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第18話 尊重します

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「君は賢明だった。名を変え、国を偽って、祖国の名も明かさなかった。そして、紙に書きすぐに燃やした。そうした事で君自身は守られた」
 そんな意図はなかったですが…
「しかし、君を探しに来たのだろうか?」

「そうかもしれません。最後に聞いた言葉は闇に消そうでしたので…」

「君は重要な位置の姫君だったのでは?」
「それは違います。上級貴族の息女だと言うだけです」

「君が知らないだけでは?」
「いいえ」
 ルイは首を振る。そんなはずない。それならば売るばずないのだ。

 翌日には王都に出発した。シラー男爵が掃除業者宅まで馬車を用意してくれた。アネモネたちには事情を話した。
「なんだか大変な事になったねぇ。無事に戻ってくるんだよ」
 と、送り出された。アネモネたちの所にまた戻ってきたい。そうルイは思いながら心配そうに手を振るアネモネたちを馬車の中から見ていた。

 荷物は宝石に収納しているので小さな鞄ひとつだ。急いでいたから特になにか持ってくるようにも言われていない。あちらですべて揃えて下さるようだ。

 大都市アルベルスから王都まで四日、途中で馬車を乗り換え、シャルトル辺境伯と共に豪華な馬車で王都に向う。
「急にすまなかったね。王都ではかの国ではないかと陛下と王族たちが大騒ぎしているんだよ」
「私がうっかり祖国の名を漏らしたことでご迷惑を、申し訳ございません」
「いや、君がこの国にいるのであれば、遅かれ早かれこの事態になっていた事だろう。君の話を聞いた後だったこともあり、陛下も貴族たちも心の準備が出来た。その点はよかったと思うよ。かの国がどう出るのか分からないから困る、という事はあるけどね」
「そうですね、そこまで私も分かりません」
「君を引き渡せ、とかかな?」
「え?そ、それは…」
「あっごめんごめん。冗談だ。でもうちの陛下は見捨てるようなそんな非人道的なお人ではないよ。面白いから外交をしようとか説得するのではないかな」
「はあ」
 こわい…またあの国に戻されても困る。今度はすべてを奪われて逃げられないようにするはずだ。
「思い詰めないで、こわいよね。ごめんね。君はちゃんと守る。引き渡したりしないから」
 心を読まれていたようだ。ここまでしてくれたら逆に恐縮である。



 四日後、王都に到着した。本来なら色々と手続きとかで二・三ヶ月は掛かるような陛下との謁見も緊急事態との事でその日に行われた。着の身着のままでアルベルスからやってきたのに、あれよあれよと城の中に通され、謁見之間に連れて行かれた。もちろん、シャルトル辺境伯も一緒なので心強い。

 謁見之間は、大きな重工な扉を騎士が四人がかりで開けている。そこに待っていたのは、この大国サウーザ王国、第十六代目国王アントニウス・サウーザが鎮座していた。普通ならば国王が待っているのではなく後からお出ましになるのだが、やはり緊急事態なのだろう。王が待っていた。

 ロマンスグレーの貫禄強めのイケオジだ。年は四十代だろうか。その後ろには数人の若い男性たちがいる。
 薄っすら下を向きながら王の前まで歩いて行く。シャルトル辺境伯も緊張気味だが、表立っては落ち着いている。シャルトル辺境伯は片膝を付いて頭を下げた状態で挨拶をしている。ルイはカーテシーのまま、シャルトル辺境伯の挨拶が終わるのを待つ。
「表を上げよ」
 挨拶が終わり、ルイは正面から陛下を見た。陛下はオリエンタルブルーの美しい瞳をしていた。

「君がかの国の?」
「はい、私の軽率な行いで大変ご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫びします」

「いやいや、まだ何も迷惑は掛けられてはいないよ、まあこれからだろうね」
「それは…」
「先日、かの国から使者が来てね。君を引き渡せと来た。君は大泥棒なんだってね」
「え?」
 大泥棒?
「たくさんの高価な宝石を持って国から逃亡したらしいではないか」
「それは誤解です」
「聞かせてもらえるかね」
「はい、私はかの国の貴族の息女でしかありませんでしたが、魔力が豊富で付与が得意でした。その為、王子たちがあれもこれもと付与をお願いをされていたのです」
「君に預けていた?」
「そうですが、今まで行った付与代は王子たちの笑顔でした。こちらの国では付与は一回小さな宝石でも五十万ペントからだとか…今までの付与代の正当な代金だと受け取りました」

「あちらは思ってはいないようだが…」

「都合のいい事をいって連れて帰り、また王子たちの笑顔で付与をさせられる事でしょう。そんな飼い殺しされるのは嫌です。私は自身の人権を尊重します」

「なるほどね」
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