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第18話
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そんな事を母ビヨンセは紅茶を飲みながら思い出に浸っていた。
「ウィスタリアは不思議な子よねぇ勉強は苦手だったのに、そんな事はすぐに解決してしまう。本当に不思議な子だわ。自慢の子よ」
母からそう言ってもらえてウィスタリアは素直に嬉しかった。
昔から要領も悪く集中力に掛けていたため、勉強も苦手だった。それはコンプレックスにも感じでいた。姉弟の中で出来が悪い自分は両親にとってどういう存在なのだろうと子供ながらに敏感になっていた。しかしそれはたった今解消された。
実は両親に隠れてウィスタリアだけ聞こえるように悪く言っている大人は大勢いた。そのためウィスタリアは人間観察を自然にしていた。パーティーで会う親族や両親の友人など常に話している相手の横や斜め後ろやその後ろ、範囲3mの人たちの顔と行動をなんとなく見ていた。
そんな事から人とは裏の顔や目的があり、行動はあるのだとウィスタリアは心得ている。
しかし、そんなコンプレックスを抱いた事のない人達は自分の事しか分からない。自分の事しか見えていないので他人の行動などが見えてこないだろうとウィスタリアは思っている。
でも分からないなら分からない方が幸せなのだとも思う。
「それでお母様、それでなんのご相談?誰かが何かを無くしたの?さすがに離れて暮らしているのから分からないわよ?」
「分かっています。違うのよ」
婦人会での出来事だ。定期的に貴族間の奥様達でお茶会が行われる。最近の婦人会では兄ベゴニアやピアニー、最後はウィスタリアの見合いの話で幕となるが恒例だったそうなのだが、前回の婦人会は違ったという。
今回のお茶会のトレンドは神獣様の事だった。商人から貴族に噂が広がり、婦人会にまで話が広がっていたようだ。
もちろんビヨンセからは何も発する事はないのだが、息子が城のテイマーをしている事は知られているので話を聞きたいらしい奥様達は最後まで粘っていたようだ。
しかしビヨンセから当然話せる事はない。兎に角何も聞いてないと言うしかなかったが、ひとりふたりはコソコソと近寄って来ては
「本当の所はどうなの?私達の中じゃない」
「何か存じ上げないの?」
と、聞いて来る。
ビヨンセはその都度、何も聞いてないと言ってるのだが諦められないらしい。そんな話を聞いてどうするのかと思うが、トレンドをいち早く取り入れ話題を振りまいてこそが貴族の威厳なのだと信じて疑わない人達はしつこい。
そしてようやくお茶会がお開きになり、何も話してくれなかったビヨンセはひとりにされた。ビヨンセはひっそりと帰り支度をしている所へある貴婦人が近づて来た。
また神獣様の話かと身構えていた。
「魔法水を一瓶分けてほしい」と、まさかの言葉だったという。
「魔法水?」
ビヨンセは驚いた。
「城の森で天然の魔法水が発見されたんでしょ?魔法水は依頼しているのですが、もう数ヶ月待たされていて…風の噂で発見者はモンブラン家の方なのだと聞いて…モンブラン婦人とはお茶会で一緒になるからと…実は義母が体調を崩していまして、ポーションを飲むと改善されるのですが、すぐに悪くなるのです。天然の魔法水を飲めばもしかしてって…」
話しかけて来たご婦人は申し訳なさそうにしていた。
天然の魔法水の話は茶会では出なかった事から、このご婦人は本当に薬となるモノを探しているのだろう。ビヨンセは婦人が気の毒になり、泉の発見者であるウィスタリアに相談を持ち掛けたという訳だ。
もしかしてその為にあんなに褒めてくれていたのだろうか…あんなに嬉しかったのに冷めて来る…
「ポーションでダメなら魔法水はもっとムリなのではないかしら?」
ウィスタリアは冷たい言い方にならないように気を付けたがやはり冷たい言い方になってしまった。
「私もそう思ったのだけれど…最近森で魔法水が発見されたって噂はその界隈で広がっているそうなの。ベゴニアが発見者だと思われているみたいだけど…」
「そうなんだ、それはいいけど…」
真の発見者がウィスタリアなのは家族では分かっているが世間では兄のベゴニアが発見者扱いになっているようだ。なぜかビヨンセにとって気になる所らしい。
「でもそれを私に相談してどうするの?」
「本当は見つけたのはあなたなんだから少しくらい分けて貰えないかなって…」
「それはもうムリよ。今は森の一部は立ち入り禁止になっているし、泉には兵士が見張っているのよ」
「そうなの…」
「一体どんなご病気なの?値段の張るポーションでも治らないなんて…お母様のご友人ならお金に苦労はしていないわよね?」
「たぶんね、心の病気だと思うのよね」
「心の病気?」
「ポーションで治らないのよ」
「じゃあなおさら魔法水でもムリでは…」
ウィスタリアは母の言いたい事が分からなかった。心の病気ならポーションでは治らない。なぜ母は自分にそんな事を言ってくるのか…
そもそも心の病気とは?皆は私より美しく知性も教養もあって頼れる旦那様もいて何が心の病気になる事があるのかとウィスタリアは思った。
「ウィスタリアは不思議な子よねぇ勉強は苦手だったのに、そんな事はすぐに解決してしまう。本当に不思議な子だわ。自慢の子よ」
母からそう言ってもらえてウィスタリアは素直に嬉しかった。
昔から要領も悪く集中力に掛けていたため、勉強も苦手だった。それはコンプレックスにも感じでいた。姉弟の中で出来が悪い自分は両親にとってどういう存在なのだろうと子供ながらに敏感になっていた。しかしそれはたった今解消された。
実は両親に隠れてウィスタリアだけ聞こえるように悪く言っている大人は大勢いた。そのためウィスタリアは人間観察を自然にしていた。パーティーで会う親族や両親の友人など常に話している相手の横や斜め後ろやその後ろ、範囲3mの人たちの顔と行動をなんとなく見ていた。
そんな事から人とは裏の顔や目的があり、行動はあるのだとウィスタリアは心得ている。
しかし、そんなコンプレックスを抱いた事のない人達は自分の事しか分からない。自分の事しか見えていないので他人の行動などが見えてこないだろうとウィスタリアは思っている。
でも分からないなら分からない方が幸せなのだとも思う。
「それでお母様、それでなんのご相談?誰かが何かを無くしたの?さすがに離れて暮らしているのから分からないわよ?」
「分かっています。違うのよ」
婦人会での出来事だ。定期的に貴族間の奥様達でお茶会が行われる。最近の婦人会では兄ベゴニアやピアニー、最後はウィスタリアの見合いの話で幕となるが恒例だったそうなのだが、前回の婦人会は違ったという。
今回のお茶会のトレンドは神獣様の事だった。商人から貴族に噂が広がり、婦人会にまで話が広がっていたようだ。
もちろんビヨンセからは何も発する事はないのだが、息子が城のテイマーをしている事は知られているので話を聞きたいらしい奥様達は最後まで粘っていたようだ。
しかしビヨンセから当然話せる事はない。兎に角何も聞いてないと言うしかなかったが、ひとりふたりはコソコソと近寄って来ては
「本当の所はどうなの?私達の中じゃない」
「何か存じ上げないの?」
と、聞いて来る。
ビヨンセはその都度、何も聞いてないと言ってるのだが諦められないらしい。そんな話を聞いてどうするのかと思うが、トレンドをいち早く取り入れ話題を振りまいてこそが貴族の威厳なのだと信じて疑わない人達はしつこい。
そしてようやくお茶会がお開きになり、何も話してくれなかったビヨンセはひとりにされた。ビヨンセはひっそりと帰り支度をしている所へある貴婦人が近づて来た。
また神獣様の話かと身構えていた。
「魔法水を一瓶分けてほしい」と、まさかの言葉だったという。
「魔法水?」
ビヨンセは驚いた。
「城の森で天然の魔法水が発見されたんでしょ?魔法水は依頼しているのですが、もう数ヶ月待たされていて…風の噂で発見者はモンブラン家の方なのだと聞いて…モンブラン婦人とはお茶会で一緒になるからと…実は義母が体調を崩していまして、ポーションを飲むと改善されるのですが、すぐに悪くなるのです。天然の魔法水を飲めばもしかしてって…」
話しかけて来たご婦人は申し訳なさそうにしていた。
天然の魔法水の話は茶会では出なかった事から、このご婦人は本当に薬となるモノを探しているのだろう。ビヨンセは婦人が気の毒になり、泉の発見者であるウィスタリアに相談を持ち掛けたという訳だ。
もしかしてその為にあんなに褒めてくれていたのだろうか…あんなに嬉しかったのに冷めて来る…
「ポーションでダメなら魔法水はもっとムリなのではないかしら?」
ウィスタリアは冷たい言い方にならないように気を付けたがやはり冷たい言い方になってしまった。
「私もそう思ったのだけれど…最近森で魔法水が発見されたって噂はその界隈で広がっているそうなの。ベゴニアが発見者だと思われているみたいだけど…」
「そうなんだ、それはいいけど…」
真の発見者がウィスタリアなのは家族では分かっているが世間では兄のベゴニアが発見者扱いになっているようだ。なぜかビヨンセにとって気になる所らしい。
「でもそれを私に相談してどうするの?」
「本当は見つけたのはあなたなんだから少しくらい分けて貰えないかなって…」
「それはもうムリよ。今は森の一部は立ち入り禁止になっているし、泉には兵士が見張っているのよ」
「そうなの…」
「一体どんなご病気なの?値段の張るポーションでも治らないなんて…お母様のご友人ならお金に苦労はしていないわよね?」
「たぶんね、心の病気だと思うのよね」
「心の病気?」
「ポーションで治らないのよ」
「じゃあなおさら魔法水でもムリでは…」
ウィスタリアは母の言いたい事が分からなかった。心の病気ならポーションでは治らない。なぜ母は自分にそんな事を言ってくるのか…
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