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第30話 **タールはどこだ**
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タールはいつも不満だった。
今回のこの騒動もカヤの外で、王族の秘密の通路も教えて貰えない、位が上の弟にもバカにされる。その事を母に話ても「そんな事が気になるの?今まで通り楽しく遊んでいたらいいじゃない」と言われてしまっていた。
だから俺たち親子はバカにされているのだ!母は平民の出だから仕方ない。でも俺は王の血が入っている歴とした王族なのだ!
腕を磨けだの、王族たる振る舞いだの、偉そうに!確かに女の事で色々と後始末をしてもらったがあんなの対した事ではないだろう!ちょっと遊んだくらいで!
タールは自分の行いでシオンの仕事が増えている事に気が付かない。王族だからだといつも上から目線で訓練もせず遊び惚けていた。
そしてタールは自分の名前にも不満があった。
「タールタクト」
タールは王である父になぜこの名前を付けたのかと聞いた事があった。
「お前の母がそこの出身なのだそうだ」
返って来た答えに絶望した。小国の潰れてしまった村の名前であった。
恥ずかしいこんな名前を俺は一生背負うのか…
フリルはフリルローズ、その弟はハミルリリー、第二夫人は花を愛でるのが好きな方だからだと、キールやコールもキールド・ヴェルにコールド・ヴィオレ、第三夫人の趣味が絵を描くことからだと聞いている。
俺の母はなんの特徴もなかったというのか!俺だけ、いつも俺だけ!
あの女、俺の妻にしてやろうと声を掛けてやったのに断るなど!無属性ならば今後俺の役に立ちそうだと思って、他の王子たちが手を付ける前に俺の女にしておこうと思っていたら、田舎の平民ならば王子の肩書だけで落ちるだろうと思っていたら軽くあしらいやがって!
あれをシオンやカインに見られていたのはまずかった。父上はなにかとシオンを頼っている。今ではこの国を仕切っているはシオンなのだ。
しかし、なぜあの女の事でこの国が交渉せねばならん。シオンは判断力が鈍っているのではないか。いくらあの国が珍しいからと…俺が目を光らせなければ
そんなタールはいつもなにかに焦っていた。そして臆病でもあった。そんな時、大蛇のような出で立ちの水の化け物が現れて、使者とメイドを飲み込んだ。タールだけメイドがルイだとは知らない。
この国はもう終わりだ!
それを見ていたタールは逃げ惑う女たちを押しのけ、我先にと逃げ出した。王子たちが現場で奮闘している中で、自分の部屋に隠してあった現金や金目の物を持ち出した。タールは自分の部屋だけでなく他の王子たちの部屋にも侵入して金目の物を漁っていた。
丁度その時、水の化け物が湖に戻る通路として王子たちの住宅である棟を通ったのだ。棟の屋根は崩れ落ち、水が流れ込んだ。タールは落ちて来た建物の瓦礫で扉が開かなくなりシオンの部屋の中に閉じ込められてしまったのだ。
部屋中は散乱し閉じ込められ水は腰の所まで浸かり、水が引くまで数時間かかった。兄弟王子たちは住宅に戻る事なく現場で動いていた。
誰しもタールも何かしらの仕事を与えられていて姿が見えないのだと思っていたが、シオンがようやく気が付いた。
「そういえばタールはどこに行ったのだ?何をしている?カインは知っているか?」
「え?いや、僕も他の者に指示を出していたりしていたから知らないよ?兄上が何か指示を出してなかった?」
「いや、指示を出したがタールはいなかった」
他の兄弟王子たちも知らないと言う。
「あんな奴、いない方がいいけどな」
と、コールが言う。
「っぷ、確かに」
皆が笑う。
しかし、王子たちをまとめるシオンはほっとく訳にもいかない。
女たちの無事が全員確認出来たと思ったら今度は現場の指示を出さなければならない王族が行方不明とは…疲れているのにまた面倒を引き起こすとは今度という今度はもう許さない。
復興が順調に進みやっと王子たちの住宅の棟を修繕することが出来るまでになった事で、現場に人を入れた。それまで立ち入り禁止にして封鎖していたのだ。そこへシオンに緊急の連絡が入る。
「シオン様の部屋だと思われる所にタール様が倒れておりました。緊急搬送しましたが、まだ意識が戻っておりません」
タールに関しては第四夫人の意向もあり数人で行方を捜していた。しかしどこにいるのか分からずにいた。タールを発見したのが騒動から五日ほど経っていた。食べる物もなくシオンの部屋から出ようと、もがき苦しんだようで指は爪が割れ血だらけになっていた。壁や瓦礫にもあちこちにタールの血が付いていた。
タールは搬送されたが命に別状はなく空腹の為、今は砂糖水を少しずつ飲ませ身体の回復を待つようだ。
第四夫人のレグルスはシオンがタールを自分の部屋に監禁していたのでないかと騒ぎ出したが、騒動前はフロアにいた事を他の兄弟王子たちや他の貴族たちも見ていた事からその疑いは晴れた。晴れはしたが疑いを掛けられた事にシオンは憤りを覚えた。
タールが目を覚ますと王族たちからの冷たい視線が待っていた。身体が回復するのを待たずに事情聴取は行われた。
「タール、この大変な時に私の部屋でなにをしていた。なぜあの場所にいた?」
「…」
「タール、誰かに攫われてシオン様の部屋に監禁されていたのではないの?」
母親のレグルスはまだ疑っている。この場合誰かとはシオンの事だろう。
「…タールが倒れていた近くに金や貴金属が散らばっていた。俺の持ち物ではなかった」
タールは真っ青になったまま黙り込んでしまった。これにはレグルスも反論しようもなく項垂れてしまった。
「私の部屋に無断で入ったのだな。反論はあるか?」
「…」
「タールどうなの?!」
レグルスはタールの肩を揺さぶる。
「シオン様、タールが無断で部屋に入ったことお許しください。申し訳ございません。お許しください」
レグルスは頭を下げタールの行いを謝ってはいるが自分がシオンを疑った事は謝ってはいない。
「おって処分を言い渡す」
シオンはタールの部屋を後にする。
さすがに森に捨てる事は出来ないが、邪魔だった親子をサウーザの田舎の荒れ地に追いやる事が出来た。面倒なタールを他所にやる口実が出来た事にシオンはひっそりと一連の騒動に感謝した。
今回のこの騒動もカヤの外で、王族の秘密の通路も教えて貰えない、位が上の弟にもバカにされる。その事を母に話ても「そんな事が気になるの?今まで通り楽しく遊んでいたらいいじゃない」と言われてしまっていた。
だから俺たち親子はバカにされているのだ!母は平民の出だから仕方ない。でも俺は王の血が入っている歴とした王族なのだ!
腕を磨けだの、王族たる振る舞いだの、偉そうに!確かに女の事で色々と後始末をしてもらったがあんなの対した事ではないだろう!ちょっと遊んだくらいで!
タールは自分の行いでシオンの仕事が増えている事に気が付かない。王族だからだといつも上から目線で訓練もせず遊び惚けていた。
そしてタールは自分の名前にも不満があった。
「タールタクト」
タールは王である父になぜこの名前を付けたのかと聞いた事があった。
「お前の母がそこの出身なのだそうだ」
返って来た答えに絶望した。小国の潰れてしまった村の名前であった。
恥ずかしいこんな名前を俺は一生背負うのか…
フリルはフリルローズ、その弟はハミルリリー、第二夫人は花を愛でるのが好きな方だからだと、キールやコールもキールド・ヴェルにコールド・ヴィオレ、第三夫人の趣味が絵を描くことからだと聞いている。
俺の母はなんの特徴もなかったというのか!俺だけ、いつも俺だけ!
あの女、俺の妻にしてやろうと声を掛けてやったのに断るなど!無属性ならば今後俺の役に立ちそうだと思って、他の王子たちが手を付ける前に俺の女にしておこうと思っていたら、田舎の平民ならば王子の肩書だけで落ちるだろうと思っていたら軽くあしらいやがって!
あれをシオンやカインに見られていたのはまずかった。父上はなにかとシオンを頼っている。今ではこの国を仕切っているはシオンなのだ。
しかし、なぜあの女の事でこの国が交渉せねばならん。シオンは判断力が鈍っているのではないか。いくらあの国が珍しいからと…俺が目を光らせなければ
そんなタールはいつもなにかに焦っていた。そして臆病でもあった。そんな時、大蛇のような出で立ちの水の化け物が現れて、使者とメイドを飲み込んだ。タールだけメイドがルイだとは知らない。
この国はもう終わりだ!
それを見ていたタールは逃げ惑う女たちを押しのけ、我先にと逃げ出した。王子たちが現場で奮闘している中で、自分の部屋に隠してあった現金や金目の物を持ち出した。タールは自分の部屋だけでなく他の王子たちの部屋にも侵入して金目の物を漁っていた。
丁度その時、水の化け物が湖に戻る通路として王子たちの住宅である棟を通ったのだ。棟の屋根は崩れ落ち、水が流れ込んだ。タールは落ちて来た建物の瓦礫で扉が開かなくなりシオンの部屋の中に閉じ込められてしまったのだ。
部屋中は散乱し閉じ込められ水は腰の所まで浸かり、水が引くまで数時間かかった。兄弟王子たちは住宅に戻る事なく現場で動いていた。
誰しもタールも何かしらの仕事を与えられていて姿が見えないのだと思っていたが、シオンがようやく気が付いた。
「そういえばタールはどこに行ったのだ?何をしている?カインは知っているか?」
「え?いや、僕も他の者に指示を出していたりしていたから知らないよ?兄上が何か指示を出してなかった?」
「いや、指示を出したがタールはいなかった」
他の兄弟王子たちも知らないと言う。
「あんな奴、いない方がいいけどな」
と、コールが言う。
「っぷ、確かに」
皆が笑う。
しかし、王子たちをまとめるシオンはほっとく訳にもいかない。
女たちの無事が全員確認出来たと思ったら今度は現場の指示を出さなければならない王族が行方不明とは…疲れているのにまた面倒を引き起こすとは今度という今度はもう許さない。
復興が順調に進みやっと王子たちの住宅の棟を修繕することが出来るまでになった事で、現場に人を入れた。それまで立ち入り禁止にして封鎖していたのだ。そこへシオンに緊急の連絡が入る。
「シオン様の部屋だと思われる所にタール様が倒れておりました。緊急搬送しましたが、まだ意識が戻っておりません」
タールに関しては第四夫人の意向もあり数人で行方を捜していた。しかしどこにいるのか分からずにいた。タールを発見したのが騒動から五日ほど経っていた。食べる物もなくシオンの部屋から出ようと、もがき苦しんだようで指は爪が割れ血だらけになっていた。壁や瓦礫にもあちこちにタールの血が付いていた。
タールは搬送されたが命に別状はなく空腹の為、今は砂糖水を少しずつ飲ませ身体の回復を待つようだ。
第四夫人のレグルスはシオンがタールを自分の部屋に監禁していたのでないかと騒ぎ出したが、騒動前はフロアにいた事を他の兄弟王子たちや他の貴族たちも見ていた事からその疑いは晴れた。晴れはしたが疑いを掛けられた事にシオンは憤りを覚えた。
タールが目を覚ますと王族たちからの冷たい視線が待っていた。身体が回復するのを待たずに事情聴取は行われた。
「タール、この大変な時に私の部屋でなにをしていた。なぜあの場所にいた?」
「…」
「タール、誰かに攫われてシオン様の部屋に監禁されていたのではないの?」
母親のレグルスはまだ疑っている。この場合誰かとはシオンの事だろう。
「…タールが倒れていた近くに金や貴金属が散らばっていた。俺の持ち物ではなかった」
タールは真っ青になったまま黙り込んでしまった。これにはレグルスも反論しようもなく項垂れてしまった。
「私の部屋に無断で入ったのだな。反論はあるか?」
「…」
「タールどうなの?!」
レグルスはタールの肩を揺さぶる。
「シオン様、タールが無断で部屋に入ったことお許しください。申し訳ございません。お許しください」
レグルスは頭を下げタールの行いを謝ってはいるが自分がシオンを疑った事は謝ってはいない。
「おって処分を言い渡す」
シオンはタールの部屋を後にする。
さすがに森に捨てる事は出来ないが、邪魔だった親子をサウーザの田舎の荒れ地に追いやる事が出来た。面倒なタールを他所にやる口実が出来た事にシオンはひっそりと一連の騒動に感謝した。
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