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ふたりの王子とアリアナ

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「やっと会えましたね、アリアナ嬢。私は次期国王を任命されましたベルナルと申します。私の事を覚えていますか?」

「もちろんですわ。私に結界魔法を施してくれた兵士さんでしょう?ずっとお礼を言いたかったのです。あの時は本当にありがとうございました」
 リアは頭を下げた。
「いえ、あれくらいの事しか出来なかった事を後悔しました。もっと出来る事があったのではないかってね」
「いいえ、十分過ぎでしたわ。でもまさかあの兵士さんが次期国王にお成りになる立場の方だったなんて驚きしました」
「それは私もですよ」
「あの時は本当にただの兵士さんだったの?」
「ええ、ユリウスがいましたし、私はずいぶん前にお役御免になった厄介者だったのです。ですから城から出ました。陛下からの反対もありませんでしたよ。人生にはそんな時も必要だとね。でもちょっとは引き留めてくれるのではないかと期待もしていたのですよ」
 ベルナルは少し哀しそうな表情を見せた。

「…でも必要とされてまた戻ったんですね」
「ええ、今の所は黙って陛下に従っています」
「私をどうしますか?」
 両親が前のめりになりリアを守ろうとした。ベルナルはクスリと笑った。

「どうするつもりもありません。正直最初はさっさと魔の森から連れ帰って王妃にさせ王子を産ませ私自身はとんずらするつもりでした。でもあなたは見つからない。生きているはずなのに捕まらない。なぜだ?王妃になりたかったんじゃないのか?と疑問に思いました。捕まらないようにしていたでしょう?」
「私が?」
「え?」
「私は捕まらないようにと言うか…生活環境を整えるために移動していただけですね。まさか探されているとは思わなかったので」
「そう…移動していましたね。全然見つからない。どうやって移動していたのです?」

 アリアナは魔の森で一人になってからの事を話した。それはモジャの事を抜きにした話だ。帰って来る馬車の中で叔父達と相談して決めた話だ。

 麻袋から地図を見つけたリアはその地図を頼りに一晩中彷徨さまよい、そしてやっと一軒の小さな家に辿り着いた。その小さな家は完璧な結界魔法が家全体に施してあり、リアが触れたとたん解除され、しばらくはそこで過ごす事にした。
 そしてその家にはあなたのおばあ様の本や私物が残されていた事を伝えた。孫であるベルナルに返したかったと言った。
 大事な事は聞かれない限り言うつもりがない話し方だ。

「え?おばあ様の本って、もしかして魔術の本とかかい?ぜひとも拝見したいな」
「ああ、彼はコルクス。私の従兄弟になる。コルクスにも見せてあげてほしい」
「もちろんです。場所をお伝えします」
「ベルナル様ではアリアナの件は諦めて下さると思っていいのですか?」
 父リベルが聞いた。

「陛下には無理やり連れ戻す事はしないと言っている。居場所も言うつもりはないよ。もちろん次期国王になる私と結婚を望んで下さるのでしたら連れて帰りますが」
「いいえ、望んではいません」
「ですよね。わかっています」
 麻袋の中身の地図の機能性や黒のショールやお金、4つの魔石の話をした。ベルナルは自分が何をしても触っても反応がない事がようやくわかった。黒のショールや魔石はそのままリアのもので構わないと言った。ばあちゃんがリアに渡したかったものはすべて受け取ってほしいとの事だった。魔術の本などもリアに残したのだったらリアに託すとまで言われた。

「え?でも…貴重な王妃様の技術でしょう?簡単に渡していいの?」
 ベルナルも苦手とし、貴族としての振舞いも話もとりあえず終わった。
「ばあちゃんもモグリベルが嫌だったんだと思う。だから隣国に行こうとしたんだ。じゃなかったら俺に託すはずなんだ。でもばあちゃんはあなたに託した。はあ、それもちょっとショックだったのかも…俺じゃなかったのかって」
「…」
「ベルナルはおばあ様っ子だったんだよ。母親が夜会ばかりでベルナルに無関心で、家庭教師に預けられっぱなしだったしな、で信じられるのは国王って存在だ」
 コルクスはベルナルに少々同情していたようだ。
「まっ嫉妬だな」
 ベルナルは静かに笑った。

「俺は陛下からめいじられた事とばあちゃんが残した次期王妃の行方を捜した。どちらかと言うとばあちゃんが言ったからかな、未来を導く王妃を助けてやれって。だから麻袋を渡して王妃にするために探した。アリアナ嬢もなりたいのだと思っていた。しかし探しても見つからないし、生きているなら連絡があるはず、死んだ事にしたいのはもう王妃に未練がないから、と思わずにはいられない」
「元々王妃になんてなりたくなかったもの」
「え?」
「私はユリウスが好きだっただけ、顔が」


 今までリアがどうやって過ごしてきたかを聞けてベルナルは満足をした。祖母が暮らしていた家がなかったのは祖母が死ぬ前に整理をしたのだと結論を出した。リアを導いた家は元の祖母の家ではなくただの小さな一軒家だった。そこにしばらくは生きていけるようにしていたようだった。
 ベルナルはその場所をアリアナに聞いて国に帰る際に寄ろうと思っていた。一軒家はボロで魔術の本が沢山ありその本を見ながら魔法円の勉強をして売って生活していたと言う。そして叔父さんのいる王都に向かおうとしたらベルナル達に出会ってしまったという話もした。

 笑い話になったがコルクスがあれ、でも移動が速くない?と疑問を言った。リアはまた余計な一言を言ってしまっていた。ショーンが慌てないようにとリアに合図をして、自分が近くまで馬車で迎えに行ったのだと言った。
 なるほど数日邸に居なかったのも頷けると、納得してくれた。そしてベルナルは紅茶を安く輸入させてくれるならと近い将来籍を移す相談をすると約束してくれた。うちのばあちゃんが要らない事を言ったのが始まりだったんだ。その償いだとベルナルは言った。

 ようやくモグリベルの問題が解決した。ショーンは盗聴が仕掛けられていない事を確認してタイを緩めた。
「アリアナ、最後に爆弾を落とすんじゃないよ」
「でも解決してよかったわ。これでもう追われる事はないのよね?」
 母はアリアナを庇う。

「そうよ、終わり良ければよね。籍の事も考えてくれるって。叔父様よかったね」
うふふ、とリアは胡麻化した。
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