婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

もきち

文字の大きさ
上 下
51 / 84

第51話 高速移動は身体が持ちません

しおりを挟む
 かの国の積乱雲が薄くなりちょっと内部が見えそうになっている。
『ラグ爺がここにいるからね』
 ラグ爺の効力が既に無くなりかけている。

 取り合えず、夜まで待ってかの国のロザージュの家に虹の橋を架ける事にした。ロザージュにはルイ特性の携帯電話を持たせた。その形は小さな魔石の付いたイヤリングだった。それを耳に付けて貰い少し魔力を込めて貰うと通話が出来る。「さすがね、ルイ」とロザージュは喜んで受け取った。
 深夜、こっそりと宿を抜け出し人目が付かない所を選ぶ。そしてロザージュは魔力を込めた。大きなキレイな虹が誰もいない砂漠の夜に架かった。
「行ってくるわね」
「ロザージュ、お願いね」
 ロザージュは虹の彼方に消えた。そしてスゥと虹は消えた。

「派手ね…」
『そこは仕方ないのよ』

「みんなは他の場所にも虹が掛る事にどうして気が付かないのかしら」
『虹の橋を使う時は魔力を使うのよ、魔力を燃やさないと虹は出ないわ』
「そっか…目の前に虹がないと魔力は燃やさないか…」

『じゃあ、また戻る?』
 カミノアはウキウキと聞いてきた。
「うっ、あの高速に乗るのがちょっと…夜が明けてからお願いしてもいい」
『…仕方ないな、今日のお昼はあのハートとお茶会でしょ。朝からぶっ飛ばすよ?』
「ああ、そうだった。お願いします」

 ルイたちは砂漠にある小さな集落の宿に戻った。ルイとロザージュは深夜になるまでこの宿の部屋で休憩をしていた。ふたりはカミノアの高速移動に酔ってしまっていたのだ。

 宿はふたり分取っていたがロザージュがかの国に行ってしまった事で広くなった。ルイはベッドの中でウトウトしていると、外が騒がしいような気がした。窓のカーテンの隙間からそっと外の様子を伺った。こんな真夜中になんだろうと思った。

「ハートが来ないわ。途中でなにかあったのかもしれないわ、助けに行かないと!」
「ローズ様、お部屋に戻ってください。今日はご実家に帰って貰います。ここに滞在してもう3日になります。ご両親もご兄弟も心配しています」
「だってハートがまだよ」
「ハート様は緊急の為、遅れてきます。連絡は貰っています。ハート様はローズ様を城に無事に届けるようにと仰せです」
「どうしてこっちに来ないのよ!私、ハートに怒っているのよ!魔法で縛り上げられてずっと苦しかったんだから!」
 あの我儘姫が隣のちょっとだけ豪華な宿の前で騒いでいる。

 ルイは呆れほっといてまた寝る事にした。朝からまた高速で戻らなければならない。ハートに時間軸の事をまだどう説明するか迷っている。すっとぼけるしかないだろう。

 ハートはしっかり者だから通用しないだろうな…でも取り合えずすっとぼけよう。それしか方法がない。ここの貴族たちはかの国のことをどれくらい知っているのかしら?明日ハートにそれとなく聞いてみようかな。


 早朝、ルイは黒猫とオウムとカバンにウサギを入れて出発する。宿を出て隣のちょっとだけ高級な宿を見ると豪華絢爛の馬車が止まっていた。きっとローズの物に違いない。そう思ったルイは足早にその場を去る。
 しばらく歩くと湖に着いた。そこからカミノアに乗り込み高速でノーズレスクに戻るのだ。またあの高速を体験するのかとゲンナリとしていると、後ろから声が聞こえた。
「待って~」
 ん
『ルイ、あの姫様が走って来てるよ』
「え!うそ」
 ルイは急いで湖にダイブしてカミノアに乗り込んだ。膜を張る魔法が中途半端になり少し濡れてしまった。

「ローズに見られてないかしら?」
『たぶん、見てはなかったと思うがのぉ』
 厄介な姫である。

「待って~ルイィ~」
 走っているローズは足が遅い、すぐに護衛に捕まっていた。
「ローズ様なにをしているのです!」
「ああん、ルイがいたのよ~」
「は?いい加減にしてください!今日はもうサウーザに出発します。私どもも暇ではないのです。ハート様を待ちたいのであればサウーザの城でお待ちください!」
「ああん、、」
 ローザは無理やりに宿に連れて行かされ城に連行された。

『目ざといわね』
 ルイたちは高速でノーズレスクに戻り、ノーズレスクの門番たちから不信がられた。しかし、一度キャラハン公爵と一緒に来た事で覚えている門番もいて問題なく通る事が出来た。
 ルイは目を回しながら宿に戻った。酔って吐きそうだ。お茶会の時間になっても高速酔いはとれず真っ青なルイの顔を見た迎えに来ていた家来たちは後日行うようにハート様に報告するとして帰ってくれた。
 ここの人たちはいい人達のようだ。結局お茶会は二日後に変更された。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...