婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

もきち

文字の大きさ
上 下
27 / 84

第27話 謎は謎のままです

しおりを挟む
「…わたしは…ピティナスピリツァ王国の第一王子だ」
 第一王子は、目を閉じ観念した。

「なんと、幻の国の後継者でしたか。大物ですな」
 陛下は驚いて見せたが、王子たちはざわついている。ルイとのやり取りは見えていたが、まさか王子自ら使者に扮して乗り込んでくるとは思っていなかった。
「わかったら出してくれ」
「名は?」
「名は明かせない。名は家族以外明かせぬというのが我が国の決まりだ」
「ふむ、嘘は言ってはいないようだ。変わった決まりだの…では王子よ、それ相当の部屋にお通ししよう」
「しかし、一国の王子がなぜ使者に紛れてこの国に?そんなに大切な姫だったのか?そのビアンカ嬢は」
 シオンは本当に不思議だと思い聞いた。

「我が国の大切な人ですよ」
 腕輪は反応しない。嘘はないように思うがなぜがしっくりこない。
「違和感があるが、まあいいでしょう。お話はまだ色々とさせて頂きますよ、第一王子殿。我が国で派手にやってくれたのですからね。第一王子殿にはこの騒動の件での責任を取って頂きます」
 シオンはかの国の第一王子だと聞いてなお、使者としての身分で扱うようだ。

「…水龍はビアンカが連れてきたのだ!」
「どうやってかね?それに大切な人だと言うておるが、我が城でそのビアンカ嬢に攻撃を仕掛けたと見たものから聞いている」
「それは…捕まえる為に…」
「あれがか?!」
 コールが叫ぶ。近くで見ていた王子たちはどう見ても殺傷能力がある攻撃だと感じたようだ。

「やはりこれだけの騒動を起こしたのだから、そなたに責任があることに間違いはなさそうですな。その場で話合いをする事も十分出来たわけですしな。第一王子殿に責任を取ってもらうのが筋でしょうな?」

「ぐっ…」

 第一王子以外はそのまま貴族牢に残し、第一王子は城の最上階にある監視付きの豪華な牢へと移動させた。ここは王族が罪を行った時に入る牢だ。数百年は使われていない。
「結局、牢ではないか!」
「先ほどの牢よりは住みやすくしてやっただろう。これでも配慮している」
「どうしろと言うのだ!修繕の賠償金なら払う。我が国に書簡を出そう」
「まあ、そうだな。話はそれからだろうな。書簡の中身も確認させてもらうぞ」
「なっ…」

 第一王子直筆の書簡を使者に持たせた。修繕費用を請求する。また貴国の神獣が我が国に多大な被害と恐怖を陥れた、として賠償金を上乗せした。

 第一王子には神獣とはなにか、水龍とはなにか、あのメイドはなんの目的で我が国にきたのか、どんな関係なのか、あの写真を見せこれは貴国で間違いないか、どうやって浮いているなど尋問した。コールに至ってはあの攻撃方法を教えてほしいと耳元で懇願していた。第一王子は手を緩めない王子たちに狼狽し、疲労し、最後には泣き出してしまった。
 結局、国の秘密はなにひとつ聞き出せなかった。さすがにそこまで期待はしていなかったが、やはり一国の王子は王子なのだなと思う。だがなぜ王子がルイを直接捕まえに来たのか、ということも「大切な人だから」の一点張りで詳しい理由は聞けなかった。もちろんそこに嘘はない。
 ではなぜルイは逃げている?付与をさせたいだけにしては執着し過ぎている。これもまだ謎のままだ。

 かの国とも交渉し、これ以上引き延ばせないとして使者団はかの国に引き渡す事になった。しかしサウーザに虚偽の報告をし我が城の中で第一王子が攻撃したのは確かなこと。今後、我が国とうそ偽りなく友好関係を築くことを王子の魔力に約束させた。そして第一王子は使者団として、かの国にお帰り頂いた。

 そんなやり取りを半年ほどしていた。
 

【魔力に約束させる】
 その行為は約束させたい人の体内に、約束させる人の魔力を特殊な方法で残すという行いだ。つまり第一王子の体内にはサウーザの王族の魔力が残された。第一王子が裏切ったと判断した場合サウーザの王族は、体内に残した魔力で第一王子の魔力を燃えさせることが出来る。魔力が燃えてなくなると人は死んでしまう。
 体内に魔力を残す行いを『カミノア』という。以前カミノアという青年が生み出したとされる行いだ。悪魔の行いと言われている為、今や禁止事項になっている。許されるのは王族だけだ。『カミノア』をされたモノは『魔力付き』と呼ばれ罪人認定されるのである。ただ、本人であれば魔力を取り除く事も出来るがその行為は行われたことはない。

 かの国は大事な跡取りを魔力付きにされた事に対して恨んではいるものの攻撃は出来ない。友好関係を築くと約束させられている。約束を破れば第一王子の魔力が燃えつき死んでしまう。大人しく引き下がるしかなかった。


 そんな中、かの国でも色々あったようで大きく変化していた。






 かの国との騒動後、水龍によって湖の中に連れ込まれたルイは、飲み込まれる瞬間に自分の顔の周りに膜を作り息が出来るようにした。その膜からは水中から酸素が取り込まれるようになっており、永久的に水の中にいることが出来る仕組みにしていた。

 そしてこれらは想定外で想定内の事であった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...