ウィスタリア・モンブランが通りますよぉ

もきち

文字の大きさ
上 下
3 / 33

第3話

しおりを挟む
 城の裏にある畑にベゴニアが満足そうな顔をして立っていた。



「これはベゴニア様、実験はどうなりました?あまり畑をいじらないでほしいのですが…」

「ああ、マリア。実験は成功だよ」

「それはようござんした…って、こ、これは…す、すぐに料理長に!」

 マリアはバタバタと駆け出していった。



 それを見送ったウィスタリアはベゴニアに言った。

「兄様、うまくいったのね。よかったぁ。ありがとう」

「いや、こちらも実験が出来てよかったよ」

 城の裏にある畑一面にはたくさんの様々なフルーツが実っていた。外国でしか育たないとされている葡萄にイチゴ、メロン、桃と多種多様なフルーツが実っている。



「それにしても…兄様、どうやったの?これ」



「フフフ、この栄養剤をまぶしたのさ」



「栄養剤?」



「そう、僕が開発した栄養剤だ。ずっと実験をしたかったんだ」

 ベゴニアは嬉しそうに大きなタルに入った栄養剤を見つめる。

 

「このフルーツ達は輸入してきた苗だ。植物園で少しずつ育てたフルーツの苗をこちらに移したんだよ。植物園には色々な苗を実験的に育てているからね。でもどれも少量でね。しかもさぁ植物園は王妃様のお気に入りでね。キレイな花を咲かせてほしいみたいなんだよね。たから僕は花を美しく咲かせる為だけの研究をしているって勘違いしている人も多いんだ。でもそれはもちろんフルーツや野菜にも適応する訳で…。でもそれらを広い畑で実験しないと行けないだろう?しかしねぇ国がなかなか予算を出さないんだよ。花なんて二の次だって感じでね。花だけじゃないんだけどって思っていたんだ。でも今回の件で予算が出るかもしれないね。フフフ」



 ベゴニアは不適に笑う。ベゴニアはウィスタリアの兄でもあるが、植物に特化したギフト持ちと呼ばれる国の重要人物でもある。そのベゴニアは王妃の為にキレイな花を咲かせる為に雇われている園芸担当な訳だがベゴニアは納得していない。

 数年前からベゴニアは植物が早く成長するための栄養剤を研究していた。魔石を壊さないと切っても切っても成長する植物アロエビナにヒントを得て、魔石はもちろん、葉や樹液、皮など素材を集めて少ない研究費で頑張っていたのだ。時にはキレイな花を咲かすためにと、経費を増やそうと働きかけをし、こっそりと栄養剤の研究費に回していたりもした。

 そして植物に特化したギフト持ちのベゴニアが魔力を注いだ事によりその栄養剤は完成した。

 あとは畑で実験するだけであった。



 今回の件で栄養剤が公になれば予算が大幅に増える事は間違いない。ベゴニアにとって喜ばしい事だろう。そしてそれは家族であるウィスタリアにとっても誇らしい事なのだ。



「ウィスタリア、食べてごらん。このイチゴすごくおいしいよ」

「本当、大きくて甘酸っぱい!こんなイチゴ食べた事ないわ。兄様、大成功ね」

「ハハ、ありがとう」



 ベゴニアはウィスタリアの実の兄である。出来損ないのウィスタリアはこの兄の事を周りには秘密にしている。比べられるのが嫌だというのもあるし、兄に迷惑をかけるかもしれないという思いもあるからだ。



 そんな兄にマリアが困っていると言っていた日に、今回のフルーツの件を相談したのだ。兄ならばどこかにフルーツを用立てる伝手があるかもしれないと思ったのだ。まさか作ってしまうとは思ってなかった。





 そして舞踏会の当日、来ていた各領主たちにフルールは振舞われた。甘味はいつもより甘いと絶賛され、舞踏会は大成功を収めた。その事により王族の目に留まり予算が増える事になってベゴニアも満足したようだ。



「フルーツが間に合ってよかったよぉ。これでリンゴ、オレンジとレモンのハチミツ漬けだけだったら王族の恥だったからね。ハチミツだって高価なものだけどね。フルーツは王族の力を見せつけるには持って来いのものだからね。これで私と調理長の首が飛ばずにすんだよぉ」

 マリアは満足げにウィスタリアに話す。



 舞踏会で領主たちは王族にゴマをするいい機会のようだが、その王族が貧素では領主たちに顔向け出来ないのだ。



「それにしてもベゴニア様はすごいね。あんなすごいものを発明してしまうなんてね」

「今回の件で予算が増えると喜んでいたみたいよ。でもこんなにすごいものなのにどうして今まで予算が増えなかったのかしら」

「王族たちが自分たちの遊ぶ金を使っちまいたいからに決まっているだろう。それかものすごくプレゼンが苦手かだね」

「後者かも…」

 ベゴニアはオタク気質で人付き合いは苦手だ。



「でもあの研究で早くフルーツや野菜が育つなら飢饉もなくなるし、経済も潤うってなもんだけどね…それも貴族が使い込んじまうかね…アハハ、はぁ、貴族に生まれたかったよ、ふう…」

 マリアはそう言って仕事に戻っていった。

「そうだよね…」




 兄ベゴニアが持っているギフトとは神様から生まれ付き頂ける能力のことだ。貴族だけでなく平民の子や、男女関係なく千差万別に与えられる。それをどう使うかは本人次第なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...