ウィスタリア・モンブランが通りますよぉ

もきち

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第31話

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「それでしたら、兄さま。魔法水を持参してもいいですか?」
 困ったウィスタリアはいい事を思い付いたとばかりにベゴニアに提案する。
「魔法水?」
「魔素に襲われて腕がしばらくダルかったと言ったでしょう?魔法水を掛ければよくなったもの。何かあったら魔法水をぶっかけたらいいのよ」
「そうか、魔法水か…吸血鬼は聖水に弱いと聞く。魔法水も聖水と通ずる所があるかもしれないな!」
「兄さま、吸血鬼が聖水に効くなんて本の中だけですわよ。文献では因果関係がないとされてましたよ」
「勉強が苦手なくせにそんな事には詳しいな…」
「『不思議体験生物百貨物語』は大好きでしたもの」
 フフンと得意げなウィスタリアはオカルト系が好きな読書家だ。

 ▼

「おお、魔法水があったな。確かに有効だ」
 オリバーは息子の提案に安堵する。娘が吸血鬼に襲われる姿など見たくない。
「…しかし、何の目的か分からず動きを止めるのもなんとも…」
 ボム士長がそれは困ると言う。
「あなたが復活と言い出したのですよ?吸血鬼が復活したら大騒ぎです。吸血鬼と言えば230年前に女性が大量に殺された事で騎士団が討伐して絶滅させたのですから。今回もネックレスの所有者が突如として亡くなっている。放置していたらまた死人が出るかもしれない」

「しかし、その大量の殺人も今では疑問視されている。本来吸血鬼は人を襲ったりはしないのだ。魔獣の血を好み、魔力の少ない人の血は必要ない。だから吸血鬼はその時まで人との共存が出来ていたのだ。大勢の女性が行方不明になって遺体が吸血鬼が住む集落に近かった事から人間達は吸血鬼が殺したのだと騒ぎ立て根絶やしにしたのです」
「それは諸説のひとつでしょう。事実と異なります」
「わしは魔石の中を見たのだ。きちんと解明したいと思っているのだよ」
「だったら尚更、人間を恨んでいるはずです。事実無根で一族を根絶やしにされたのですぞ。そうとうな恨みがあるでしょう!それが我が娘に向けられればどうなるか…」

 オリバーとボム士長が言い争っている中、モンブラン家ではウィスタリアに魔導士や騎士が訪れ、話を聞かれた。聞かれた事に話すという感じでオリバーが伝えていた事の事実確認のようなものだった。

 そして、ネックレスを陛下の前で開封する事が決まった。それにはウィスタリアと父と兄も同席が決定している。元々はアウロー男爵夫人の物だった事からアウロー男爵も同席が求められた。
「母のネックレスがそんな奇妙なモノだったなんて…いつの頃からあのネックレスをしていましたが、そんな頃から母は冷たい人になっていました。まさか、あのネックレスが原因だったなんて…ヴィヴィアンヌがもっと注意深く母を見ていてくれれば母はまだ生きていたかもしれない…」
「アウロー男爵、誰かを恨みたい気持ちはわかるが奥方を恨むのは筋違いですぞ!誰のせいでもない。死に追いやったのがネックレスならば恨みはネックレスに向けなされ」
 アウロー男爵は項垂れ頷いた。

 数日後、謁見の間に集まった大勢の貴族が興味深々に集まっていた。バカな貴族は女性同伴をしていた。警護があるから大丈夫だと言い張ったが何があるのか分からないし、規則を破るのであれば両方に退席するよう求めた。
 そんな事が有りながらようやく陛下が現れた。陛下までも王妃を共にしていた。それを見たボム士長が呆れながら陛下に言う。
「恐れながら王妃様は退席されますようお願い申し上げます」
「良いではないか、王妃も動くネックレスを見たいと申しておる。こんなにたくさんの兵士がいるのだ大丈夫であろう」
「陛下、女性を襲うと言われています。その女性を2名配置するとなると警護が2分されます。当然優先は王妃になります。そうなるとモンブラン家の娘は犠牲になるやもしれません。モンブラン家の長女といえば最近、魔法水の泉を発見した功労者ですぞ。まだ若くこれからも泉を発見するかもしれない貴重なギフトの持ち主です。どうか、わたくしめの言葉を聞き入れては頂けませんか、陛下」
 と、片膝を付き頭を下げた。隅ではオリバーとベゴニアが頭を下げている。

 陛下は仕方がないのぉと言い、王妃を下げた。王妃は不満げな態度ではあったものの顔のいい騎士に連れられ退場した。
 やれやれである。
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