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第二話 目覚め−2

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 頭部を失い動かなくなったスケルトン装備を外す。
 革製の鎧は痛み劣化が進んでいた。
 けれど、麻の服だけの状態よりかは幾分かマシだと身につける。

「少し、大きい?」

 丁度いい大きだと思っていた鎧だが、身につけてみると一サイズ大きく感じた。
 それだけでは無い。
 倒したスケルトンも、洞窟の天井も心なしか大きく感じていた。
 最初から感じていた違和感だ。

「体が小さくなっている」

 知らない場所や暗がりで確信を持てなかったが、今回ので確信が持てた。
 体が縮んでいる。
 これも大魔法の影響なのか。
 それとも他の理由があるのか。
 魔法の中には魔力だけではなく、何かしらの代償が伴うことがある。
 例えば”神槍”は大量の魔力と体を破壊するという代償がある。
 そんな魔法を二発も打てば確実に死んでいるはずなんだが、二発目の代償が違った形で現れたのかも知れない。

「考えても仕方ない。それよりも、ここにスケルトンがいるなんてな」

 スケルトン、それも人型が存在するということは、人が出入りしていたということだ。
 それに戦士のスケルトンということは、この洞窟に何かいるという証拠でもある。
 軽装なのは部隊の中でも中衛だったためか、それとも大した魔物ではないからなのか。

「まさか、な」

 ある可能性が浮かび上がる。
 だが、それはあり得ないと振り払った。
 それよりもスケルトンが身につけていた装備を確認していく。
 革の防具一式に、簡素な剣、ナイフ。
 ポーチにはカビの生えた食料や薬品などが入っていた。

「中身は全部ダメそうだな……。ん?」

 奥に入っていた物を取り出す。
 出てきたのはペンダントだ。
 彫刻は一切無く、金属製の板に紐を括っただけのペンダント。

「何か役に立つかも知れないし、一応持っておくか。他に入れるものもないし」

 カビた食品や薬品はその場に置いていき、ポーチにペンダントを戻して、腰に巻く。
 武器は剣を置いていく。
 代わりにナイフをすぐ取り出せるようにベルトに挿した。
 出番があるとは思えないが、魔力が尽きた時に素手よりかは武器があった方が何倍もいい。
 そして、スケルトンの残骸から暫く進んだ頃。

「カビているとは言え、食べ物を見てしまったら腹が減るな……」

 捨ててきた食べ物を思い出していた。決して見た目は美味しそうな物でもない、けれども食べ物だと認識してしまったからか腹が鳴ってしまった。
 魔法の研究に没頭していて三日三晩飲まず食わずを繰り返していた経験や、冒険の中でも食糧に困った経験があるため空腹には慣れているが、持ってくるべきだったかと一瞬後悔をする。
 だが同時に痛んだ物を食べて腹を下した記憶が蘇り、自分の行動は正解だったと再認識した。 
 とは言え、体を動かして、魔法も使っているとなると体力の消耗も激しい。この洞窟を出るまでに食事や休息を挟まないといけないのは間違い無い。
 もっとも食糧も、安全な休息場も確保できていない現状は叶うことのないことだが。

 ”空間把握”を使い周囲を確認して、小休憩を挟む。
 運良くかスケルトン以来、魔物に出会うことは無かった。
 そして幸いにも一本道を歩くことだけでよかった。入り組んだ道をなら確実に道に迷っていただろう。
 その時は”空間把握”を最大限に飛ばすだけだが、やはり魔力の残量は多いに越したことはない。
 内にある魔力を感じる。まだ余力はあり、寝覚めの頃よりも魔力の通りが柔軟になっている気がした。

「魔力の循環、魔力操作の感は掴めてきたし、魔力量は少なくなってるけど絶望するほどじゃなかったな」

 勇者たちと冒険していた時に比べれば、その半分にも満たない。
 それでも一般的の魔法使いの魔力量よりかは多いだろう。
 ルーンを賢者たらしめていたのは、膨大な魔法の知識と巧みな魔力操作、そして圧倒的な魔力量にある。スペックの殆どが、魔法使いの最高峰と呼ばれるほどに恵まれていた。
 そんな彼からしてみれば、現状は不便に感じることが多々あるが、それでもこの場所から脱出することは可能だと判断した。

「ここは……」

 また暫く歩き続けると、さっきまでのゴツゴツとした無骨な岩肌の空間とは様変わりし、石レンガに整えられ、片方の壁には水色に発光した灯火が一定間隔に設置されていた。

「魔灯?」

 魔力を原動力に光る、丸い球体上のランプの魔道具。基本的に高価な魔道具の中では、比較的普及していて、大型都市では街灯としても用いられていた。
 魔力で稼動するということは、この魔灯はどこからか魔力を供給していることになる。魔道具の多くは魔結晶を用いられている。
 魔結晶、魔石を材料に生成される物質。
 魔石とは、魔物から採取出来る心臓部分で魔力が内包されいる。だが、それをそのまま使うことはできない。
 魔石の大きさや魔力量は魔物の種族や個体で変わってくる。それでは使い勝手が悪い。
 そのため魔石を溶かし、一定の魔力量を持った一定の大きさの魔石を再度作り出す。
 こうして出来た物を魔結晶と呼んでいた。
 鋳造した魔石なだけだが、原材料である魔石と区別をつけるために名付けられた名だ。

「にしても、洞窟に魔灯ってどんだけ財力があるんだよ。それともこの洞窟は、それほどの価値があるってことなのか?」

 魔結晶を鋳造するためには大量の魔石が必要になる。魔物を討伐するは、ただ動物を狩るのとは訳が違う。凶暴化した動物を、さらにもう一二段階凶暴にしたくらいの存在が魔物の脅威だ。
 中には知恵を持ったり、火や雷を吐き出すモノもいる。
 生半可な戦士では簡単に死んでしまう。
 基本的に住民に被害が出なければ魔物を狩ろうなんて考えない。
 魔道具が高価なのは、高度な技術というのもあるが、魔石の収穫量が少ないことが多いにあった。
 そんな魔道具を一定間隔に設置しているということは、魔石を大量に仕入れるほどの財力が存在するか、あるいは

「大量に魔物を狩れるような場所があるか、か。そんなこと出来るのは……」

 一度放棄した思考が巡る。
 信じられないが、その可能性が高まっているのを認めざる終えなかった。
 かつて勇者ハルトと話していた、魔力溜まりの解決策。異世界での話を元に生み出された、奇抜な計画。
 ダンジョン化計画。
 魔石の効率性や、長い迷路のような洞窟。
 だが、疑問が生じる。

「でも、ダンジョンを完成させるのには百年はくだらないはずだ」

 一つのダンジョンを生み出すのには、人手も技術も足りない。各国の同盟に援助を貰っても百年は掛かるとされていた。
 自分は百年も寝ていたということか。
 いや、だめだ死んでしまう。
 三日三晩の飲まず食わずは可能だが、いくらなんでも百年は無理だ。流石に死んでしまう。
 と、アホな思考が繰り広げる。


「魔物との遭遇も少ないし、やっぱり違うのか?」

 魔物はスケルトンとしか出逢えていない。
 魔物の発生数とかはまだ検証すらできていないかったから、もしかすればこんなものなのかも知れない。

「やっぱり、外に出ないとな」

 真相を確かめるためにも、出口にたどり着く決意を強くした。
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