しく反発してくる、座っていても疲れづらい実用的な馬車だった。

 ギルドに着くと職員に三階にある一室まで案内される。
 職員がコンコンと扉をノックすると、

「入れ」

 と一言、低い男の声が返ってくる。
 中に入ると、そこには白髪混じりの中年男性が書斎机に座り、ルーン達を迎え入れた。
 白髪が混じる年齢とは思えないほどの鍛え上げられた肉体は、彫りに深い顔面には右眉毛あたりから左顎にかけて一筋の古傷があった。
 歴戦の戦士。それがルーンが率直に抱いた感想だった。

「よく来てくれた。アーレウス氏、メイジック氏。私はザリウス・ノリッチ。この迷宮都市のギルド長を務めている。さぁ、そこに掛けてくれ」

 ギルド長ザリウスは、威圧とも取れる低い声を、最大限に柔和にした口調で応接用の座席を勧める。
 ルーンとアリシアは並んで座り、ザリウスは向かいのソファーに座った。
 軽い謝辞から始まりザリウスは話し始める。

「さて、まずは迷宮探索終わりにすまない。来てもらったのは他でも無い『銀紅の薔薇』のヴィルメル・ロージア嬢が怪物になったという件についてだ。すでに『銀紅の薔薇』のメンバーには情報を提供して貰っているが、君たちにも話を聞きたくてね」
「私たちが答えられることなら」

 アリシアが返答する。
 今回は自分に話が振られない限り話さないと決めているからだ。
 ルーンはこの中では一番地位の低い位置にいる。そのためザリウスも二人と対面をしている形ではあるが、体はアリシアの方に向いていた。

「助かる、何せ今回の事態は迷宮都市でも初めての出来事だ。ん? 報告によるとロージア嬢は元の姿に戻ったそうじゃないか」

 ザリウスは、手元に広げられた資料(恐らく出来立てホヤホヤのヴィルメルの報告書)に目を通す。

「ええ、ここにいるルーディルが治療しました」
「ほう……」

 一言そう零してルーンを見る。
 この目を知っている、相手を品定めをするような視線だ。
 頭の天辺から足先までじっくり見られているような感覚。
 しばらくその視線に耐えていると、やがてザリウスはアリシアだけにではなく、ルーンとアリシア二人に体を向けた。
 そしてルーンに向けて頭を下げた。

「冒険者は日々死者が出ている。彼女も本来なら今日までの命だったはずだ。そんな彼女の命を救ってくれたことに深い感謝を。それで、よければその治療法を我々に提供をしてくれないだろうか?」

 さてどうしたものか、とルーンは思案する。
 治療法を教える事に関しては全く問題ない。だが、治療の方法を説明するのには少し骨が折れるのではと危惧している。
 魔力に陰陽という性質を知っているのは恐らく一握りの存在だ。
 そんな説明を一から説明して、理解してもらえるのか。そもそも、魔道杖の補助なしでは魔力操作が碌にできないこの時代に教えて意味があるのか。

「その前に、一つ疑問に思ったことをお聞きしても?」
「私に答えられることならば?」
「何故、ヴィルメル嬢が怪物になったのを疑わなかったのですか?」
「……どういうことだ?」

 隣に座るアリシアが疑問符を浮かべる。
 だが、ザリウスはその質問の意図を理解しているようで、疑問を抱いた表情をしていなかった。それどころか表情が読めない。
 さすが迷宮都市という大都市のギルド長と、表情一つ変えないのには賞賛を送らずにはいられなかった。
 ザリウスはゆっくり口を開ける。

「何が言いたいんだ?」
「いや、普通におかしいんですよ。迷宮都市史上、初めての出来事にしては対応が早すぎる」

 リノア達が体験した出来事は、誰もが嘘なのではないかと疑ってしまうほど突飛なものだ。彼女らがいくら迫真に訴え、それを信じたとしても数人の冒険者とギルド職員を手配するのは迅速すぎる。

「それにヴィルメル嬢の体は正常そのものです。もしそんな彼女を見たならば、普通『銀紅の薔薇』の仲間が虚偽の報告をしているという疑いを持つ。なのに、そうはせず俺たちをここに呼び出した」

 万能薬を使った彼女は、心臓についていた塊すら消滅している。今のヴィルメルは気絶しているだけの健康体。怪物になった形跡は微塵もないのにも関わらず、事例のない怪物になった現象を疑わなかった。
 となると、

「あの現象に何か心当たりがあるのではないんですか?」

 そう結論づけれる。
 ザリウスが言っていた「初めての出来事」というのは虚偽の発言だろう。
 分からなくもない。
 人が怪物になるのは、歴史上でも未曾有の現象だろう。
 何が原因で人があんな怪物になるのか、どうすれば治せるのか。
 何も分からない現状で、こんなことを公にしたらどうなるかは目に見えている。
 不安に駆られ冒険者は引退し激減する。それに伴い魔石の採取量は激減し、迷宮都市の維持は厳しくなる。
 ギルド長はこの迷宮都市の統治者でもある。そんな事態には絶対にさせるわけにはいかない。

「はぁ……」

 ザリウスは短くため息を吐くと、胸ポケットから一つの石を取り出した。
 拳よりかは小さい石は、透明感のあり赤く輝いている。

「……宝石?」

 まじまじと見たアリシアは そう呟く。
 だが、それが宝石ではないことをルーンはわかった。

「いや……魔石、ですか?」

 ルーンが感じ取ったのは内包された魔力。
 大量には含まれていないが、確かに目の前の石には魔力が含まれていた。

「ああ、今ギルドが保管しているのはこれを含めて五つ。全部、人の体内から取った物だ」
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