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第3章

魅了の血筋

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「母は働きづめで死んでしまったよ」
 キースは笑顔だが泣いているように見えた。

「ジークも小柄だっただろう?同じ理由で逃げてきたようだよ。ジークの家は家族そろってアストロキングスを出たようだが、やはり夜逃げ同然で出てきたらしいよ」
 小柄だったかな…?

「あっあの男、ジョセフ。あの男もアストロキングスの男だよ。おそこの宿屋のオヤジと女将もだ。ジョセフには手を焼いたと言っていたよ」
 え?あのジョセフも?
「ジョセフはアストロキングスの男の血をより濃く受け継いだようで怒り方とかは自分の父親を見ているようだと言っていたな」
「おじいさんが花屋を開いたのじゃなかった?」
「だからそのおじいさんがアストロキングスの人さ。夫婦で流れてきてあのユロランで落ち着いたのだろ。ジョセフは3世だな」
 何という偶然…だからあんなに背が高く細マッチョだったのか
「あのリリスが泊まった宿屋の女将さんの両親もアストロキングス出身で逃げ出して宿屋を始めたのだとか。そこで宿の客として来ていたジョセフのおやじさんと知り合って結婚したんだとさ。同郷の話で盛り上がったのだと」

 リリスは、へえと思いつつ、ジュリエッタもリエもアストロキングスの男を好きになっている。双子だとやはり趣味が合うのだろうか…リリスはそっとリエを見ると目を反らされた。
「リリス、そのジークという男性?いい男ではなかったか?」
 バルが言いにくそうに言う。
「え?ん…そうね、イケメンだったわね」
「アストロキングスは巨人の国、または魅了の国としても有名なんだよ」
「魅了の国?」
「そう。なぜだが、アストロキングスの住民は他の国の人間を魅了する。だから…キース殿もジョセフもすごく女性にモテるだろう?」

 なるほど、そういえば、ジョセフはやたらとモテていたな…ん?私もかな?そんな血筋もあるのか…

「生まれつき魅了があるって事なのね?」
 リリスはキースを見るがなんとも思わない。優しそうなイケメンだと思うだけだ。
「リリス、親子関係では発動しないと思うよ」
 キースはリリスがなにを考えているか分かったようだ。

「そう、キースはすごくモテてた。私が一方的に好きになって我が儘を言って結婚したの。両親も巨人族の男なんて絶対にダメだって言われたわ」
「俺だって反対するよ」
 キースはやさしい眼差しでリエ見る。一般人の上、狂暴な巨人族の血、反対するには材料が揃い過ぎているが、キースには当てはまらない。

「だからリリスが誘拐されたときは離婚しようと思ったの。キースならいくらでもお相手がいるし、そのお相手なら子供も授かるだろうって思って」
「…俺は母から命がけで助けてもらった。だから俺も命をかけて自分の子を守ると決めたんだ」
 父と母は今もなお、愛し合ている。キースとリエの強い絆にリリスは羨ましく思う。

 巨人族には、ちょっと興味あるけどこわそうだ。

「だから私もそんなに鍛えなくても力が強いのね」
「気もな」
「は?」
「いや、なんでもない」
 気が強いのは前世からよ!

 キースもてっきりニールヴァンス王国出身かと思ってなにも聞かなかった。祖父と祖母も亡くなっていると言っていたのでそれ以上は聞かなかった。
 身体が大きいからムリをすると心臓に負担が掛かるのだろうか?キースのお母さんは胸に手を当てて倒れたという。なんとなくキースにハグをする。もう知らない男の人ではない。彼は私のお父さんだ。ハグをキースは快く受け入れてくれた。

 その時こっそりとキースの身体の様子を魔力を込めて見る。明らかに心臓が弱っていた。毎日レイジュの泉に行って水を飲んだりしているが、レイジュの泉の水は万能薬ではない。正常に戻すだけで弱っているものはそのまま弱いままだ。もしかしたらレイジュの水を飲んでいなかったら…ちょっと怖い事を考える。

 大きな体に普通の人の大きさの心臓だ。心臓は巨人族だからと大きくはないようだ。大きな身体の全身に血を送り込むのだ。人より力尽きるのが早いのだろう。彼は私の身内だ。身内の特権で私の力をフルパワー使う。白ちゃんに力を借りキースの心臓を癒す、リリスの魔力の半分持っていかれた。こんなにも弱っていた。

「ちょっと長いのではない?」
 リエが呆れている。
 キースの胸から顔を上げたリリスは目に涙を浮かばせていた。
「リリス…」
「守ってくれてありがとう」
 リリスは改めて両親に感謝をする。


 別名、巨人の国とは言うものの少し大きいくらいだ。1.5倍といった所だろう。所謂平均より大きいという程度だ。遺伝子的に腕力が発達していて、少し動くだけで筋肉量が増すのだ。ただ大きな国ではないものの、いにしえより続く弱い者に対する命の軽さに嫌悪感を抱く国も多く、貿易を持ち掛ける国はなく、孤立していた。
 そして、またその仕打ちに嫌気が差し逃げ出す住民が毎年あとを絶たない。それをニールヴァンス王国が受け入れている。魔力も有りアストロキングスでは弱い力も、ニールヴァンス王国では即戦力だ。目立って受け入れをすると攻め込まれ争いになる為、逃げ出したもののみ助けている現状ではある。そして、騎士として訓練をさせた後、他の国に行きたい者は積極的に金銭で取引をしている。ジークもルクセルボルン王国に騎士として買われている。もちろん奴隷ではない。きちんと給金は出るし、婚姻も出来る。

 第5部隊にはアストロキングス王国の出身のものも多く、2・3世も少ないくない。


「リリス、ちょっといいかい?」
「ん、なに?お父さん」
「なにか、したのかい?」
「誰に何を?」ちょっと目を反らすリリス
「俺に…」
「体の調子はどう?」
「…すこぶるいいよ。最近歳なのか少し、胸に違和感があったからな…リエには内緒だよ」
「私、お父さんに謝らないといけないの」
「え?ど、どういうことだい?」
「お父さんはたぶん、80歳くらいまで生きるかもしれない…」
「…」

 心臓を生まれたてぐらいまで癒してしまった。しかも、本人の承諾もなく、それはいい事かもしれないが、死ぬことより残されることの辛さを知っているリリスにはどちらがいいのかわからない。リエより、リリスより長生きしてしまうかもしれない。
 キースはリリスを優しく抱きしめる。

「リリスが何かしたのかはなんとなくわかったけど、ムリをしないでくれよ?俺はリエとリリスが幸せならそれでいいんだ」
「私は、お父さんとお母さんと一緒にいることがなによりも幸せなの。だからそうしたの。ごめんなさい。勝手にしてしまった」
「俺もだよ?ありがとう、リリス。これでリリスの孫の代まで見届けられるかな?」
 笑顔でリリスを受け入れるキース
「結婚もしてないし、相手もいないし、孫なんて早くない?」
 少し目を潤んでいたリリスはキースの話が飛んでいることに笑ってしまう。
「そうかな?案外近くにいると思うけど…」
「え?」

 誰の事を言っているのだろうか…
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