婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

第81話 ＊＊クラルテ＊エピソード4＊＊

　クラルテは積極的に脱出計画を加わった。
　 生贄になるのならばひとりで逃げればよいものをなぜまた戻って来たのだ。しかし生贄の事が事実ならはあの兄ならどこまでも追い続けるのだろう。ビアンカが戻ったら自分と結婚させようなどとなんと愚かな…また彼女の自由を奪う所であった。彼女のする事にすべて従う。そして晴れて自由になって結婚を申し込もう。

　その日からクラルテは自分に依存している貴族を味方につけ誘導した。もちろん金はあるだけ使った。そうしなければバカな貴族は動かない事をクラルテは知っている。ビアンカはこんなノータリンの貴族たちを助けたいのではない。この国に誰もいない状況を作りたいのだと推測した。

　ビアンカ、甘いぞ。そんな簡単に貴族が動く訳ないだろう…仕方がない。私が陰から支えよう。
「僕と一緒に新しい国を築いて、自分たちの好きなように国を動かしたくはないかい？」
「おお、そんな事が可能なのですか？」
　クラルテは貴族たちの前で演説を始めた。
「今は父や兄がこの国を動かしてはいるが、…ここだけの話、兄ユリトスは失敗してしまったのだよ」
「し、失敗…？」
「そう、ここの神獣様たちを怒らせてしまったそうなのだ、おっと、これはまだ公にはしていない事なんだ。騒がないでくれ」

「し、神獣様たちを…」
「そうさ、現に今雲は晴れ、湖は水かさが減っている。虹の鳥もいないしね」
「確かにそうですな」
「僕もこれまで虐げられていた。今しかないと思うんだ」
「クーデターを起こすと言う事ですな！」
「こんな国いらないよ」
「え？」
「だからさ、僕たちはこの国を出て神獣様を追って新しい未来を築くのさ。今のトップの王族たちにいいようにされていた時代は終わった。これからは自由になるんだ」
「おおっ」
　新しい新興宗教のような言い回しだ。

「それにもう僕は動いている。平民たちはすでに移住を始めているんだ」
「なんと！」
　あくまでもクラルテが始動だと思わせた。
「だからいずれこの地はトップの王族だけになるよ。それでもいいの？おいて行かれるよ？」


　クラルテはロザージュと連絡を取り合い王族などの貴族は最後の方にしようと話し合った。
「よかった。第四王子様がいらしてくださって。とても心強いです。でもなぜルイにこの事を内緒にするのですか？」

「ルイもずっと虹の橋に魔力提供しているのだろう。なんか驚かせたいじゃないか」

「はあ…？ルイの事ご存じだったのですか？ルイからは第四王子様の話を伺った事がなかったのですが…あ、すいません」

　少なからず、ショックではあった。まあ確かに発明を横取りしているように感じられてはいただろうが、それ以上でもそれ以下でもなかったのだな…

　そしてクラルテたちは虹の橋を渡った。何年ぶりに会うビアンカはルイと名乗っていた。ルイは灰色の髪を水色に変え、漆黒の瞳は蒼い瞳に変わっていた。

　残念だ、あの美しい漆黒の瞳に会えると思っていたのに。

　ルイは案の定驚いていたが、それだけだ。ルイの表情はただの第四王子としか思っていないのだと改めてわかった。それほど思い入れはないのだ。一言二言、言葉を交わして移動させられてしまった。
　蒼い瞳も悪くないがやはりルイは漆黒の瞳が美しい。

　クラルテはルイに会いに休んでいる宿に訪れた。
「ルイ、今いいかな。話がしたいのだが…」
　クラルテは思い出話でも出来ればと思いルイのいる宿に訪れた。

　ルイのそばに黒髪の大男がいた。ルイの婚約者だろうか、男前過ぎて気に入らない。しかし、そいつは普通に妻がいた。しかも、デレデレだ。

　明るい所で会うルイはまた美しかった。以前と違って少しふっくらしている。伏し目がちだった視線もなくなり、大きな瞳は碧くても漆黒でも吸い込まれそうだ。

　ルイから新しい街の代表になってほしいと頼まれた。僕は魔法の研究だけしていたい。しかしルイからは拒否権が認められないようだった。仕方ないルイの頼みだもの。ルイが一緒ならなんでもできそうな気がする。
「じゃあルイも一緒に手伝ってくれる？」

　ルイも巻き込もう。

　ルイは明るい可愛らしいデザインのワンピースを着ていた。首にはネックレスに小さなイヤリング。年相応の可愛らしいいで立ちだった。

　そうか、やはりオシャレが好きな普通の女の子だったのだ。それなのに僕は無神経な事をいってしまったのだな。
　クラルテは思わず「ごめんね」と、言ってしまった。ルイはあの事を忘れているようだった。

　もう兄さんの事はどうでもいいようだ。僕の事もどうでもいいようだけど、僕には時間がある。