上 下
45 / 110
第2章

さようなら レイジュ様

しおりを挟む
「急に決めるな!」

 次の日、会った瞬間に怒られた。いつ伐りに行こうが私の勝手だ。もう報告はしているのだから。しかも、レイジュ様の望みはこの世界のためでもあるのだ。そもそも許しがなくても春になれば伐るつもりだった。
 知ってもらわないと次回もこんなことになるから許しを得たに過ぎない。レイジュ様もそれが分かっているから待ってくれていたのだ。ここまで待ってもらったのだから、あれこれ言われたくない。

「どうやって伐るつもりだ。魔法か剣か」
「両方だけど、剣かな。剣に魔力を込めて伐るの。お父さんの剣を借りたんだけど、いい剣らしいよ」
 ほらっと、キースのコレクションの中にある剣をバルに見せる。これでレイジュ様と何度も練習をした。伐るシミュレーションという奴だ。何度も剣に魔力を込めて練習をし、剣もたくさんダメにした。新しく剣を作ることにしようかと思っていたがレイジュ様がこれなら耐えうるだろうと決めた剣だった。

「これを」
バルからキャメル色の皮に包まれたつるぎを渡された。
「これは王家が代々秘密裏に守っていた剣なのだそうだ」
皮の鞘から剣を出すと、その剣は鋼ではなく石のようなものだった。
「これはなに?魔石?」

 魔石を剣のように削っているように見えた。魔石をどうにかくっつけているのだろう。いびつだ。透明の魔石。魔力が溜まっている魔石だ。
「この剣はこの国が統一する前から家宝として代々受け継ぎ、それを王家が守ってきた物らしい。なにかの役立つのではないかという事で、陛下から預かってきたのだ」

 要するに、使い方は知らないのね。なんか大きな砂糖飴みたい。


「じゃあ行こうか」
「ちょっと待て、これを」
 まだあんのか
「なにこれ?」
「ドレスだ」
「は?」

 バルは木箱から真っ白なシルクっぽいペラペラの布を取り出した。ドレスと言われてもどうやって着るのかもわからない。今日のリリスといえば、白のブラウスにキキに作り直してもらったガウチョパンツだ。

「とりあえず、行こう」
 リリスは少々呆れながらバルを連れて転移する。リエもキースを連れて転移する。

 4人はレイジュ様の泉と到着する。

 レイジュ様が待ち構えていた。

『ようやくか、長かったのぉ』

「おまたせ、レイジュ様」

 軽いな

相変わらず軽いノリのリリスにバルは呆れる。

 レイジュ様とは昨日の夜、菓子と酒をもってリエとキース、リリスの4人だけでお別れ会をした。レイジュ様がいるいつもと同じ日常がまた明日も明後日もあるかのような明るい宴であった。

「これ見て、なんに使うか分かる?」
 例の剣を見せる。

『これはいいのぉまだあったのか』
どうやら見たことがあるらしい。レイジュ様の目が見開く。

『リリスよ、これで伐るがよい』
「これで伐れるの?」
 リリスは例の剣を持ち、泉にざぶざぶと入った。
キースとリエが心配そうに見守る。

「着替えないのか…」
 バルだ。王様が用意した衣装だろう。今この場面で言うかね…
「着たことにしとけ」
 振り向きもせず、言い放つ。リリスは泉の膝まで来る所で止まる。
例の剣を両手で持ち構える。リリスなんとなくどうすればいいか分かっている。レイジュ様が教えてくれているのだ。


 せっかくキースの剣であんなに練習したのに意味がなかったな。レイジュ様もこの剣がないようだからと神木の伐り方を自身で伝授しなければならなかった。
 王よ、もっと早くこの剣の存在を知らせてくれよ。

 透明な魔石の剣

 すーっと剣から熱が籠る。
 ぱちぱちと剣になにかが引き込まれている。徐々に剣に重みが増して行く。神木を見ると少し光を帯びている。神木の魔力が透明な魔石の剣に吸い込まれているようだ。今までリリスが神木に移していた魔力が剣に吸い込まれている。

 自身の魔力を移したことで自分で自分を追い込んだかなと思う。すごい勢いで吸い込まれ、どんどん剣は重くなっていった。怪力の娘は怪力に育ったがそれでも重さが身に染みる。レイジュ様を見るとイケオジまで戻っていたが今では、初めて会った頃にようなしわしわの爺さんに戻っていた。剣に吸い込まれているスピードとしわしわの爺さんに戻るスピードが同じなのだろう。

 私はレイジュ様の魔力をこの剣で吸い上げている。

 それを実感する。

 だからレイジュ様は神木にリリスの魔力を移すのに躊躇していたのだ。

 リリスは以前、魔獣の空の魔石に自身の魔力を移そうとしたが魔力が強すぎて破裂していたのだ。レイジュ様の泉の底に宝石たちと一緒に沈んでいた高価で頑丈そうな空の魔石を収納の中から見つけ、なにげにジュリエッタの魔力を封じ込めた。そのことで、質のいい魔石になら強い魔力も移すことが出来るのだと知った。


 リリスは剣の重みとレイジュ様の姿に心が揺れる。伐らなければ世界樹は枯れる。だから伐る。でも、もうあのはちみつ色の瞳を見ることは出来ない。
 お別れだ。心を決める。

 魔力が詰まっている魔石の剣に、神木の魔力が混ざって行く。剣は緑に光ったり、赤に光ったりと7色の色が光る。そして真っ白な光が最後に大きく光る。

 神木は少し張りが戻っていたがまた白い幹に戻っていた。春先なので葉はつけていなかったが、なんとも美しい真っ白な古木になっていた。

 もう伐れる。
 リリスは剣を振りかぶる。


 さようなら レイジュ様


 魔石の剣からは、透明な魔力と混ざった神木の魔力によってダイヤモンドのように光輝いている。ずっしりと重いその剣を神木に切り込む。


 スパン

 軽い音がした。
 リリスは剣を振り終わっている。

 静まり無音になる。次の瞬間、ドオーンと神木から大きな音が鳴り、泉の水が竜巻のように舞い上がった。そして神木を包み込むとバキバキバキバキと、大きく太い白い幹が大きな音を立てて倒れて行く。舞い上がった泉の水は豪雨のように降り注ぎ強い風と共に神木の周りを舞っている。
 キースはバルが飛ばされないように抑えている。リリスとリエは豊富な魔力によって微動だにしない。


 しばらくすると、先ほどまでの大きなうねりは無くなり、静かになった。



 そしてもうどこにもレイジュ様の姿はない。
しおりを挟む
感想 297

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。