婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

もきち

文字の大きさ
上 下
33 / 84

第33話 新たな刺客ですか

しおりを挟む
「兄上、ルイ殿の行方はわかった?」
「いや、湖や近辺の川や山を捜索させたが見つからない。しかも移動した形跡もないのだ。もちろん遺体もない。早馬でアルベルスの業者宅に連絡させたが戻ってきてはいないようだ。まぁ当然か…一番近くの街で、ソレイドホークにも使いをやったが特になんの騒動にもなっていなかった。この数日で若い女性のひとりの旅人がいたとの連絡も入っていない。まだ近くにはいるんだと思うのだが…かの国を王子を捕らえたと思っていないだろうから、もうこちらには戻って来ぬかもしれないな」
「そうだよね…なんか短い付き合いだったけど寂しいな…もっと話をしたかったのに…」
「そうだな…」


 ルイがソレイドホークにやってきて数日後、サウーザの王子たちがかの国の王子を尋問を始め出した頃、ルイはまだ移動せずにソレイドホークの街にいた。
 ルイはこの街がすこぶる気に入ったようだ。山や川が近くにあり、田舎でも都会でもない感じがよかった。王都やアルベルスのような大都会もいいが、ソレイドホークは都会でありながら自然も多く残っている街で人々も穏やかで時間がゆっくりと進んでいる気がするのだ。ルイはあれからしばらくあの赤い宿で寝泊まりをしていた。

 ちなみにルイは明るめのブラウン系の髪に緑の瞳をしている。街に入る少し前に変えていた。王都の王子たちが捜しにくることはないと思うが念のため風貌を変えた。今の所もう王都に戻るつもりはない。

 週一の王都新聞によると、水の化け物は水龍といって神獣である事がわかりこれ以上の被害はないとした。たまたま現れたようだとしている。神の使いが訪れた素晴らしい都だと陛下は語るとなっている。ルイのことやかの国の事は触れられてはいない。公にはしなかったようだ。

 カミノアは近くに大きな湖があるのでそこにいる。いつも水滴で寄り添ってくれていたが、今は黒猫の仔猫に憑依をしてルイのそばで暮らしている。赤い宿の近くで黒猫の仔猫が住み着いていた。飼おうとした矢先死んでしまったのだ。悲しんでいたルイにカミノアはルイに笑ってほしくて仔猫に憑依したのだ。

 ルイは付与の仕事は休んで、今は一日置きに往診するセロジネと一緒に行動をしていた。セロジネはルイを助けてくれたお医者様である。ある日ルイが黒猫と街をぶらぶらと散策していたら「暇なら手伝え!」と言われたのがきっかけだ。それから助手をしている。沢山の人たちとふれあい知り合いになれていい職場だ。

 セロジネの診察所は自宅兼になっており、ルイ以外に助手はいなかった。診察の小さな部屋だけはキレイにしていたが、他の部屋はゴミや薬草などのクズが充満して匂いもひどかった。以前の職は掃除婦をしていたとセロジネには言ってあるので、最初に助手としての仕事は得意の掃除からだ。すべて物を外に出し洗い流さないと匂いも取れないほどひどい状態であった。

 しかし、セロジネは本当に腕はいいようでケガ人や病人が引っ切り無しにやって来ていた。ルイの立場は助手というより、お手伝いさんのようなものである。

「一日、一万くれてやるからしっかり働けよ!ガガガ」
 セロジネは口は悪いがケチではなさそうだ。掃除が終わりキレイに整理整頓された部屋になるとセロジネから薬草に付いて教えられた。春になれば山に薬草を取りに行って乾燥させるのである。薬草を入れる大きな棚がある。そこには数多くの乾燥させた薬草が眠っていた。しかしセロジネの部屋には乾燥させた大量の薬草が置きっぱなしになっている。それを仕分けして収納してほしいようだ。

 今日はセロジネに言われて、溜まりに溜まった大量の洗濯物を洗いに川へと来ていた。ルイは大きな籠に洗濯物を入れ背負って洗濯場まで来ていた。川には洗濯し易いように板なので出来た足場が組まれていた。魔法とカミノアに手伝って貰いながら洗濯をしていた。

『今の時期に川で洗濯なんて、私なら水が冷たくて死んじゃうわ』
 ルイがたくさんの洗濯物に悪戦苦闘している所にそんな声が聞こえた。声がした方に顔を向けるとそこには、薄い青色から濃い青色のグラデーションがキレイなオウムが洗濯場の足場にとまっていた。トサカは黄色でシッポには赤が一筋入っている。

「モナルダ?モナルダがどうしてこんな所にいるの?」

 そこにはルイの知っているオウムがいた。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...