異世界転生したら、なんか詰んでた 精霊に愛されて幸せをつかみます!

もきち

文字の大きさ
上 下
46 / 110
第2章

残されたもの

しおりを挟む
 大きな神木は切り株が残り、泉は枯れ大きな穴があるだけとなっていた。

 神木はキレイに伐られている。よく見ると残った切り株には、ぽこっと何かが出ている。卵のようなキレイな透明の魔石だ。

 レイジュ様の魔石

 生命力があふれている魔石。世界樹の種だ。

 リリスは、今は空になった魔石の剣で切り株を掘り起こし、その中央に種を植え、土を被せた。すると干上がったレイジュ様の泉からまた温かい水が湧き出てきた。リリスは慌てて移動し、湧き出た水はあっという間にいっぱいになった。レイジュ様の泉は神木が無くなって、湯気の出ている大きな泉になっていた。

 リリスはおもむろに持ってきていたキースの剣で倒れている白い幹の神木を薪の形に伐っていく。キースがそれに加わり一緒に伐ってくれた。

 そしてその1つをバルの目の前に差し出した。
「これを森で焚いてほしいそうだよ。これで消え去った魔獣の供養をしてほしいって」
「レイジュ様が…」
「そう、なんかそうした方がいいってさ」
 白い薪は数千とある。これを世界各国に配って森でお焚火をする。


 リリスは、ぐにゃりとバルの胸に倒れた。慌ててバルはリリスを抱きとめる。リリスの顔は死人のように真っ青になっていた。魔力を使い果たしたのだ。まだ安定していなかった樽10杯の魔力でも力尽きた。リエが駆けつけリリスを連れ転移をし邸に戻った。

 リエはその後、泉に戻りバルと手分けをして数千の世界樹の薪を収納し、2人を邸まで運んだ。そしてバルは陛下に報告に行くとして城に戻った。リエも薪を庭に大量に吐き出した後、大量の収納と移動で魔力を使い果たし倒れてしまった。リエは次の日に目覚めはしたものの魔力が完全に戻るのに2・3日掛った。

 リリスの状態はもっとひどく1週間眠り続けた。

 リリスが目覚め、体力が戻ったのはすでに新緑が芽吹く、もうすぐ16歳になる頃だった。

バルが報告に来た。
「すっかり元気になっているな。目覚めたばかりの頃はゲッソリとなって真っ青な顔をしていたが…」
 目覚めて1週間ほど経った頃、バルが様子を見に来た。目覚めてから毎日収納してたレイジュ様の泉の水を飲むも魔力の戻りは遅く身体が重くてしばらく動けなかった。バルはその日、様子を見てすぐに帰ったのだった。それからは、王様やバルから滋養のいい食べ物やお菓子、たくさんの花が届けられた。


 神木の薪はレイジュ様の遺言通り、すべての各森でお焚き火として焚き上げた。国宝にしようと言う国が出ないように印を結んだ。

 すべてが終わって、世界樹は守られた。

 森はというと、伐った当日は森全体に竜巻が起こり豪雨が1日中続いたのだという。街や農場は結界が張っているため、色々と散乱はしたようだが大きな被害はなかった。ケガ人も少数だったことがわかっている。 
 バルはリリスから連絡を貰ったあの日、陛下に連絡をした後、1日で各教会やギルドに連絡をして住民たちに一応なにがあるのかわからない為、1日家から出ないようにと通達させていた。それを各国にもすぐに通達できるように連絡網を作成し1回の呼びかけで回るようにこの1年で仕上げていたのだ。そんなことを知らないリリスは「じゃあ明日ね」と気軽に予定を早めてしまったのだ。
 
 嵐が去って数日ほど経った頃、近くの森の様子を確認すると魔素は薄まり、狂暴な魔獣は見かけなかったとのこと。様子を見に行った冒険者たちは明らかに魔素が濃い森だった頃と、今の森の状態は違うと言う。数週間後には森の奥地にも冒険者での探検隊を送り込み魔素が薄まり狂暴な魔獣がいなくなっていることが報告された。それは世界各地でも同じだった。

 森に濃い魔素がなくなれば人は森に足を運ぶだろう。エトたちの薬草園もロゼの森の拠点もレイジュ様の泉もいずれ見つかってしまう。
 だが、それは仕方がない。誰のものでもないのだから。また1から歴史を作るしかないのだ。

 しかし、今の森の状態はここ数百年くらいのもので徐々にまた魔素は増えていくものらしい。世界樹があるから魔素が増えるのであれば世界樹をなくしてしまえば魔素は沈下するのではないかと、言う国もあったと聞くが世界樹が世界中の森の魔素を吸収して安定させているのだ。魔素が増えていくのは自然の摂理なのだ。そもそも世界樹がなくなれば精霊王も消える、という事は精霊も消えるのである。精霊が消えても魔法は使えないことはないが、力が弱まるだろう。

 街道の魔石はそのまま状態で保存することになる。また数百年かしたら魔素が増えて森が危険になる。そのまま引き継がねばならない。

 世界樹は2000年に1度、伐採する方針で各国の重鎮が集まる世界会議で決まった。

 ルクセルボルン王国のマクシミリアン王は、各国に今回5000年も放置していた為、もうあと数十年ほどで世界樹は枯れ、朽ち果てる寸前までいったのだ。世界樹だって人による管理が必要になる。世界樹は朽ちる前に人の手に寄って伐ってもらわねば枯れる。人もまた世界樹が無くなれば精霊王が消え、精霊も消え、そして魔法が弱まる。
 持ちつ持たれつの関係なのだ。伐採する方法はバルがきちんと記載している。

 今回はたまたま魔力が多い者がいた為、伐採できたがその者も伐った後に倒れたのだと説明した。その者は今では魔力が3分の1に減っていると説明をする。

 樽10杯が樽3杯になっただけだが…安定したともいう

 各国の重鎮たちが世界樹を救ってくれた者を知りたがった。ルクセルボルン王国のマクシミリアン王ですら会えていないと言っても信用してもらえずにいる。
 知っているのはバルだけだ。

 ルクセルボルン王国のマクシミリアン王は、世界の救世主に対して本人が望んでいないことを押し通すのは如何なものか、として各国の重鎮たちを黙らせた。
 しかしながら、魔力を3分の1に減らしてまで救ってくれたことに対して何かしたいと各国から申し出があり援助金が送られることになった。それは断れずに納得するしかなかった。

 余談ではあるが、各国にも精霊なしが数十年に数人ほど産まれていることがわかった。バルが各国に問い合わせて調べてもらったのだ。リリスの命で。

 ジョセフの魔石。精霊なしの魔力が封じられている魔石。透明な魔石。神木を伐った時の、あの剣と同じ物だ。ただの魔石の剣ではなく精霊なしの魔石だった。
 王妃のティアラ・ネックレス・イヤリングの3点の大きなダイヤモンドを「エリクサー」に付けると精霊なしの魔石に戻る。今回マクシミリアン国王が、王妃のダイヤを使いあの剣に魔力を移したのだ。

 今は紛れもない空の魔石の剣だが、精霊なしの魔力を剣に封じ、「エリクサー」に付ければダイヤモンドに変わる。で、また「エリクサー」に浸ければ透明の魔石の剣に戻るのだ。ダイヤモンドになったのは偶然だったようで、魔力が消滅しないようにするために開発されたのが「エリクサー」だったのだ。

 3000年も前になると記載方法があまりなく劣化し「エリクサー」が何のために作られていたのか分からなくなり、不老不死などの創作話が作られたようだ。

 歴代の国王には、口頭で受け継がれていた。
しおりを挟む
感想 298

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。