転生賢者の英雄再譚 〜世界救ったけど、二百年後の世界に再び危機が迫っているのでまた救います〜

ナガト

文字の大きさ
上 下
8 / 24

第七話 迷宮都市と彼女の事情

しおりを挟む
 迷宮都市ブリューゲル。
 人族国の獣人族へと繋がる国境に辺りに位置する巨大都市。
 この地は、かつては魔物の跋扈する森だった。
 しかし、今はバベルの地下に迷宮ダンジョンができる事で、地上に魔物が発生しなくなり地上に人が住めるようになったのだ。

 都市が出来て百年弱。
 最初は小さい町から始まった。
 魔物を閉じ込めるダンジョン化計画には多くの人が賛同するも、迷宮に潜り魔物を狩ることは良しとしなかった。
 魔物が跋扈する迷宮が本当に安全なのか。
 冒険者という職業が本当に安定したものなのか。
 そもそも迷宮ってなんだ。冒険者ってなんだ。

 それは無理もなかった。
 元々は魔物が住み着いていた森。
 誰もが近寄らないのは当然だ。

 そこに命知らずの戦士たちが先陣を切った。
 三日間の迷宮探索。
 命辛辛で生還を果たした冒険者たち。
 その手には大量の魔石が入った袋が握られていた。

 一攫千金。

 当時の魔石の買値は高く、それだけで小金持ちになった。
 そのことを知った者たちは、我先へと迷宮へ潜った。
 金の匂いを嗅ぎつけて来た商人、冒険者を手助けする職人。
 その家族がこの街に住み着き、今の都市へとなった。





 この都市の住民は様々な種族が存在していた。
 人族、妖精族、獣人族、そして魔族。
 争い合い、差別し合っていた種族が同じ空の下、手を差し伸べ合いながら生活をしていた。

「まだ、慣れないなぁ」

 人族の少年と、魔族の少女が手を繋ぎながら歩く光景が目に入る。
 きっと恋人同士である二人。
 ルーンの知る世間では目の前の光景は、想像も付かなかっただろうし、絶対に許されなかったに違いない。
 自分達が夢見てた光景が今広がっている。
 本当は夢なのではないかと何度も頬を抓っていた。

「うん、夢じゃない……」

 頬はジンジンと痺れ、抓りすぎたせいか抓った箇所が真っ赤になっていた。
 隣を歩くアリシアも、目の前の光景が視界に入った。

「微笑ましいな」
「そうですね」

 きっとアリシアにとってはただのカップルにしか写らないだろう。
 軋轢や差別なんかはもはや歴史の産物。
 教養があり、過去を知っていても、目で耳で肌で感じてはいない。
 周囲の許さない視線を知らない。
 けれど、それでいいと思った。
 ルーンたちが目指した世界は、そういう世界なのだから。

 それからしばらく街中を歩くと、ルーンたちは冒険者ギルドに辿り着く。
 目の前に聳える建造物の外見は、白亜の巨城。
 あたりのどの建物よりも大きく、その大きさはその権力を現し。白亜の色は不正のない、組織としての純粋性を現しているかのようだった。
 とはいえ、バベルの塔には到底敵わない。

「いらっしゃいませ~。冒険者ギルドへようこそ!」

 制服を着た従業員らしき女性は営業スマイルで、二人を出迎える。
 辺りには、初心者らしき冒険者から熟練そうな冒険者たちが行き交いしていた。
 
 ギルドの内装は至ってシンプルだった。とはいえ、外装との落差が出ないほどには金も手も掛かっているであろう内装ではあるが。
 王城を連想させる高い天井、そこに吊り下げられているのは魔灯で作られたシャンデリアだ。
 魔道具が普及している今の時代では当たり前なのかもしれないが、価値観の古いルーンにとっては計り知れなく高価で信じられない代物だった。

「時代が変われば、物の価値も変わるか……」

 技術の発展は嬉しい事だが、急にこれが進歩した結果ですと出されては、心の理解が追いつかない。
 ルーンは遠い目をする。
 その隣でアリシアは、慣れた足取りで磨かれた石のタイルの上を歩き出す。
 左手側にあるカウンターには『換金窓口』と書かれていた。

「魔石の換金を頼む。あ、これと、これは別でお願いできるだろうか?」
「はい、ではお預かりしますね」

 魔石の入った麻袋を二つ。一つは元々アリシア一人で集めていた魔石の入った袋と、もう一つは帰還時に集めた魔石が入った袋。
 そして首に下げたペンダントを渡す。
 そのペンダントは、スケルトンが持っているものと似ていた。
 金属板であるのは同じだが、ルーンのは銅製に対して、彼女のものは白金製。
 よく見れば、隣の冒険者も身につけていた。

(なるほどこれが身分証になっているのか)

 と、ルーンは理解した。

「ルーンは換金しないのか?」
「いえ、俺は大丈夫です」

 アリシアと出会うまでスケルトンとしか出会っていない。そのスケルトンも、一時的に行動不能にはしたものの、貧弱な腕力のせいで倒しきれていない。
 持っているとすれば、アリシアを助けた時に倒したコボルトの魔石くらい。
 そうこうしていると、鑑定が終わったのか硬貨が小さいにトレーに乗せられ、カウンターに置かれた。

「三五〇〇〇ペルと、こっちは一二〇〇〇ペルになります」
「ヘルハウンドの魔石が結構高値がついたな」

 アリシアは、最初の高額の方を硬貨を財布に入れる。
 そして、残りの一二〇〇〇ペルをルーンに渡した。

「え、いんですか?」
「ああ、元々そのつもりだったからね」

 程よい重みが伝わる。
 この金額がどれくらいのなのか定かではないが、贅沢したければ二日は生きていけるだろうと推測した。

「さて、次は夕食だな」
「え?」
「ここまで一緒なんだ。もちろん、夕食も一緒してくれるだろ?」

 アリシアは悪戯な笑みをする。
 ギルドまで同行すると言った時点で、ここまでの流れは彼女の中では決まっていたと、ルーンは悟った。
 彼女の手のひらで転がされているなと、苦笑する。

「ええ、じゃあ、安い店をお願いします。お金これしかないんで」
「安い店、か。じゃあ、あそこだな」

 そうして連れてこられたのは、大通りにある大衆酒場。
 木製の家具を基調とした店内には、すでに満員近くの客が座っている。
 迷宮帰りの冒険者は、今日も生きて帰って来たと皆で喜びを分かち合い。
 犬猿の中の冒険者は、どちらが多く酒を飲めるか競い合っている。
 既に店を梯子して来た客は、しゃくりを上げながらも酒を呷っていた。

「なんだ、紅蓮姫。おめえもついに男が出来たのか?」
「おいおい、ヒョロっちいやろうじゃないか」
「おめえ、なんだそのナリは? ぼろっぼろじゃねえか」

「「「ギャハハハハハ」」」

 ルーンたちの隣のテーブルに座っていた冒険者らしき男たちが、二人を揶揄い笑う。
 酔っ払いによるただのだる絡みだ。
 アリシアは不機嫌な表情で、口元にエールを運ぶ。
 ルーンもまた、こういう時は不干渉が一番だとよく知っている。

「おん? なんだ、酒も飲めねえションベン小僧じゃねえか」

「「「ギャーハッハッハッハ」」」

 ルーンの手元にはエールではなく果実水。
 本当はルーンも酒を飲みたいところだが、どうもこの見た目では許されそうにもない。
 昔ならば「みんなには内緒だぞ?」といって皆が飲ませてくれたのだが、この時代ではどうも未成年飲酒などには規制が厳しいらしい。

「精神年齢は三十近いだけどなぁ。……うまい」

 精神年齢は成人でも、舌はまだ子供なのか妙に果実水が美味しく感じられ、なぜかそれが悔しかった。
 やがて野次馬たちも飽きて来たのか、どこかへ消え去った。
 それを確認したルーンは、ようやく解放されたかと小さくため息をついた。

「すまないな。迷惑をかけてしまった」
「え、アリシアさんのせいじゃないでしょ?」
「そうでもない」
「といいますと?」

 アリシアは少し悩んだ末に、口を開いた。

「……私は少し前まではクランに所属していたんだ。名前は『金紅の薔薇』。私ともう一人で立ち上げた、女性のためのクランだ」
「へぇ、凄いじゃないですか」
「いや、クランを立ち上げること自体はそんなに凄いことじゃないんだ。人数を集めて、ギルドに申請すればそれで済むからな。
 当初は迫害されていた女冒険者のために作ったクランだったんだ。
 やはり、冒険者は男が多い職業だ。女というだけで軽視され、パーティーすら組むのに一苦労する。そんな彼女らを強く、男冒険者よりも強く気高く冒険者として生き抜いてほしいと思って」

 その気持ちはルーンもわかった。
 ルーンもまた弱きものを助けるため、種族間での差別を無くす目的で戦っていたのだから。
 こんなに平和な世界でも差別は無くならないのかと、反吐が出る。

「まあ、数年で目的は達成できたよ。私たちのクランは徐々に力を付け有名になり、女というだけでは馬鹿にされないようになったんだ。だが、もう一人と意見が分かれてな。私はただ対等に扱われるようになって欲しかったんだが、奴は違ったみたいだ」

 アリシアの顔が歪む。

「奴は、女は男より優秀で上に立たなければならないと言い出したんだ。今まで虐げられた分の報いを受けさせると。その思想に皆も賛同して、だから私は……」

 その後は予想ができた。
 アリシアはクランを抜け、今はソロで迷宮探索をしている。

「でも、なんでそれがさっきのと関係があるんですか?」
「あっ、……いやぁ、何と言うか。な。忘れてくれ! さっきの話含めて全て!」
「えっと、流石に無理が……」
「わ・す・れ・て・く・れ!」
「あ、はい……」

 アリシアは、バンとテーブルを叩き、前のめりでテーブル越しのルーンを詰め寄る。
 ルーンは語気の強いアリシアを目の当たりにして、頷くことしかできなかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...