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第3章

警戒

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「今日は早かったな」
「そうね。…あのさ、王様からリアンと呼んでほしいと言われたんだけど、これって普通?」
 バルと久しぶりの会話がこんなものになるとは
「え?…」
 バルがなぜが固まる。それから送り届けた後、一言も話をせずに帰ってしまった。

 なんで夕食に来ないのかと聞きたかったのに、どうしたんだろう?

「あら、リリスおかえり。バル様はもう帰られたの?久しぶりにご夕食をご一緒かと思っていたのに」
「私も思ってた。ねぇお母さん、王様が自分のことリアンと呼べと言われたんだけど…」
「え?王様から直々に?」
「そう」
 リエもそのまま黙ってしまった。

 週末だったため、キキも含め夕食をとった。リエもキースも元気がない。
「リエもキースもどうしたの?なんだか元気がないわね。今日はバル様もいらっしゃるかと思っていたのに、リリスなにかあったの?今日は王様とお茶会だったんでしょ?」
「わからない。王様からリアンと名前で呼んでと言われたとみんなに言ったらこうなった」
「え?」キキも固まる。
 みんななんなのだ?
「なによ?どうしたの?」
「王様がリアンと呼べと言ったの?」
「そうよ」
「リリス…それって」
「だから、なに?」
「プロポーズだと思うわよ」
「は?」
「いえ、そこまでではないかな…でも親しくなりたいというお考えなんだけど」
「へぇ」
「へぇっていいの?王様と結婚よ」
「するわけないでしょ!なにいってんの?」
「でも…」
「私17歳よ!40のおっさんと結婚するの?いやよ。お断り!」
 中身がおばさんだとしても、あの人はちょっとやだ。

「そうよ!リリスは渡さないわ!いつかこんな日が来ると思っていたのよ…リリスは若いのになんか色気があるし大人びているし、かといってなんかかわいいし…だから王様に会わせるのは不安だったのよ…リリスは世界を救った救世主なのに誘拐の件では助けてもくれなかったし、あんなへなちょこ王に渡すなんて冗談じゃないわ!」
 リエは立ち上がり、思考停止から復活したがずいぶんと、ひっちゃかめっちゃかなことを言っている。

「リ、リエ落ち着いて、でも王様よ…」キキはあわてる。
「えっと、じゃあリアンと呼ぶのはやめとくわ。ならいいでしょ。バルと同じように陛下って呼ぶわ」
「そうね、それで様子を見ましょう」キキがリエを抑えるような姿勢で賛同する。

「でもこの国を出る準備をしておいた方がいいかもしれないな。陛下の周りがほっとかないかもしれない」
 キースがフォークとナイフをぐにゃりとする。
「そうね。無理やり婚姻されるかもしれない。王族なんて信用できない」
 あなたは元王族では…?
「ちょっちょっと2人とも…」
 リリスとキキは、2人を落ち着かせようとした。

「リリスは能力の高い子よ!王家がほっとくわけがないわ!絶対に取り込もうとするに決まっている!王宮に入ってしまったらもう会えなくなる…やっと私たちのもとに戻ってくれたのに…」
 そして、リエはとうとう泣き出してしまった。

「お母さん落ち着いて、泉の件が終わったらもう関係ないわ。安心して、まだお嫁にもどこにも行かないから、ね」
 リリスはリエを抱きしめる。震えている。いつものようなウソ泣きではなさそうだ。リリスの上からキースが抱きしめてくれる。

 リエはずっと我慢していたのだ。いつ何時でも母の自分が取り乱してはいけないと、常に冷静に対応しなければならないと…。いつでも明るく支えてくれていた。そしていつも自由気ままにさせてくれていた。


 陛下からバルを通じて泉に行く日程の連絡が届く。陛下の休日に合わせて日程を調整させたようのだが、王が王都の外に出るからには各貴族の承認がいる。一国の王は、自由気ままに外出など出来ない。ぶらりと街には訪れるが…
 これにはバルにも止められない。それにいずれ泉の管理をするとなると他の貴族に黙っているわけにはいかない。危険があるかもと何人もの家臣が我も連れて行けとなったのだ。

 連れて行けと命令されてもリリスが連れて行くわけない。結局は2人で落ち着いた。そして当日、キースとリエと共に城に向かう。貴族を締め出し、3人は王様のプライベートルームに通される。

「よく来たね。リリス嬢、それに騎士団第5部隊キース隊長、リエ殿」
 王様に笑顔で迎えられるも、キースとリエは警戒心丸出しだ。

「陛下、わたくしをお供に加えて頂くことを承諾して頂きありがとうございます」
 キースが前に出て感謝を述べる、リエがカテーシーをする。その後ろでリリスもリエのマネをする。
「堅苦しいことは抜きししてもらえるかな。気軽にリアンと君たちには言ってもらいたい」
 バルを含め、4人が「え?」という顔をする。
「陛下それはどういう…」
「あなた方は世界樹を伐って若返らせた英雄の親御様だ。友好な関係をこれからも築きたいと思っている」
 警戒MAXで訪れたが、陛下にそう言われていやな者はいないだろう。警戒が薄らぐ。
「さあ、行こう。連れて行ってもらえるかな?」
「リエ殿、リリス頼む」バルがお願いをする。

 瞬時に転移をして、泉に到着する。陛下の住まいの一室に転移用の部屋がある。そこから転移をする。今は冬の初期、もう周りの木々は葉を散らし冷たい風が舞い肌寒い。そして、初めて見るその光景に陛下は絶句する。

「こ、こんな…場所が…」
 キースやリエ、バルなどはその気持ちがわかるので陛下の気持ちが落ち着くまでまっているが、割とせっかちなリリスはいちいち待たない。テキパキと説明していく。

「真ん中の板は格好悪いですが父が立てました。みんなで温泉に入ったりするので。で、あそこが男女別の脱衣所です。私が作りました。あそこでご自分で着替えてくださいね。はい、これは陛下の白いブラウスです。サイズ合っていますかね?この先に昔使っていた建物がありますよ。それを再利用されては?今確認します?聞こえてます?」

 陛下は置き去りである。
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