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閑話

その3 男性不信

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 急に教会から呼び出された。ジョセフが捕まったのだろうか?お金は戻ってくるのだろうか?でもそんな事より彼が戻ってくれる方が嬉しい。まだ、好きなのだ。裏切られても。

 アミは教会に急いだ。

 教会からの報告は以外なものだった。なんとも大金が舞い込んだのだ。離縁金どころの話ではない。壮絶なお金だ。これだけあれば、もう働かなくてもいい。教会からの説明は、ジョセフが以前になにかの被害者になって、その賠償金なのだとか。でもジョセフは今、行方不明で指名手配中だからその被害者であるあなたにこの賠償金の権利が移りました。よかったですね。と、言われた。

「こ、こんなに…?」
「そう、ちょっと多いからびっくりしますよね。でもあなたはツいている。大きな心の傷を2度も負いましたが、その見返りとしてお金が手に入りました。でも気を付けてください。お金があると分かったらまた変な人が近づいてくるかもしれません。このことは誰にも言わないように」
「わ、わかりました」
「お金はスズカに入れますので、好きな時に引き出せますし、そのまま取引が出来ますよ」
「はい…」
「なにか困ったらいつでも相談に来ていただいていいですよ。お布施を忘れずに」
「え?は、はい」
 アミはアパートに戻った。ドキドキするほどのお金。

「ど、どうしたらいいの。こんなの貰っていいの?」
 母もいない。相談できる人もいない。
「どうしたらいいんだろう」
 大金を貰ってもアミはどうする事も出来なかった。
「そういえば、以前住んでいたロゼはギルド長になにかとお世話になったと言ってたな。なにかあったらギルド長に相談するといいと言われたわ」

 でも、私のような小娘が相談なんてしていいのかしら。でもジョセフの事では力になって貰った。借りたお金も返せるし、ギルド長に面会させてもらおう。お礼も兼ねて。不自然ではないはずだ。

 次の日、アミは冒険者ギルドに向かい、受付にいた馴染みのムカイに話掛けた。
「ムカイ、おはよう。あの…ギ、ギルド長と面会出来るかしら…」
「おはよう、アミ。ギルド長かい?今は朝の会議中だからちょっと待ってくれる?なにか相談事かい?先に聞こうか?」
「ありがとう。でもギルド長に先に話たいの」
「そう…わかった。少し待っていてくれ。会議が終わったら知らせるよ」
「お願い」

「ムカイ、なにか合ったのか?」
「レオン、アミが話があるそうだよ。時間あるかい?」

「ああ、アミ?あれか?ジョセフはまだ…」
「どうも、違うらしいよ」

 2人はアミを待たせているギルド長室に向かう。
「アミ、待たせたね」
「なにか相談事があるらしいね、どうした?」
「え、えっと、」
 モジモジとしているアミ
「ムカイ、お前退室していろ」
「いえ!ムカイも居て貰っていいんです。ただ…」


「え?そんな大金を?」
「それはすごいじゃねえか、よかったな。アミ」
「そうなんですが…こんな大金貰っていいのか…」
「アミ、貰っていいに決まっている。辛い事がいっぱい合ったんだ。それはそれに耐えたおまえさんに神様からのプレゼントだろう。大事に使えよ」
「はい!」
 アミは毎月少しずつ返していたギルドのお金を一括で返そうとした

「いや、それはそのままでもいいんじゃないか?無期限だし。一括で払ったらどこからか変な奴らが嗅ぎ付けるかもわからん。な、ムカイ!」
 レオンはムカイの背中を思いっ切り叩いた。

 アミは毎月10ベニーでも20ベニーでもギルドに顔出しお金を返していた。ギルドでは女性も多くなったとはいえ、まだまだ屈強な男性が出入りしている場所であった為、受付は馴染みのムカイにお願いをしていた。
「アミ、よかったな。でも気を付けろよ」
「ありがとう」

 アミはしばらく仕事は休まず、また少しずつギルドにお金を返していた。それから半年ほど過ぎた秋。いつものようにギルドに返金しにくると、ムカイから話があると言われた。
 ドキリとする。
「ジョセフが捕まったそうだ。王都に向う途中の集落にいたんだそうだ。でももうアミにお金も戻っている事から今は生まれた街のユロランに戻されているよ」
「そう…私の事はなにか言ってなかったのかしら?」
「さぁわからない」
「そうよね、…お金は戻さなくてもいいのよね?」
「あのお金はアミの物だよ」
 小声になるムカイ
「そう…よね」
 顔を上げムカイに笑い掛ける。
「ありがとう、教えてくれて。また来月」
「ああ、また」
 アミはなにかを期待した。

 なにを期待したのかしら?

 そして返って来た言葉にがっかりした。アミは消極的な女の子ではない。いいと思えば積極的にアピールするタイプだ。しかし、離婚されお金をだまし取られ男性不信になっている。大金も手に入れ生活面ではもう困らない。宿の仕事はいやではないが、独身でいると変な客に絡まれたりもするし、男に騙されたという噂は消えない。来年の春になったら王都にでも行こうか、そうすればあの件を知る者はいない。でも寂しさも残る。なにが寂しいのだろう。

「おい、ムカイ。いいのか?」
「なにがだ?」
「アミだよ。大金を手に入れたらまた変な輩が出て来るんじゃないか?」
「声を落とせよ、サム。誰かが聞いていたらどうする!」
「おまえが守ってやればいいだろう」
「…今更…大金を手にした女性を口説くなんてどう見ても金目当てだろう」
「だから早く誘えと言ったんだ…」
「でも、失恋したてで誘うのは…」
「そんな時が一番落ちやすいんだぞ」
「そんなの卑怯だろ」
「なにがだ、恋は早い者勝ちだぞぉ」

 ムカイは人当たりもいいし、女性からモテない事はない。しかし、変に色気がある人や媚びて来る女性は苦手だった。しかし、アミの事は気になった。一生懸命過ぎて傷ついている。一緒にいて支えて上げられたらと思っていた。しかし、ムカイも30歳で恋愛からもうずっと離れている。どうやって誘えば分からなくなっていた。そして今に至る。

「ムカイ、ちょっといいかしら?」
「アミ、今日は?支払いには早くないかい?」
「支払いじゃないの、ちょっと相談…」
「わかった。お昼…一緒にどうだい。丁度いまから昼休憩なんだ」
「ええ、私もまだなの」


「相談と言うのは?」
 昼のピークは過ぎており、お店もゆっくりしている。
「ええ、…宿の、私が働いている宿の料理人のカクって知ってる?」
「ああ、あの大柄な…去年奥さんが亡くなって」
「ええ、そのカクから後妻にならないかって…」
「え?」
「店を出したいんだけど、自分と一緒になって店を手伝ってくれって…」
「カクはいい人だけど40歳前じゃなかったかな?そんな年齢の後妻…」
「私に縁談なんてもうないと思ってるから宿の女将さんもいい話じゃないかって…でも」

「…アミは自由だよ。アミの好きな事をしたらいいよ」
「そう…よね。ムカイ、私の事どう思う…?」
「っえ?」
「あっそうじゃなくて、その…女としてまだ、大丈夫かなって」
「あ、ああ、もちろん。大丈夫だよ。まだ20歳じゃないか。これからだよ」
「ありがとう、やっぱり断ろう。私、来年春になったら王都に行こうかと思って…ここに残っても噂は消えないし…」
「そうか…寂しくなるな」

 来年王都に行くと言う。当たって砕けろって事ではないか…
「じゃあ、そろそ…」
「アミ、その…お、俺も王都に行こうかな」
「え?」
「あ、いや、えっとぉ…」
「一緒に行ってくれるの?私と?」
「一緒に行くよ。王都のギルドに転勤届を出すよ」
 ムカイは顔が真っ赤になっている。
「嬉しい、ムカイは私なんて相手にしないだろうって思ってたから」
「そんなこと…」
「ううん、ムカイってモテるのよ。宿のモモやルーシーも素敵だって言ってたし」
 ああ、あのやたらと露出している子たちね。苦手なタイプだ。
「俺はお金目当てじゃないからね」

「わかってるわ。気を付けろって言ってくれたじゃない」
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