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第2章

「救世主」

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「陛下、世界樹の伐採が終了し、新たな種を植え終わりました」

「そうか!そうであろうな!すごい光が放ったと思ったらものすごい突風と嵐が巻き起こったぞ。バルもご苦労であったな。バルが仕切らねばどんな被害が出たかわからなかったぞ。しかし、すごかったな。見たか?すごい竜巻がグルグルと…」
 陛下は子供のように興奮しながら世界的な出来事を楽しそうに語っている。

「陛下、まだひと仕事残っております」
 バルは興奮している王様の話を遮った。普段のバルならば陛下のお言葉を遮るなど不敬である行為は絶対にやらない。
 しかし、バルは楽しそうに話をする王様に対して多少イラついていた。
「ああ、そうか…説明してくれ」
 バルは状況や世界樹のお焚火の話を進める。

「バル、世界樹を伐った救世主殿とはいつ会える?」
 陛下はにこにこと当然会えるであろうなという面持ちで話し掛ける。
 
「陛下、その者は世界樹の伐採を終え、死に人のように眠っております。いつ目覚めるかも不明です。その件は追ってご報告いたします」

「なに…!」
 バルは足早にその場を去った。

「そうであったか…」



 そして、やっとリリスの体調が戻り動けるようになると、バルは剣を取って来るようにと催促をした。レイジュ様を伐ってまだ心労も体調も不安定な時期ではあったが、バルはこの件を早く片付けたかった。それはリリスの為でもある。剣が返納されないとこの話が終わらない。「救世主」が誰なのかと、蒸し返されるのだ。


 バルは陛下に最後の報告をする。剣が返納されたことと、「救世主」は謁見に応じないこと、援助金は教会の施設に寄付すること、メール便のさらなる開発を望んでいること。

 何も知らない貴族たちは陛下の謁見を無視するなど不敬である、などと言い不敬罪を適用するようにと陛下に打診をした。陛下も一目でもその「救世主」に会いたいとバルに願い入れていた。しかし、バルは引かなかった。

「各国の重鎮たちに世界樹の「救世主」に対して望まぬことを強要するのかと、それは陛下のお言葉でしたが、それを陛下がなさるのですか?」

 リリスが命を懸けて世界樹を伐採した唯一の見届人。今でも真っ青になったリリスの顔を忘れない。ぐにゃりと倒れたあの感覚、なんの重みもない空の入れ物ようだった。両親の元に戻れて幸せそうにしていたのに世界の為に死にかけた。リエ殿も戻って来た可愛い娘をまた手放すところだったのだ。謁見をしないと言えばどんなことがあっても俺がさせない。
 あのバカ!簡単に「伐る」などと言うから簡単に出来るものだと思っていたら全魔力を使って伐るなど!聞いていない。そんな事聞いてなかったぞ!


「もう、よい。その者は世界樹の伐採という偉業を成し遂げたのだ。それは余が頼んだのではなく精霊王自らその者に頼んだのだ。我らと会う必要などない。バルよ、安心して安静にしてほしいとその者に伝えるがよい。他の国々からの援助金はその者の望み通りに使わせよう。バルよ、おまえが管理してくれ」

「かしこまいりました」

「しかし、よその国が援助金を出しているのに自分の国からはなにもないのは少々恥ずかしい事ではないか?この国の住民の為、世界の為、命を懸けてくれたその者には褒賞金を与えようと思う。それと死ぬまで毎月必要な金額を支払うことにする。よいな。いらぬと言われても渡すのだぞ」
「かしこまいりました」
 
 貴族たちは、陛下の決定事項に謁見もせぬ者にと色々と言いたいようだったが、陛下のひと睨みでうるさい貴族たちはなにやらトロンとして黙ってしまった。バルは不思議な光景だと思いつつ陛下の決定事項に従った。

 リリスには褒賞金として金貨5000枚と毎月金貨5枚支給されることになった。バルからはそれくらいは貰っとけと言われ、リリスは貰っておくことにした。変にごねるとまた面倒になると思ったからだ。褒賞金と支給金はバルの「スズカ」に入りそこからリリスの「スズカ」に支払われる形を取った。なるべくリリスの形跡を残したくないとバルが配慮してくれた。

「リリス、すべて報告も終わった。王族や貴族たちはリリスを追わないことも約束をして印を結んだ。だが、俺は聞いてない。あんな状態になるとは聞いてないぞ。自分が死ぬかもしれないと分かっていたのか?」
 バルはちょっとやつれている。色々と思う所がバルにもあるのだろう。

「バル、今から言う事を笑わないで聞いてね」
 リリスは今まで密かに思っていた事を話す。

「…私はもしかしたら世界樹を伐るために生まれてきたのではないだろうか、と思っているの。私は身体が支えられないほどの豊富な魔力を持っていた。母リエも豊富な魔力を持っているから遺伝なのかと思ってたけど、母は少女期の頃でも今とそんなに変わらず身体が支えられないほどの魔力ではなかったと言っていた。
 レイジュ様はいずれ安定するって言っていたけど、たぶんそれは生まれつきのちょっと高い魔力の人が成長をして安定すると言いたかったのだと思うけど、私の魔力はそんな感じじゃなかった。持たされてるって感じだったんだよね」
 「持たされている?」

「そう…魔力の少ない人は成長につれ魔力が増えるけど、生まれつき魔力が多い人は身体に合わせて安定をする。でもそれって成人までの話じゃないかな…
 私は1年前に成人してる。全然安定しなかった。その片鱗もなかったよ…でも伐採の後すぐに魔力が安定した。精霊と話が出来ることも私だけ。精霊と話が出来なければあのレイジュ様の泉まで行けなかった」
「は?精霊と…なんだって?」
 バルには精霊が見えることも話が出来ることも言ってなかった。

「バル、私は精霊の姿が見えるの。母も見える。でもそれは遺伝でしょうね。隣国の血筋みたい。でもその母も精霊と話は出来ない。でも私は精霊と話が出来るの」
「…そんなこと初めて聞いたぞ」
「ごめん。黙ってた。でも両親にしか今までも言ってないの」
「いや、いい。当然だ」

 運命は上手いこと回る。あの時レイジュ様を出会い頭に伐ってしまっていたら、バルと出会わなければ、両親と再会しなければ、私はあの泉でひとり朽ち果てていたのだ。運命とはこのことをいうのだろうと思う。

「今生きているのはバルのおかげ、バルが王様の許可を得てくれてあの剣を持ってきてくれたから私は生きている。本当にありがとう。感謝してる。でも本当はすごく怖かったの。誰かがやらないといけないと思っていても死ぬかもしれない事に震えていた。その一方で私がその為に生まれてきたのだったら、死ぬ事もないかもしれないとも思っていた」

 バルに知られたら止められていたと思う。そうなるとまた面倒だ。死ぬ事は嫌だけど目的の為に死ぬの事に悔いはない。それは私の人生が2度目だからなのか分からないが覚悟は決まっていた。でもそんな私を両親には申し訳ないが見届けてほしかった。子供の死を見届けるなんて両親にはもっとも残酷で辛い事だ。でもあなたたちの子供は立派に事をやり遂げたと思ってほしかった。


 バルはリリスに言いたい事がたくさんあった。

 なぜ相談してくれなかったかと、でも相談されてもリリスが苦しむだけだ。そして俺が苦しむのだ。だから俺には話をしなかったのだろう。レイジュ様は残酷な事をなさった。気軽に伐る話をして、気軽に伐ることを約束をさせた。精霊の神としては正解なのだが…
 リリスのみ苦痛を与えた自分が不甲斐ない。なにも知らなかった自分がバカみたいだ。でももちろん責められない。リリスはなにも知らずに行動してくれた自分に礼を言う。女性らしくふっくらとしていたリリスは以前のようにまた痩せている。もう十分厳しい環境で生きてきたのだ、リリスには幸せになってほしい。

 バルはリリスの手を取り思うのであった。
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