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第十六話 迷宮探索−4
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ルーン達がリノアを見つけることができたのは、本当にただの偶然だ。
第十一層から警戒してくれと、アリシアの助言によりルーンは定期的に”空間把握”改め”探索”魔法を飛ばしていた。
その範囲内で複数の魔物に追われているリノアが引っかかったというだけ。
偶然見つけ、急いで向かったから助かったものの、後数秒でも遅れたら魔物に餌となっていたと思うだけでゾッとする。
二〇〇年前にも魔力溜まりの被害で多くの人の命が犠牲になったのを経験をしているが、やはり目覚めがいいものではない。
「そういえばル、ルディールさん。あの、魔法は……」
「ああ、氷結魔法です。リノアさんには当たらないように火力調整したんですが、大丈夫でしたか?」
「か、火力調整、ですか?」
リノアが知らないのも無理はない。
何せ現代の魔法使いは魔道杖に記された魔法陣に、一定の魔力を込め、一定の出力の、一定の射程範囲の魔法しか放つことしかできないのだ。魔力をどれだけ多く注いでも、魔力の威力は大きくなることなくただ無駄に魔力を消費するだけで、火力の調整は一切できないのだ。
「ルディールは魔道杖無しで魔法が使えるんだ。だから、リノアが分からないのも当然さ」
可笑しなやつだろ。と耳打ちするように小さく最後に付けたのを、ルーンは聞き逃さなかった。
ジト目でアリシアを見るのに対し、リノアの瞳は今までにないほど輝かせていた。
「そ、そそ、それって杖無し(オリジナル)ってことですか?」
「え、オリジナル……何それ?」
図書館でも出てこなかった単語に思わず聞き返す。
男性恐怖症はどこへやら、リノアは目と鼻の先まで顔を近づけてくる。
肉体年齢的に同年代ほどの女の子に、そんな至近距離まで詰められては流石にドギマギせざる終えない。
ルーンは跳ね除けようとしたが、男性恐怖症を考慮して触れないようにサササッと後ずさる。
「え、ええっと、な、何の補助もいらない、本当の魔法使いことを、今の魔法使いはそう呼んでいるんです……」
自ら近づいたことが恥ずかしくなり、顔を真っ赤にさせたリノアはそう説明した。
だが、おかしい。
迷宮都市には図書館が存在する。魔法を学ぼうと思えば、あそこにいけば学べるはずだ。
それに今や魔道杖職人と化した元魔法使いも生き残ってはいるだろうし、そこまで感動するような話じゃない。
そんな疑問を浮かべていることを察したのか、リノアが続けて話す。
「わ、私たちみたいな現魔法使いは魔力が少ないんです。ローブの魔力の増幅と、杖の魔力効率化があるおかげで辛うじて魔法が使えるくらいで」
この数十年でそこまで衰退したのかと、ルーンは驚きを隠せないでいた。
魔道杖無しでの魔法行使はもはや不可能どころか、ローブの恩恵無しでは魔力が保たない。魔法界を成長させた一人として、これほど衝撃的なことはなかった。
いや、そもそも魔法使いが多いことが可笑しいのだろう。
魔法使いは魔力のある者に与えられた特権であり、その地を絶やさないよう代々魔法使いの家系同士で婚姻を結び、魔力持ちを維持し、さらには魔力の保有量や魔法に関する性能を向上させて行った。
かくいうルーンは名家でなければ、魔法使いの家系でもない。
突発的に誕生した異端児ではある。
だがこういったパターンでの魔法使いは、今の魔法使いのように魔力保有量が少ないか、魔力操作が覚束ないなどの何かしら欠点を抱えている。
たまたまルーンは他よりも魔法に関する性能が異常に高かっただけで、皆がそうなるとは限らないのだ。
おそらく現状の魔法使いと呼ばれる存在は、魔法使いの家系が魔力を持たない一般人と結婚して生まれた者、あるいはルーンのように突如魔力持ちとして生まれてきた者なのだろう。
自由恋愛はルーンの、勇者パーティーが望む世界ではあるが、まさかこんな弊害があるのかとは予想がつかなかった。
「もちろん中にはローブを着なくてもいい魔法使いや、魔道杖を必要としない魔法使いは存在するそうですが、あの規模の魔法を扱える人を見るのは初めてでして」
「へえ、知りませんでした。教えてくれてありがとうございます」
「い、いえ……」
あわあわと両手をブンブンと振る。
こんなに動いて怪我したところに障らないのかと思った矢先に、腕の擦りむいた箇所が疼いたのか、イテテッと言いながら蹲った。
「リノア、パーティーとはどの辺で逸れたんだ?」
「えっと、十二階層へ続く階段手前だって、メンバーの一人が言っていました」
迷宮は精神が異常をきたしてもおかしくないほど、代わり映えのない洞窟が続くばかりだ。
多少の変化はあるが、リノア自身中層へ踏み入れるのは今回が初めてで、中層の正確な位置なんか分かるはずもなかった。
「十二層手前か、あそこには特別手強い魔物はいないが……」
そこでアリシアは言葉を途切らせる。
ここは死と隣り合わせの迷宮。足元に転がっている石ころ一つですら、死の危険になりかねない。
現にアリシアは、先日取るに足らないと思っていたコボルトに命を奪われかけた経緯もある。
「一体何があったんだ?」
リノアが一瞬身を震わせる。
何があったのか思い出したのか、途端に小刻みに体が震え始めた。
その光景が異常だと察したアリシアは急いで、リノアに駆け寄り抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だ」
宥めるように優しく声をかける。
しばらくして、抱きしめるアリシアの体温でリノアは落ち着きを取り戻した。
だが、やはりどこか怯えているようすでもある。
「話せる範囲でいい。ほかの子も危険ならば、私たちは助けに向かないと」
ルーンもアリシアの意見には賛成だった。
『救える命は何としてでも救う』
勇者が言っていた口癖だ。
その理念はいつしかパーティー全体の物となり、ルーンの中でも生き続けていた。
「私たちの迷宮攻略は、最初は順調な走り出しだったんです」
そう言って始まったのは、奇妙な話だった。
第十一層から警戒してくれと、アリシアの助言によりルーンは定期的に”空間把握”改め”探索”魔法を飛ばしていた。
その範囲内で複数の魔物に追われているリノアが引っかかったというだけ。
偶然見つけ、急いで向かったから助かったものの、後数秒でも遅れたら魔物に餌となっていたと思うだけでゾッとする。
二〇〇年前にも魔力溜まりの被害で多くの人の命が犠牲になったのを経験をしているが、やはり目覚めがいいものではない。
「そういえばル、ルディールさん。あの、魔法は……」
「ああ、氷結魔法です。リノアさんには当たらないように火力調整したんですが、大丈夫でしたか?」
「か、火力調整、ですか?」
リノアが知らないのも無理はない。
何せ現代の魔法使いは魔道杖に記された魔法陣に、一定の魔力を込め、一定の出力の、一定の射程範囲の魔法しか放つことしかできないのだ。魔力をどれだけ多く注いでも、魔力の威力は大きくなることなくただ無駄に魔力を消費するだけで、火力の調整は一切できないのだ。
「ルディールは魔道杖無しで魔法が使えるんだ。だから、リノアが分からないのも当然さ」
可笑しなやつだろ。と耳打ちするように小さく最後に付けたのを、ルーンは聞き逃さなかった。
ジト目でアリシアを見るのに対し、リノアの瞳は今までにないほど輝かせていた。
「そ、そそ、それって杖無し(オリジナル)ってことですか?」
「え、オリジナル……何それ?」
図書館でも出てこなかった単語に思わず聞き返す。
男性恐怖症はどこへやら、リノアは目と鼻の先まで顔を近づけてくる。
肉体年齢的に同年代ほどの女の子に、そんな至近距離まで詰められては流石にドギマギせざる終えない。
ルーンは跳ね除けようとしたが、男性恐怖症を考慮して触れないようにサササッと後ずさる。
「え、ええっと、な、何の補助もいらない、本当の魔法使いことを、今の魔法使いはそう呼んでいるんです……」
自ら近づいたことが恥ずかしくなり、顔を真っ赤にさせたリノアはそう説明した。
だが、おかしい。
迷宮都市には図書館が存在する。魔法を学ぼうと思えば、あそこにいけば学べるはずだ。
それに今や魔道杖職人と化した元魔法使いも生き残ってはいるだろうし、そこまで感動するような話じゃない。
そんな疑問を浮かべていることを察したのか、リノアが続けて話す。
「わ、私たちみたいな現魔法使いは魔力が少ないんです。ローブの魔力の増幅と、杖の魔力効率化があるおかげで辛うじて魔法が使えるくらいで」
この数十年でそこまで衰退したのかと、ルーンは驚きを隠せないでいた。
魔道杖無しでの魔法行使はもはや不可能どころか、ローブの恩恵無しでは魔力が保たない。魔法界を成長させた一人として、これほど衝撃的なことはなかった。
いや、そもそも魔法使いが多いことが可笑しいのだろう。
魔法使いは魔力のある者に与えられた特権であり、その地を絶やさないよう代々魔法使いの家系同士で婚姻を結び、魔力持ちを維持し、さらには魔力の保有量や魔法に関する性能を向上させて行った。
かくいうルーンは名家でなければ、魔法使いの家系でもない。
突発的に誕生した異端児ではある。
だがこういったパターンでの魔法使いは、今の魔法使いのように魔力保有量が少ないか、魔力操作が覚束ないなどの何かしら欠点を抱えている。
たまたまルーンは他よりも魔法に関する性能が異常に高かっただけで、皆がそうなるとは限らないのだ。
おそらく現状の魔法使いと呼ばれる存在は、魔法使いの家系が魔力を持たない一般人と結婚して生まれた者、あるいはルーンのように突如魔力持ちとして生まれてきた者なのだろう。
自由恋愛はルーンの、勇者パーティーが望む世界ではあるが、まさかこんな弊害があるのかとは予想がつかなかった。
「もちろん中にはローブを着なくてもいい魔法使いや、魔道杖を必要としない魔法使いは存在するそうですが、あの規模の魔法を扱える人を見るのは初めてでして」
「へえ、知りませんでした。教えてくれてありがとうございます」
「い、いえ……」
あわあわと両手をブンブンと振る。
こんなに動いて怪我したところに障らないのかと思った矢先に、腕の擦りむいた箇所が疼いたのか、イテテッと言いながら蹲った。
「リノア、パーティーとはどの辺で逸れたんだ?」
「えっと、十二階層へ続く階段手前だって、メンバーの一人が言っていました」
迷宮は精神が異常をきたしてもおかしくないほど、代わり映えのない洞窟が続くばかりだ。
多少の変化はあるが、リノア自身中層へ踏み入れるのは今回が初めてで、中層の正確な位置なんか分かるはずもなかった。
「十二層手前か、あそこには特別手強い魔物はいないが……」
そこでアリシアは言葉を途切らせる。
ここは死と隣り合わせの迷宮。足元に転がっている石ころ一つですら、死の危険になりかねない。
現にアリシアは、先日取るに足らないと思っていたコボルトに命を奪われかけた経緯もある。
「一体何があったんだ?」
リノアが一瞬身を震わせる。
何があったのか思い出したのか、途端に小刻みに体が震え始めた。
その光景が異常だと察したアリシアは急いで、リノアに駆け寄り抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だ」
宥めるように優しく声をかける。
しばらくして、抱きしめるアリシアの体温でリノアは落ち着きを取り戻した。
だが、やはりどこか怯えているようすでもある。
「話せる範囲でいい。ほかの子も危険ならば、私たちは助けに向かないと」
ルーンもアリシアの意見には賛成だった。
『救える命は何としてでも救う』
勇者が言っていた口癖だ。
その理念はいつしかパーティー全体の物となり、ルーンの中でも生き続けていた。
「私たちの迷宮攻略は、最初は順調な走り出しだったんです」
そう言って始まったのは、奇妙な話だった。
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