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閑話

その5 いつか

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 俺は商人ギルドの見習いをしている。

 元々オヤジの弟が王都の下町で商売をしているからと婚約者になったノアと一緒に王都に来た。おじさんの店はそんなに繁盛しているわけではなく俺は下働きの下働きで給金もなかった。
 しばらくは我慢していたが、おじさんと喧嘩になり飛び出した。しばらくはノアのおばさんの仕立て屋さんに置いてもらっていた。そこで下働きをした給金も少し貰えるようになって嬉しかった。

 ノアはかわいい女の子で将来は自分もドレスが縫えるようになるって頑張っていた。同じ風の精霊と契約していて布を風に運ばせていたり上手く使いこなしていた。1年ほどノアのおばさんの仕立て屋で働いていたら、よく商人ギルドにお使いを頼まれていた関係でギルド職員の目に留まり、ギルドに来ないかと誘ってくれた。
 俺は、ギルド職員の見習いにしてもらえた。地域学校しか卒業していないのに大抜擢である。「ルーイは真面目で働き者だからな。いい職員になるよ」と言って貰えた。
 ノアとはその時に婚約を解消した。ノアやおばさんと話合いまだ成人前だし大人になってお互いに好きならまた婚約すればいいだろうと話になった。婚約は口約束だったので話し合いでだけで済んだ。

 ノアには好きな人がいたようだ。仕立て屋によく来る商人の息子のようだ。見染められたのかもしれない。少しの退職金を貰い、ギルドのアパートに入居をした。両親には手紙を書いた。おじさんの所を出てノアとも婚約解消したと、現状を伝えた。オヤジには叱られるかとも思ったが、自分で責任を取れる男になればそれでいいと返事が来た。
 その時にミルがユロランから姿を消したと書いてあった。もしかしたら王都に行ったのかもしれないから、会う事があれば助けてやってくれと。
 ユロランから王都に?まずムリだろう。イージュレンまでならなんとか行けるが王都は駅馬車でも2ヶ月はかかる。ミルか…懐かしいな。元気でいればいいが…

 銀髪で紫の瞳、いつも近くで見ていたからそんなに珍しいとは思わなかったが、王都に来て貴族の一行をちらりと見たら、銀髪の人がいた。ギルドの先輩からは「銀髪と紫の瞳は大貴族だから絶対に逆らうなよ。俺たちの事なんてなんとも思わないし逆らうと不敬罪とかにもなるからな。黙って頭下げとけよ」
 そう言われた。銀髪と紫の瞳は大貴族…

 そんな時、ギルドのアパートに小柄だが銀髪の紫の瞳の男性が訪ねてきた。大貴族が俺の家になんのようだ。人を捜していると言う。ミルと少女を知っているかと言われた。

「知ってはいるが、ユロランで見たのが最後だから今はどうしているかは知らない」と正直に話をした。「ありがとう」と言われ「お礼だ」と10銀貨1枚貰った。
「待て、ミルを捜しているのか?」
「そうだ」
「な、なぜだ?」
「あの子はお偉い貴族のご息女だと判明した。貴重な紫の血だ」
 そう言うと男は消えた。

 やはり、貴族の血が入っていたのか…

 助けてやりたいが、今どこにいるかも分からない。今は自分の生活で精いっぱいだ。あのオヤジさんの所から逃げ出したのか。ミルは少し怖がってたな。でもうちのオヤジも厳格なオヤジだ。下町のオヤジなんてみんなそんなものだと思っていた。いつかミルと結婚して花屋をやるのかなぁと思っていた。だけど急にオヤジから王都に行けと言われて心が弾んだ。そんな都会に行けるのかと、でも現実は厳しかった。王都に浮かれてその時のミルの顔も覚えていない。王都に行くと言った時、ミルはどんな顔をしていたのかな。


 あと数ヶ月で成人するという時、面白おかしくゴシップ記事が騒いだ。ギルドの下働きとして走り回っていた俺はそんなゴシップ記事どうでもよかった。

 しかし、王都のカフェ「リリス」の娘という事で知らないわけには行かなかった。「リリス」の女主人はずっと娘を捜していたのだ。それは商人ギルドでも有名な話で銀髪で紫の瞳の女の子が商人ギルドに登録されれば知らせてほしいと話を通していた。

 その子が見つかったとギルドでも大騒ぎでお祝いムードだった。

 ミルではないかと思った。でも下っ端の自分が幼馴染だと言う勇気はなかった。

「みなさん、今までありがとうございました。無事娘は見つかりました。本当にありがとうございました。これからは娘と静かに過ごします」
 とキレイな女主人は職員全員分の菓子を用意し振舞った。

 こんな下っ端の自分に対しても「どうぞ」と笑顔でお菓子を手渡してくれた。
「ミルと言う子ではないですか」と出かかった。でも言えなかった。きっとミルに違いない。女主人とよく似ている。大人になったミルはきっとこんな感じの美人になるだろう。

 これから両親の元で幸せになる、俺は必要ない。これから立派な職員になってそれからミルと再会をしよう。
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