上 下
91 / 110
第3章

好きな人と結婚をする

しおりを挟む
 年が明け、バルとリリスは正式に婚約をする事になった。教会で婚約の儀式を行うのだ。急いで国を出る必要が無くなり結婚してから旅に出ることにした。

 婚約の儀式は、本当はそんなに必要ではないのだが、バルは王族という事もあり教会に積極的にお布施をしなければならない立場という事で、儀式を行う事にしたのだ。
 儀式には両家の両親と顔を合わせ、教会で婚約として印を結ぶのである。解消したければまた教会に行かねばならない。なので婚約も貴族ぐらいしか最近は行わない。両家共々に印を結び婚約が成立する。

 貴族ともなると、相手側がお家取り潰しなどがないかぎりは、勝手に婚約解消や破棄など非人道的な事は出来ないように教会で印を結ぶ事になっている。儀式を行う際にお布施は絶対で安くもない。儀式の時に嫁ぐ側のお相手の方に結婚の支度金としていくらか渡す。  
 そしてそれはなんらかの理由もなしに解消または破棄した場合は、支度金は戻ってこない。そうすることで簡単に解消や破棄をさせないようにしている。

 そうならない為に、両家が納得をして教会に出向き印を結ぶのだ。バルは今回の婚約の儀は3回目だ。バルは2回も婚約・解消を繰り返している。お金もすいぶん掛かったことだろう。バルはこの2回の経験があるのでスムーズに進むがリリスは初めての事ばかりで目線があっちこっちと落ち着かない。教会でトイレを借りて迷子になっていたりする。


 バルはそんなリリスを見て、なんとも可愛らしいと思う。魔力は誰よりも豊富で腕力は男のそれ以上で勇ましく、堂々としている。自分の方こそ守られている感じではある。でもリリスは気にしない。弱い男がキライだとか背の低い男はカッコ悪いとか思っていない。自分を見てくれている。

 思えば、結婚というのを考えた事がなかった。親に決められ婚約をして婚姻を果たす。それが当たり前であった。初めて会った人と結婚するなど当たり前であったのだ。両親も祖父や兄もそうだった。父からも結婚してそれから恋愛が始まると言われていた。母もやさしい父を結婚して好きになったと言っていて幸せになっている。結婚はそういうものだと思っていた。
 しかし、父は癒の精霊付であった。「お前も癒があればいいのだが付かない場合は苦労するかもしれんな」と言われた事を思い出す。なんの事だが今まで分からなかったが、そういうことであった。しかし、母は幸せなのだ。幸せならばそれでいい。「好きな人と結婚をする」リリスからその言葉聞いてなにを言っているのか理解出来なかった。結婚してから好きになるのではないのか?平民と貴族の違いなのかとも思った。

 前の婚約者殿がディルイと仲良くなり婚約を解消した。ディルイの方がお似合いだと思ったのだ。仕方がないのだ自分が放っておいたから相手の婚約者殿が心変わりをしたのだ。自分が悪いと思いあっさりと解消した。今に思えば解消する理由を捜していたように思う。婚約者殿の意向など聞いたことがなかった。そして、名前も顔も朧気おぼろげであった。なんとも自分はひどい事をしたことだろうか…

 リリスからは婚約解消した俺の事をバカじゃないかと言っていたが、結婚はしたかったがそういう事じゃないとも思った。そういう事じゃないとはどういう事だと自分で疑問にも思っていた。

 しかし、好きな人と結婚をする。リリスと婚約の儀を行う際にその意味がやっと理解出来た。

 俺は好きな人と結婚をする。



          ▽


「え?婚約の儀?なにそれ?」
「バルのご両親と顔合わせをして教会で印を結ぶのよ」
「バルのご両親?うわっゴリゴリの貴族じゃない?えー緊張するなぁ」
「ゴリゴリ?」リリスはたまに変な言葉を使う。バルは意味を聞いてもよく分からない。
「大丈夫だよ。俺がこんな歳だ。早く誰でもいいから結婚しろと言わていた。リリスなら喜ばれるよ」
 キースはまだ下級貴族のままだ。バルも貴族を廃していない。婚約の儀を交わしバルのご両親を安心させ、その後に貴族を廃する予定なのだ。

 初めて会ったバルの両親は、「貴族である」という感じの貴族であった。しかし、ずいぶんと前に現役を退いてからは静かに暮らしていたようで話し方など穏やかであった。

「リリス殿、この度は不肖の息子ながら結婚を決めてくれてありがとう。何度も婚約を解消してもう結婚は出来ないのでないかと心配していたのです。本当によかった」
 バルの母はリリスの手を取り、バールをよろしくと何度も言った。
「バール、ようやくまた婚約を果たしたな。今度こそ結婚するのだぞ。リリス殿、よろしくお願いする」
 バルの両親はいい人だった。

「父上も昔は、兄上と感じが似ていたが田舎で静かに暮らすようになって穏やかな性格になったようだ」
 
 ふたりは婚約を交わし、あとは準備を整え結婚するだけとなった。



 精霊が戻ったリアンから手紙が届いていた。精霊を戻してくれた事のお礼とひどい事をして申し訳なかったと謝罪された。それとバルと今後何もしないと印を結んでいるので安心してほしいと、そしてまた精霊なしになるのが嫌なのでもうなにも仕掛けない事を約束してくれた。そして、国を出る事を考え直してほしいとも書いてあった。それはちょっと楽しみになって来ているので無理かもしれない。
しおりを挟む
感想 297

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。